(イラスト:うのき)

大人になってから資格取得や昇格・昇給試験のための勉強や学び直しを始めている人も多いだろう。そのうちのどれくらいの人が最初のモチベーションを維持し、目標を達成しているだろうか。三日坊主になってしまったり、自分なりに頑張ったつもりなのに結果が結びつかなかった人も少なくないはずだ。

『一生頭がよくなり続ける もっとすごい脳の使い方』を上梓した脳内科医の加藤俊徳氏は、脳にも基礎体力があるという。大人こそ身につけたい記憶力・理解力・集中力を底上げさせる脳の基礎体力のつけ方について5回連載で解説。第3回は前回に続いて脳の働きを活発化する「発火」(ファイアリング)を掘り下げます。

大人脳をフル回転させるための脳の準備運動とは

もっとすごい脳になるためには、いかに強いファイアリングを起こすかということと、いかにスムーズなネットワークファイアリングを築いて、情報を速く他の脳番地に伝導することができるかの2点が重要になります。

脳のファイアリングには、短期反応・中期反応・長期反応の3種類があります。脳番地の連携プレーがうまくいっているときは、次のような流れでファイアリングが起こります。

入力による最初のファイアリング/短期反応(最初の発火)→ネットワークファイアリング→中期反応(2度目の発火)→ネットワークファイアリング→長期反応(3度目の発火)という順番です。

短期反応では視覚系・聴覚系・運動系+感情系の一部が動きます。何かを見て反応すれば視覚系脳番地がファイアリングしますし、聞こえてきた物音に反応すれば聴覚系脳番地がファイアリングします。

短期反応は、情報収集に長けた入力系の脳番地が担当しているため、入力系ファイアリングと呼ぶことにします。

入力系ファイアリングは、見ている間、聞いている間、何かに触れている間だけ反応があり、対象物から離れると反応しなくなるのが特徴です。ライターをカチッと押している間だけ火がついて、指を離せば火は消えます。ちょうどそのようなイメージです。

3度の発火を起こすのがもっとすごい脳への近道

この最初の入力系ファイアリングで強い短期反応があった後は、そのままネットワークファイアリングが起き、中期反応(2度目の発火)へと引き継がれます。

たとえば、ずっと探していた時計についに出合ったという強い入力系ファイアリングが起きると、次の中期反応では、「欲しい、でも今は財布を持っていない。次に来たときには売り切れているかもしれない。そうだ、スマホのカード決済で買っちゃえ」など、理解系・思考系・伝達系脳番地がフル回転して強いファイアリングが起こります。

中期反応は、入力系ファイアリングによって得た情報を最適な方法で料理しているような段階です。

情報という名の具材を活かすために、炒めたり、煮込んだり、蒸したり。火加減を調節しながらおいしく調理するのが中期反応です。

中期反応からさらにネットワークファイアリングが起こると、記憶系や感情系の長期反応(3度目の発火)が起こります。

記憶系・感情系脳番地は、発火後も、90秒間ほどは働き続けていることが脳血流の測定からわかっています。

時計を購入した後も興奮が冷めやらず、胸がドキドキと高鳴ったり、嬉しくてニマニマしたりなど、購入の余韻を引きずっている感覚こそが、記憶系・感情系が働いている状態です。誰にでも思い当たることがあるでしょう。

長期反応を短期・中期と同じように料理にたとえるなら、火を消してもグツグツと沸騰し続ける土鍋のようなイメージです。

脳の枝ぶりをよくしておくと、理解力、思考力、決断力などが向上するため、各脳番地でファイアリングしやすくなり、短期反応→中期反応→長期反応までがスムーズに行われます。

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(イラスト:うのき)

最初の発火は強ければ強いほどいい

短期反応だけで終われば、それはただ見聞きしただけで、記憶には残りません。中期反応まで行ったとしても、結論が出ずアウトプットまで到達しないことがほとんどで、放っておけば記憶はそのうち消えていきます。


長期反応までたどり着けば、感情も動いて記憶に残りやすくなるというメリットがあります。

また、脳番地の連携プレーがスムーズだと、脳に余計なストレスがかかることがなく、日中の脳を自分のしたいことに集中させることができるように変わっていけます。 大切なのは、最初の入力系ファイアリングをいかに強くするか、連携プレーを行うために、各脳番地の働きをいかによくしておくかです。 もっとすごい脳にしていくために、聴覚系と視覚系のファイアリングの強さが大きいと、次の脳番地のファイアリングも強くなり、結果として脳がフル回転します。

しかし、興味も関心も小さい情報のファイアリングだと、他の脳番地まで伝導されません。

聴覚系と視覚系の脳番地はトレーニング次第でどんどん成長する脳番地です。基礎体力がついている視覚系・聴覚系とついていない視覚系・聴覚系では、同じことを見て、聞いて勉強していたとしても得られる情報の質と量に大きく差が出ます。


(イラスト:うのき)

頭の回転が速いと言われている人は、視覚系の精度が高い傾向が見られます。メールを読んでも、写真を見ても、同じ資料から得られる情報の量が多く、そのスピードも速いのが特徴です。

(加藤 俊徳 : 医学博士/「脳の学校」代表)