「映える服」はオン・オフで広く着回せ、足元を変えることで幅広いシーンで使える

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年齢を重ねたからこそ楽しめる服もあるというスタイリストの金子綾さん(撮影:梅谷秀司)

仕事において責任感が増すだけでなく、家事・育児などプライベートでも時間に追われることの多い30代以降--だんだんと自分のための時間を作ることができなくなり、「おしゃれ」から遠ざかってしまったという人も多いのではないか。

そんな人に、トレンドを追いかけるおしゃれではなく、「自分の印象をよく見せる服選び」をおすすめするのが女性誌などで活躍するスタイリストの金子綾さんだ。

ベーシックな服を中心とした女性らしいコーディネートで高い支持を得ている金子さんに、30〜50代の働く女性の服選び、手早くおしゃれを叶える、また自分らしい服を見つけるセンスの磨き方について聞いた。

シンプルだけどサマになる「一点映え」する服

--仕事に家事、育児と多忙な毎日を送られている金子さんは、現在はどんな視点で服を選んでいますか?

私は2人目を産んでから、シンプルだけど「ぱっと一枚着るだけでサマになる」服を選ぶようになりました。


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例えば、丸みのあるコクーンシルエットだったり、袖にボリュームがあったり、「ちょっとオーバーかな?」と思うくらいフォルムがしっかりと出るもの。いわば「映える服」ですね。

これなら何も考えずに、着るだけでコーディネートが完成するので、とっても楽です。


イッセイ・ミヤケから独立したデザイナーが立ち上げたニットブランド、CFCLのセットアップ。「1枚で映える」だけでなく、裾広がりのペプラムデザインでウエスト周りをすっきりと見せてくれる(撮影:梅谷秀司)

「映える服」は、オン・オフで広く着回せるところも魅力です。

ちょうど今着ているセットアップも、洗濯機で毎日洗って気軽に普段使いしている一方で、合わせる靴や小物をドレッシーにすれば結婚式にも出られます。

通勤なら足元をローファーに、休日ならスニーカーやサンダルに。組み合わせによって幅広いシーンで使えるので、お財布にも優しいですよ。


グルカサンダルなど足元を変えることで幅広いシーンで使える(撮影:梅谷秀司)

長く愛せる「本命」を見つけ出す

--では逆に、年を重ねてから避けるようになった服はありますか?

シンプルな服、カジュアルな服は着る頻度が減りました。若い頃は似合いましたが、30代以降は「ただ着ただけ」だと少し疲れて見えることもあるので要注意です。

色も、カラフルなものはカジュアルになりすぎたり、子どもっぽく見えてしまうことがあるので、あまり着ません。ベーシックカラーやニュアンスカラーのほうがコーディネートをまとめやすく、飽きもこないので気に入っています。

今年はたまたまモノトーンがトレンドで、アイテム数も豊富に出ているので、慣れない方もトライしやすいタイミングですよ。

格好よく着るには足し算・引き算の工夫が欠かせません。とくに、こなれ感を出すには「抜けをつくる」引き算が大切です。

でも、忙しいと手が回らないので、私自身はフォルムや素材感などによって「映える」、簡単にコーディネートが決まる服を選ぶことが多くなりました。

--トレンドの服を着ないと「おしゃれ」に見えないのでは?と考えてしまいますが、流行との付き合い方はどう考えていますか。

スタイリストという仕事柄、トレンドはチェックしますが、自分のファッションに取り入れるかは別です。

例えば、現在はローライズパンツが流行っていますが、私が好きなのはハイウエストボトム。はくだけで脚長効果があり、気になるお腹周りもすっきりとして、ヒールを履かなくてもスタイルがよく見えるんです。

おかげで、靴で無理をすることがなくなり、今はフラットシューズで過ごすことがほとんど。だから、たとえ今後どんなにローライズが流行ろうと、私はもうそこには戻りません。頑張りすぎないことも大切ですよね。

私にとって、ファッションは自分の機嫌をとるための手段なんです。トレンドを追うよりも、鏡に映った自分を見てテンションの上がる一枚を着るほうがずっと大切だと感じます。


金子綾(かねこ・あや)スタイリスト/1979年生まれ。2児の母。『VERY』や『Oggi』など、長年第一線で活躍する人気スタイリスト。著書に『a only.』(小学館)などがある(撮影:梅谷秀司)

--そうした一着に出会うために、必ずチェックすることはありますか?

私がいつも最も気にしているのは、「首元のつまり具合」です。首周りが中途半端に開いていると、急に老けた印象になってしまうんですよ。だから、欲しい服があるときは通販ではなく、必ずショップで試着をして、首元を確かめてから買うようにしています。

たくさんある服の中から長く愛せる本命の一着を見つけるには、試着こそ最良の手段です。お金もかからないし、着れば着るほど自分らしい服の傾向もわかってきます。

もし、自分に似合うものがわからなくなったら、センスを磨くという意味でも、まずはたくさん試着してみることをおすすめします。

今だから「甘さのあるアイテム」も取り入れられる

--年齢を重ねたからこそ、楽しめる服もあるのでしょうか?

もちろんあります。私の場合で言うと、30代はまだ自分らしさが定まっておらず、必死だったこともあって、シャープでハンサムなものを好んで着ていました。

でも、40歳を超えると少し肩の力が抜けて、フリルのデザインやチュール生地、淡いピンク色など、甘さのあるアイテムも積極的に取り入れるように。チャーミングに年をとっていきたいから、目指す女性像にもぴったりマッチしているし、選んでいて楽しいですよ。


甘さのあるアイテムも積極的に取り入れるようになったという。左からクードルのチュールTシャツ、cygneのボリューム袖が特徴のトップス。いずれも金子さん私物(撮影:梅谷秀司)

また、スタイリスト歴も22年になるとちょっと貫禄が出てきてしまった気がするので、周囲を威圧することのないように、いつでも親しみやすい人であれるように、という自戒もこめて甘さを取り入れています。

ジュエリーも、今は柔らかな印象を与えるパールをよく身に着けていますね。

ジュエリー、時計、鞄…高級品の選び方

--ジュエリーや時計、バッグは一生かけて使える分、高額な買い物になりがちです。金子さんは、どのように選んでいますか? 

いずれも、買う時の決め手は60代、70代になっても愛用している自分を想像できるかどうかです。

ジュエリーで言うと、今はパールを着けていますが、だんだん顔周りの輝きを維持できなくなってきたら、もっと大粒のものに変えるかもしれません。

若い時は大きなジュエリーをたくさん身に着けているおばあさまたちの姿が謎めいて見えましたが、光と華を足したかったその気持ち、今ならよくわかります。


顔周りを華やかにするパール。クードルのピアスを着用。時計はロレックスのヴィンテージ(撮影:梅谷秀司)

--では、時計選びはいかがでしょう?

時計は、その人のイメージに直結するもの。どんな時計を選ぶかによって「その日、どんな自分で過ごすか」が決まると思っています。

例えば、甘いファッションに甘い時計を足して全体的に甘くするパターンもあれば、ロレックスの大きな時計を足して「甘いだけではございません」と意思表示をするパターンも。たとえ誰も見ていなくても、こうした遊びが楽しいんです。

もともと時計が好きだったこともあり、昔からロレックスやカルティエ、シャネルなどの高級腕時計を少しずつ買い揃えてきました。それこそトレンドがないので長く使えるし、娘ができた今はいつか子どもたちに譲ってもいいかな、と思っています。


左から腕時計カルティエ、シャネル、クードルのバロックパールのネックレス。金子さん私物(撮影:梅谷秀司)

--バッグはどうですか?

ジュエリーや時計と同じく、おばあちゃんになっても使っていたいと思えるものだけを厳選しています。若い頃に集めたバーキンやシャネルのバッグは今でも重宝しているので、振り返ればとてもよい投資になりました。

当時は、まさかこれほど価格が高騰するとは思いませんでしたが、長い目で見てやっぱり欲しいと思えるなら多少高額でも思い切って購入し、財産にするとよいと思います。

また、ブランド物以外のバッグで言うと、オン・オフどちらも使えるデザインもたくさん登場しているので、通勤では肩にかけて、休日では斜めがけにして……と幅広いコーディネートを楽しむのも手です。

--これから50代を迎える自身の服選びは、今後どう変わっていくでしょうか?

基本的には今と変わらないと思います。でも、グレーヘアになったら似合う服もまた大きく変わるでしょうね。とくに60代から先は個として完成している世代だから、もう何を着ても似合う気がして。

今はなかなか着られないショッキングピンクのトップスに鮮やかなグリーンのパンツを合わせても可愛いでしょうし、ハードな印象の革ジャンを着こんでもきっとステキ。

そう考えれば、年をとるのも悪くないなって。だから、高齢になってもジャケットをサラッと羽織れるくらい健康でいることは今後の目標ですね。

(矢口 あやは : ライター)