分譲販売価格に比べ、中古で高値で売り出されている晴海フラッグの物件(写真:aki/PIXTA)

東京オリンピック選手村の跡地に建設されているマンション群、晴海フラッグ。2019年から分譲が始まると、応募が殺到し、抽選の最高倍率は266倍に達しました。

今年5月下旬からタワマン棟・SKY DUOの第2期販売が始まり、晴海フラッグの物件購入を検討している読者がいらっしゃるかもしれません。今回は晴海フラッグへの投資の是非について考えてみましょう。

「晴海フラッグ」とひとくくりしていいのか?

メディアやSNSでは、晴海フラッグについて「素晴らしい!」「イマイチ」と賛否両論が飛び交っています。今回、晴海フラッグに3度足を運び、住民、不動産業者、投資家を取材し、「晴海フラッグ」とひとくくりにして論じることの危うさを感じました。

SKY DUOの昨年の第1期分譲で、販売価格は最低4840万円(1LDK・47平方メートル)から最高3億4990万円(3LDK・161平方メートル)。低層階から48階まで、広さも価格もピンキリです。

購入者には、投資目的の中国人や日本の法人もいれば、居住目的の日本人もいます。居住者も、若いカップル、高齢夫婦、単身者などさまざまです。数戸まとめて現金でポーンと購入した富裕層もいれば、ペアローンを組んで背伸びして購入している人もいます。

タワマン棟には東京湾・お台場を一望できる都内屈指の眺望の住戸もありますが、板状棟には三方を別の棟に囲まれた住戸もあります。ただ、全体に緑が豊かで敷地に余裕があるので、別の棟に囲まれた住戸でも圧迫感はありません。

晴海フラッグで何かと話題になるのがアクセス。最寄りの都営大江戸線勝どき駅から徒歩20分かかり、大江戸線を使う住人にとっては「陸の孤島」となります。

一方、新たにできたBRTで新橋・汐留のオフィス街に通う住人にとっては「10分ちょっとで会社に行けて最高のアクセスです」(30代男性)という声もありました。

このように、晴海フラッグは実に多種多様。見方や立場によって、「便利だし、緑が多く、最高の住環境」(住人・40代女性)という賞賛もあれば、「駅チカじゃないタワマンって論外」(購入を見送った50代男性)といった批判も出てくるわけです。

居住目的の人にとっての晴海フラッグは、「まさにケースバイケース。お勧めとも、やめておいたほうがいいとも言えない」(不動産業者)という曖昧な結論になります。

晴海フラッグは国内有数の投資物件だった

では、投資目的の人にとってはどうでしょうか。投資の場合は、含み益や利回りといった客観的指標で評価することができます。まず、すでに分譲が終わっている物件の状況を確認しましょう。

これまでの販売では、分譲価格が周辺の相場よりもかなり安く設定されたこと、その後マンション相場が高騰したことから、購入者はかなりの含み益を抱えています。

ある棟の76.75平方メートルの物件は、6600万円で分譲され、現在ある不動産情報サイトに1億2280万円で売りに出されています。あくまでも一例ですし、希望価格で売れるとは限りませんが、購入価格の1.86倍になり、5680万円の含み益です。

年初から日経平均株価が急騰し話題になっていますが、ここ数年の上昇率では晴海フラッグに軍配が上がります。一般会社員も争奪戦に参戦し熱狂した通り、晴海フラッグは国内有数の投資物件でした。

問題は今後。今後を考えるうえで気になるのは、足元の賃貸の動向です。

晴海フラッグでは、500件とも600件とも言われる大量の賃貸物件の供給があり、賃料が下落しています。現在の月当たり賃料は、公式には坪1万4000円ですが、「坪1万2000円を下回る水準まで値引きしないと借り手がつかない」(不動産業者)ようです。

仮に上記の値上がり後の中古物件を購入した投資家が坪1万1500円で貸し出したら、表面利回りは約2.5%。物件にもよりますが、税金・必要経費を差し引いた実質利回りはゼロ%近辺でしょう。成約しても儲けはゼロで、空室だったら赤字となります。

つまり、新築時の抽選に外れ、中古で購入した場合、晴海フラッグで賃貸経営しても、賃料収入だけなら良くて収支トントン、たいてい赤字を垂れ流すだけとなります。

ちなみに、新築募集時の価格で購入できていた場合の表面利回りは5%近くになるため、貸し出しにより利回り収入を得ることができます。

今から中古で購入して儲かるかどうかは、物件価格が今後さらに高騰するかどうかにかかっています。

タワマン第2期販売に参戦するべきか?

現在、タワマン棟・SKY DUOの第2期販売が始まっています。第2期が最後の分譲です。今回もこれまでのように、投資家は濡れ手に粟の大戦果を期待できるでしょうか。

先日、第2期の分譲価格が公表されました。第1期と第2期で、階数・方角・間取りが同じで広さだけが異なる物件の坪単価は、以下の通りでした。

<第1期> 78.82平方メートル・1億0850万円 → 454万円/坪

<第2期> 77.30平方メートル・1億1760万円 → 502万円/坪

投機的な取引を抑制するためなのか、周辺相場や建設費の高騰を反映したのか、今回は10.5%の値上げになっています(物件にもよります)。ただそれでも、値上げ幅は小さく、周辺地域の相場よりはまだ割安です。

仮に、第2期の物件を購入し、即座に転売して20%の差益を得たとします。短期譲渡所得の税率は39.63%なので、税引き後の差益は約12%。そこから不動産取得税や売却時の仲介手数料(売却価格の3〜4%)など諸経費を差し引くと、実質的には6〜7%というところでしょう。

短期で転売するなら損をすることはなさそうですが、といって大戦果でもありません。より大きな差益を得るには、数年保有して値上がりを待つ必要があります。ただし、長く保有すると、逆に値下がりしてしまうかもしれません。

そこで、晴海フラッグへの中長期投資の成否を占うために、今後の物件価格の上昇要因と下落要因を確認しましょう。

上昇要因は、何といってもインフレです。近年マンションが住宅地や一戸建てよりも急上昇しているのは、マンション建設のための資材価格や工賃が上がっているから。今後も輸入物価の高騰や人手不足が続き、マンション価格を押し上げると見込まれます。


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晴海フラッグに固有の上昇要因があります。今年2月からBRT、5月から水上バスの運行が始まり、2050年頃には地下鉄の駅ができるなど、課題のアクセスが改善されます。保育園など生活施設も充実し、エリアの魅力が高まるでしょう。

なお近年、中国など海外の投資家からの資金流入が首都圏のマンション価格を吊り上げてきましたが、今後さらに資金流入が増えるかどうかは、「まだまだ増える」という強気派と「そろそろ限界」という弱気派の意見が交錯しています。

金利の動向が気がかり

一方、最大の下落要因は、住宅ローン金利の上昇です。三菱UFJ信託銀行がデベロッパーを対象に実施した調査によると、住宅ローン金利が0.5%上昇した場合、分譲住宅の販売価格が「10%以上下落する」と全体の16%が、「10%未満下落する」と56%が、合わせて72%が下落を予想しています。

晴海フラッグ固有の下落要因もあります。1つは、この地域の需給の悪化です。SKY DUOだけでなく、近隣の築地などでも大量の物件供給が予定されています。近隣の物件との競争では、アクセスの悪い晴海フラッグは不利でしょう。

また、入居率の低迷が続き、晴海フラッグのブランド価値が低下してしまうかもしれません。賃貸価格がまだ高いのか、もともと住む気がない転売目的の投資家が多いのか、とにかく空室が目立ちます。夜になると、電灯が光っている住戸はまばらです。

都内の不動産を仲介するMIKIAの高山亜希美社長によると、「都内の別のタワマンから晴海フラッグに移住したいというニーズは旺盛。ただ、実際に現地に行って、まだ閑散とした雰囲気があるので現時点では見送る方が多い」とのことです。

晴海フラッグに住んでみたい!

このように、晴海フラッグの物件価格は上昇要因と下落要因が交錯し、値上がりするかどうかは「プロでもよくわからない」というのが実態です。
投資の大原則は、よくわからないものには投資せず、不要なリスクを回避すること。

この原則に従うなら、マンション投資のプロでもない限り、晴海フラッグに投資しないほうがいいかもしれません。これは晴海フラッグだけでなく、他のマンションでも同様です(「インフレ・金利上昇、マンション購入は急ぐべき?」参照)。

ただし、晴海フラッグに「投資しないほうがいいかもしれない」という結論は、「住むべきではない」ということではありません。真逆で、晴海フラッグは住むには非常に魅力的だと筆者は思います。

15年ぶりに晴海を訪れて、あの殺風景な湾岸が緑豊かな街に生まれ変わったことに感動しました。エリア全体のゆったりした作りも素晴らしい。これまでタワマンには興味ありませんでしたが、「住んでみようかな」と思いました。先立つものがあればの話ですが……。

転売目的の投資家の熱狂は、もうないでしょう。今後は、施設・インフラの整備が進み、入居者が増え、住む街として晴海フラッグが輝くことを期待しています。

(日沖 健 : 経営コンサルタント)