子どもを守るのに、強さはいらないんです(イラスト:本田亮)

特別支援学級の対象となる子どももそうでない子どもも、すべての子どもがともに学べる学校、大阪市立大空小学校の初代校長として教育に力を注いできた木村泰子先生。

そんな木村先生が自身の子育てや教育現場での経験をもとに、子育てや人生に悩む人へのメッセージを一冊の本に詰め込みました。「自分を支える何か」が欲しいすべての人に向けたメッセージが詰まった本『お母さんを支える言葉』より一部抜粋し、3回に渡って掲載します。

子育て現役世代の方に読んでほしい、心のお守りです。

強さは捨てて、自分の考えを持とう

自分の子どもを守れるのは、親だけです。

お母さん自身が人のせいにしたり、SNSの情報に惑わされたり、噂に振り回されたりするんじゃなくて、自分の考えで、自分の子どもを守る。

たとえその行動が周りにどう思われようと、自分の子どものことは自分が一番よくわかっているのだから、それを信じて、母親は自分の考えで行動するのがすごく大事なのではないかと思います。

今は少し落ち着きを取り戻していますが、コロナ禍で非常事態が続いたとき、学校現場も家庭も揺れました。

子どもを学校に行かせていいのか。

持病のある子にとってはどれくらいのリスクがあるのか。

先生や教育委員会に尋ねたところで、全人類にとって初めての危機だったわけですから、誰もわかりません。そうなったら、親の判断で、子どもの安全を考えるほかありません。

考えるのも、行動するのも自分

いっぱいアンテナを張って、周りのことを知るのは大事。でも、たくさん情報収集をした後で、決めるのは自分です。考えるのも自分、行動するのも自分。自分で考えて行動したことでうまくいかなくても、人間って人のせいにはしないでしょう?

「自分で考えて、行動する」っていうと、「強くなること」だと思う人もいます。

でもね、子どもを守るのに、強さはいらないんですよ。強くなろうと思うと、「あの人みたいになろう!」とか「こうしなければいけない!」みたいな考えが頭をもたげてきます。

自分以外のものを自分の中にはめこんで行動しようとしてしまうから、無理が生じてしまうんです。そうすると、「あの人が、こう言ったから」とか、「ここでこう思ったから、私は強くならざるをえなかった」とか、人のせいにするものが周りにいっぱい出てきてしまう。

校長時代にたくさんのお母さんと言葉を交わしました。苦しんでいるお母さんほど「がんばらなくちゃいけない」「いいお母さんにならなくちゃいけない」と思い込んでいました。

「この子を守らなくちゃいけない。そのために自分で考えて行動しよう」というのと、「この子を守らなくちゃいけない。そのために、自分は鉄よりも強くならなくちゃいけない」というのは、ぜんぜん違うと思います。

「強くならなくちゃいけない」と思っているお母さんは、いつまでも強くなれないから、どこかでポキっと折れるんです。

「強くならなくちゃ」と思い続けているときは、ずっと空気を吸い続けている状態です。だから、ものすごくがんばっているのに、息が吸えなくなってしまうんです。

そんなお母さんに言えることは「がんばるの、やめなさい」ってことだけ。そうしたら、息が吐けます。そして、弱音も吐けます。

弱音を吐いたら、周りが変わる

周囲に頼られて、「自分がしっかりしなくちゃ」「がんばらなくちゃ」と思っていると、誰にも弱音が吐けないときがあります。

教員時代(校長になる前)の私自身が、まさにそうでした。

校長や教頭は頼りにできませんでしたし、逆に同僚の教師たちはみんな自分を頼っていましたから、しんどくても、そう言えなかったのです。「しんどい」「つらい」なんてこぼしたら、みんなに信頼されなくなるんじゃないかと不安でした。

でも、初めて校長になったとき、弱音を吐ける人になろうと、自分をアップデートしたんです。

「子どもに『くそばばぁ』って言われた……」

「失敗しちゃったらどうしよう?」

校長自らが率先して、誰よりも一番に、弱音を吐きまくったんです。

そうしたら、変化が起こりました。周囲の先生たちも、弱音を吐くようになったんです。

少しずつ、職員室が、弱音を吐ける場所になりました。そうしたら、誰も一人ぼっちにならなくなりました。

「困ったことがあれば、ここに来て言えばいい」──そんな雰囲気になったら、困り感を抱えた子どもたちが、次から次へと「助けて!」って、職員室に飛び込んでくるようになったんです。

いつのまにか、校長の私自身も、背負っていたたくさんの荷物を肩から下ろしたときのように、すごく体が軽くなっていました。「よく道も間違えるし、方向音痴だし、間違いもする。でも、これが私なんだ」って思えたら、ものすごく働くことが楽しくなっていきました。

ママ友にも言えない。

職場の人にも言えない。

だんなも頼りにならない。

学校にも、話せる先生がいない。

子どものことは全部私がやらなくちゃいけない。

こんなプレッシャーを抱えて、1人で奮闘しているお母さん、たくさんいます。

でも、「誰も頼りにできない」と思ったら、思い出してくださいね。自分の子どもがいることを。自分の子どもを頼ってください。そして、自分の子どもに、弱音を吐くんです。

実際に私が経験したことですが、今までしっかりしていたはずのお母さんが、子どもに弱音を吐きました。それを教えてくれたその子と、こんな会話をしたことを覚えています。

「なぁ、校長先生。ママに相談されたんだけど」

「ええなあ、あんた、ママに相談されたんだ」

「……どうしたらいい?」

「あんたは、どう思うん?」

「うーん。わからんわ。わからんから、俺、ママと一緒に考えることにする」

「私がママやったら、それってめっちゃうれしいよ」

「しんどい!」って吐き出そう

人間って、弱音を吐けなかったら、息ができなくなります。吐けなかったら、吸えないでしょう? つらいときは、「ああ、しんどい!」「もう、いや!」って、吐き出せばいいんです。

「今、お母さん、困ってんねん。立ち止まってんねん。なあ、どうしていいかわからへんねん。ねぇ、教えてよ」って子どもに相談すればいいんです。そうしたら、子どもはスーパーマンみたいに変身しますよ。

お母さんが自然に弱音を吐くようになると、子どもも自分がしんどいときに弱音を吐いてくれるようになります。

これって、最高の関係性じゃないでしょうか。


親も子も、スポンジみたいに、ストレスや溜め込んでいるものを絞り出すのがいいです。空っぽになったら、お互いにしんどさを受け止め合えるでしょう? 

どちらかがどちらかの溜め息を吸い込んで、もうこれ以上吸い込めなくなったら、ぎゅーっと絞り出せばいい。

本音を出し合えたときに、信頼関係は生まれます。危機を乗り越えるときにこそ必要なのも、信頼関係です。

本当に困ったときにつながるからこそ、信頼できるのですよね。とことん困ったときに「そばにいるよ」と誰かが言ってくれたら、それだけで「この人と一緒にいてよかった」って、思えます。

親子の関係性も夫婦の関係性も、小さな信頼の積み重ねでできています。

(木村 泰子 : 大空小学校初代校長)