おかっぱ・制服の「ダンス集団」の知られざる軌跡
存在感を増す「おかっぱ・制服」のダンス集団。彼らが誕生して人気化するまでの軌跡を追いました(撮影:梅谷秀司)
「あなたたちはとても奇妙。それと同時にとても素晴らしい」
「20体の人形に魂が宿ったみたい」
「他のダンサーと一線を画している」
これは2023年、世界的オーディション番組「アメリカズ・ゴット・タレント」で決勝進出した日本のダンスチームに、審査員たちが興奮しながら贈ったコメントだ。チームの名前はアバンギャルディ。
メンバー全員(17名・2024年4月現在)がおかっぱに制服姿という、一度見たら忘れられない風貌。日本の歌謡曲などに合わせたダンスでは、ときにユニークな動きや顔芸を織り交ぜながら、キレキレかつ一糸乱れぬ動きで魅了する。
アバンギャルディはたちまち国内外で話題になり、SNSではバズを連発。イベントやテレビ・CMなどへの出演も相次いでいる。彼女たちはなぜここまで注目を集めているのか、プロデューサーで振付師のakaneさんと、メンバーのnonaさん・sonoさんにインタビューした。
「おかっぱに制服」スタイルが生まれた背景
――アバンギャルディの結成の経緯と、「おかっぱに制服」というスタイルがどう誕生したのか教えてください。
akane:2022年、テレビ番組のダンス大会に出場することになり、アバンギャルディを結成しました。大会用に振り付けをした作品が、(昭和歌謡曲の)「かもめが翔んだ日(渡辺真知子)」で、衣装はどうしようか、となって。曲の切なさや昭和の素朴さを表現したいと思い、制服をチョイスしたんです。インパクトも残したかったので、おかっぱにして、全員同じ格好にしました。
大会が終わった後、たくさんの人に注目してもらえていることに気づきまして、今後も活動していくうえでいいかも、とユニフォームにしたんです。
写真右からsonoさん、nonaさん(撮影:梅谷秀司)
――確かにインパクトがものすごくあります。このコンセプトを聞いたとき、メンバーのお二人はどう思いましたか?
sono:大人数のメンバーが同じ容姿で同じ動きをするって知ったときは、どんな風になるのか想像もつかなかったです。実際にみんなで衣装を着てみたときは、「気持ち悪っ」ていうのが第一印象でした(笑)。でもakaneさんが表現するものだから、間違いないと思っていました。
nona:みんなで同じウィッグを被っておかっぱ姿になったときに、すごい気持ち悪さと不気味さがあって(笑)。でもそれが人の印象に残って、私たちがたくさんの方に見ていただけるようになったのかなと思いました。
人の心を動かし、笑ってもらうことの難しさ
――akaneさんはこれまで、バブル時代を象徴する衣装や音楽での「バブリーダンス」や、大阪のおばちゃんに扮したダンスなど、ユニークなダンスを手掛けてきました。アバンギャルディもその流れが?
akaneさん
akane:そうですね。私はこれまでも、ほかの人がしそうにない突拍子もないことを思いついて、メンバーにしてもらってきました。彼女たちも面白がってくれているのか、「また変なこと考えたんやな」「言われたらやるしかないかな」みたいな感じなのか知らないですけど、ついてきてくれている。したくなかったら私のもとにはいないんじゃないかなと思います。
――振り付けや演出で、akaneさんが最も大事にしていることを教えてください。
akane:お客さんが見たときに、「面白かったな」「元気もらえたな」と思ってもらえることを大事にしています。私はお笑い芸人さんを尊敬していまして。人の心を動かすことそのものが難しいと思うんですけど、「笑ってもらう」はとても難しいことだと思うんです。芸人さんがネタを考えるのに、簡単なことはひとつもないというか。ダンスでも、笑わせることがどれだけ難しいか、常に感じながら作っています。ウケ狙いだけではスベるし、何もやらなくても面白くない。それなりの勝負に出ないとダメだけど、いい塩梅が難しいところだと思っていますね。
(撮影:梅谷秀司)
――メンバーのお二人から見て、akaneさんの振り付けや演出の魅力は?
sono:どの作品にも見ている人を楽しませたいとか、笑ってほしいっていう気持ちがたくさん込められています。あと、一つひとつの動きの角度や、表情も細かく決められているので、そこが作品の魅力になっているのかなと感じます。
nona:akaneさんの振り付けは、たった3秒のシーンでも、何日間もかけて作っていたりとか、こだわりがあるからこそ人を引き付けているんだなって思います。
――アバンギャルディの特徴のひとつに「表情の豊かさ」がありますが、YouTubeではモノマネの芸人コロッケさんとコラボし、メンバーたちが顔芸を教わっていましたね。
akane:コロッケさんのモノマネは、その人の特徴をつかんだうえで、ピンポイントで誇張するスタイルだと思うんです。片方の眉毛を動かすのも、そこだけを動かす筋力がないとダメだし、ちゃんと練習してやれているわけじゃないですか。コロッケさんに学べたら、この子たちも面白くなるんじゃないかなと思って、指導していただきました。
徹底的なブラッシュアップが作品の一体感に繋がる
――個性的な見た目の集団が、一斉に同じ動きをする様は圧巻ですが、一体感の秘訣は何ですか?
nona:振り付けを合わせるときは、動画を撮ってコマ送りにしながら、手がずれているとか、タイミングがバラバラになっているとか常にチェックして、ブラッシュアップしています。
sono:メンバー同士がすごく仲良くて、普段からたくさんコミュニケーションを取っているのも、作品の一体感に繋がっているかなと思います。リハーサルで結構な時間を一緒に過ごしているんですけど、オフのときもみんなで撮影したり、ご飯を食べに行ったり、家族以上に長い時間を過ごしていますね。
コロッケを参考にしていた!表情でも魅せるアバンギャルディ(撮影:梅谷秀司)
――完成度の高いダンスのために、舞台裏ではときに厳しい指導をすることも?
akane:ダンスに関しては、ここで笑ってほしいっていうポイントがあったとすれば、それ以外のところをお客さんに変に気にさせてはいけないと思うんです。動きが揃っていないとか、振りが間違っているとか。ダンスをきっちりすることは、面白いことを作る以前の大前提なので、できていなかったらはっきり言うようにしています。
nona:でもその厳しさも、akaneさんの作品に対してのこだわりが表れているからこそなので、私たちも怖いっていう風には感じないです。
アバンギャルディメンバーの信頼関係
――アバンギャルディのメンバーはどのように選定したのでしょう?
akane:一番は、「作る側と踊る側で意思疎通ができるか」です。私のダンスは、「ジャンルは何?」って聞かれてもよくわからないんです。いろいろなジャンルを混ぜ合わせて自分流のスタイルを作っているので、ジャンルはakane。そのダンスで、私が求めることや意図していることをちゃんと感じて表現できる人、私が思い描く世界を体現してくれるだろうなって人たちを選びました。
――たくさんのメンバーがおり、性格もそれぞれ違うと思いますが、信頼関係を築くために心掛けていることがあれば教えてください。
akane:チームって誰か一人だけが頑張ってもダメで、みんなで一つの目標に向かうことが大事なんです。最終目標はここだ、っていう同じものを持っていないと続けられないんですね。私は振り付けや演出を考えて、メンバーたちはどのように踊るかを考える。お互いすごくしんどい作業をしているのですが、大変であればあるほど、お客さんに楽しんでもらえる。きつい練習も一緒に乗り越えて、その先にあるお客さんの笑顔を見て、また頑張ろうって気持ちになるんです。その体験をみんなですることを大事にしているから、お互い信頼できているのかな。
目指す先が一緒なので、「面白くないな」「上手く踊れてないな」ってはっきり言いますし、「面白かったよ」「最高だったよ」とも言います。メンバーたちに「この動きは面白いかな?」って聞いたりもしますし、腹を割って話せる関係だなって思います。
国や言語を超えて人を楽しませるパフォーマンス
――イベントやテレビ・CM出演のほか、2023年末には紅白歌合戦に出場など、アバンギャルディへの注目が高まっていますが、その理由は何だと思いますか? 注目されることへの感想も聞かせてください。
akane:SNSで踊る動画がはやったりとか、学校の授業でダンスがあったりとか、ダンスを好きな人が増えているんだろうなって思います。そんななかで、アバンギャルディは見た目もダンスもインパクトがあるので、印象に残りやすい。見ていて元気になる感じとかも、気に入ってもらえているのかなと思います。
おこがましいんですけど、私は唯一無二のものを作るのがモットーなので、ほんの少しだけでもできているのかな。
(撮影:梅谷秀司)
nona:結成当初は、こんなに注目してもらえるチームになるとは思っていなかったので、少し戸惑いもあるんですけど、いろんな場所でパフォーマンスをさせてもらえることがとてもうれしくて、やりがいを感じています。
sono:akaneさんが面白いと思ったものを表現したパフォーマンスが、国や言語を超えて、世界中の方に楽しんでいただけていることがすごくうれしいです。
――日本だけでなく海外からも反響が大きいのは、なぜだと思いますか?
akane:アメリカズ・ゴット・タレントに出演させてもらったとき、審査員や観客は(ダンスに合わせて流れた)日本語の歌詞の意味はわからないだろうけど、「楽しんでもらえているのかな」っていうのは伝わってきました。ダンスって言葉がいらない表現のツールで、面白さも伝えることができる。面白いって自分たちで言うのは何ですけど、「楽しませたい」っていう気持ちは届くんだって思いました。
――メンバーのお二人は、アバンギャルディの活動で、特に印象的だったエピソードは何ですか?
sono:台湾で行われたフェスティバルに出演させていただいたことです。私たちはフェスに出演するのも、40分というステージも初めてで、最初は不安も感じていたんですけど、観客の方々が一緒に歌って踊ってくれて、一体感を感じられたライブでした。もっと世界中のいろいろなところで踊って、たくさんの方の反応を実際に見てみたいと思いましたね。
(撮影:梅谷秀司)
nona:今年、初めてアバンギャルディのワンマンライブを開催しました。ステージに立って、私たちだけを見に来てくださったお客さんたちを目の当たりにしたら、すごく感動して、これからも頑張れる力になりました。
寸劇や映像なども駆使したワンマンライブ
――ワンマンライブは、ダンスだけでなく、さまざまな設定の寸劇や映像なども駆使した総合エンタメで、会場がとても盛り上がっていました。
akane:私はいつもお笑いに元気をもらっています。なので本気のダンスとエンターテインメントを混ぜ合わせて、唯一無二のライブを作ることを目標にしました。初ライブで手探りだったんですけど、「このシーンはみんな楽しんでくれたな」「この音楽のときに沸いたな」など感じられたので、次はこういう風にやっていこうと、5月15日から始まるセカンドライブに向けて仕掛けを考えている最中です。
――ライブではプロレスの寸劇があり、そこではプロレスラーの蝶野正洋さんや、アナウンサーの古舘伊知郎さんなどの超大物も出演されていました。レジェンドたちをも巻き込む引力があることに驚きました。
akane:ありがたいことに、お忙しいなかご協力いただいて、とんだコントを一緒にしていただいて感謝です(笑)。見ていた皆さんも、「何を見させられてるんだろう」って思いながらも、「何かわからないけど楽しかった」って帰ってもらえたのかなとも思いますね。
――大阪出身のakaneさんにとって、2025年に開催する大阪万博への思いは?
akane:1970年の大阪万博のとき、私は生まれていなかったんですけど、映像資料を見たときに「生きてる間に経験したい」と思いました。たくさんの人が集まって、いろいろな最新技術があって、未来に対しての希望やワクワクがすごく伝わってきたんですよね。
なので、大阪万博の誘致活動がスタートするとき、「私もぜひ!」という思いで参加させてもらいました。若い子たちもどんどん参加して、万博を経験してほしい。そして大阪だけじゃなくて日本中が、万博をきっかけに、これからの未来を盛り上げていければなと思います。
世界中の人たちに楽しんでもらえるエンタメを作りたい
――最後に、アバンギャルディとしての今後の目標を教えてください。
(撮影:梅谷秀司)
sono:世界中のたくさんの方が、SNSでアバンギャルディの映像を楽しんでくださっています。すごくうれしいんですけど、やっぱり私たちのパフォーマンスを生で見てほしいっていう気持ちがあるので、世界中でツアーができたらいいなって思っています。
(撮影:梅谷秀司)
nona:SNSの影響で、いろいろな国にファンの方がいてくださります。各国のファンの方に会いに行って、直接パフォーマンスを見ていただける機会をたくさん作れたらいいな、っていうのが目標です。
akane:海外にはパフォーマンスやダンスを好きな人がすごく多くて、反応も日本とは全然違うなと感じているので、世界中の人たちに楽しんでもらえるエンタメを作りたいなと思ってます。自分たちが知らない国にも行って、世界に向けてどんどんパフォーマンスできるように頑張っていきます。
(撮影:梅谷秀司)
(肥沼 和之 : フリーライター・ジャーナリスト)