モデル・タレントとして活躍するユージと、フリーアナウンサーの吉田明世がパーソナリティをつとめるTOKYO FMのラジオ番組「ONE MORNING」(毎週月曜〜金曜6:00〜9:00)。5月8日(水)放送のコーナー「リポビタンD TREND NET」のテーマは「映画の新たな流通の形『DVT(デジタル・ビデオ・トレーディング)』 その可能性は?」。情報社会学が専門の城西大学 助教・塚越健司さんに解説していただきました。


吉田明世、塚越健司さん、ユージ



◆第4の映画流通の形「DVT」

映画の新たな流通の形として「DVT」が登場しました。購入者は、サイト上で映像作品を再販売・レンタルすることができ、その収益の一部が制作者に分配されるのが特徴です。

吉田:「DVT」とは一体どのようなものでしょうか?

塚越:DVTはデジタル・ビデオ・トレーディングの略称で、クリエイターとフォロワーを合法的につなぐための新しい映像流通の枠組みです。一言でいえば、動画配信コンテンツが大量にある世の中で、作品を大事にするファンが適切に映像クリエイターを支援するための仕組みといえます。劇場、DVD、動画配信に続く第4の「映画流通の形」です。

どういう仕組みかというと、まずユーザーは4月に誕生した映像配信プラットフォーム「Roadstead(ロードステッド)」から、映像作品をDVT形式でデジタル購入します。通常の動画配信との違いは、ユーザーは購入すると「所有者」となり、自分で視聴する以外に「リセール」「レンタル」「スタニング(※日本語でいう“推し活”)」の3つの権利を持つことができます。

1つ目の「リセール」。デジタル上で購入した作品は、Roadstead上で他人に再販売ができて価格も自由に決められます。売買が成立すると、価格の2割が手数料として監督などの制作陣に収益が配分されます。

2つ目は「レンタル」。これも所有者が価格と期間を決めることができます。レンタル期間中、所有者は視聴できません。レンタル料の1割が所有者に入り、その他は手数料と制作陣の収益となります。重要なのは、ユーザーは「購入して終わり」ではなく、リセールやレンタルを通して制作陣を経済的に支えて、関わりをずっと持てるということです。

3つ目のスタニング。これは“推し活”です。友人を自宅に招いて上映会などができる権利です。例えば本来、購入したDVDを友達に観せることは、厳密にいうと法的にはダメですが、スタニングでは最初からOKとして「うるさく言わないよ」という意味があります。

◆黒沢清監督作品が数量限定で販売中

吉田:このDVTの形式で、すでに映画が販売されているのですか?

塚越:Roadsteadでは、4月にオリジナル作品として黒沢清監督の短編映画「Chime(チャイム)」を販売しています。黒沢監督は「CURE(キュア)」「トウキョウソナタ」「スパイの妻」などで知られる世界的に有名な監督です。

今回販売されている「チャイム」という作品は、2月にベルリン国際映画祭で上映されましたが一般公開はされていません。おもしろいのは、この作品を買えるのは999人までに限定されていて、価格は1万4,850円(99USドル)。購入制限があるので、人気が出ればリセール価格が高騰して、それが制作陣にも収益として還元される可能性があります。

これまで、DVDなどは販売された後は転売されても制作陣は何も受け取れなかったわけですが、プラットフォームで管理することで収益化できるということです。

ユージ:面白いですね。

吉田:映画館が個人になったみたいですね。

◆「DVT」が生まれた3つの理由は?

ユージ:レア感もあっていいですよね。この「DVT」の登場には、どういった背景があるのでしょうか?

塚越:背景として日経MJは、映画業界の3つの環境変化を指摘しています。

1つ目は「売れる作品」が偏るということ。日本映画製作者連盟によれば、映画館のスクリーン数に占める「シネコン」の割合は、2000年の4割から、2023年は9割まで高くなっています。シネコンは一般的に大資本でつくられた作品を上映しますが、一方で小規模な「ミニシアター」が衰退していて、個性的な作品は出づらい状況です。今回のDVTはその受け皿という意味があります。

2つ目は動画配信サービスの不公平感。調査会社GEM Partnersによれば、去年の動画配信の国内市場規模は5,740億円。4年間で倍増しています。ただ、動画配信では現状、再生数に応じた報酬などがもらえないので、制作陣は不満があります。

去年アメリカの脚本家や俳優がストライキをして交渉して、ある程度権利を確保しました。日本政府もこの流れをみて4月17日に取引慣行の実態を調査し、新しいビジネスモデルを構築するとしていて、今回の取り組みは先行事例になる可能性があるかなと思います。

3つ目は「海賊版の被害」です。コンテンツ海外流通促進機構によれば、日本の海賊版被害は2022年でおよそ9,000億〜1兆4,000億円。2019年から6倍に増えています。被害も大きいということで、Roadsteadはブロックチェーン(※仮想通貨など金融取引履歴などで利用される技術)を利用して所有者を明確にし、スクリーンショットや画面共有もできない仕組みにしています。これは海賊版対策という意味もあります。

◆映画業界を支える新たな形

ユージ:「DVT」について、塚越さんは、どのような印象を持たれましたか?

塚越:基本的には、業界の持続可能性を考えるファンの方にとっては非常に良い取り組みだと思います。(業界を支える手段として、これまでにも)クラウドファンディングがありましたが、また少し異なるツールで新しく支えるやり方なのかなと思います。

さらに言うと、今回Roadsteadで販売している作品「チャイム」は、999個が完売したら、収益は1,500万円程度とのことで、制作費の大半はカバーできますし、リセールなどでさらに収益は増えます。売る量や価格の調整がこれから必要になってくるかなと思います。それが上手くいけば、非常に面白い取り組みになるかと思います。いろいろな作品が出てくる可能性もありますので、ちょっとチェックしてみるのもいいかなと思います。

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5月8日放送分より(radiko.jpのタイムフリー)
https://www.tfm.co.jp/link.php?id=7713
聴取期限 2024年5月16日(木) AM 4:59 まで
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<番組概要>
番組名:ONE MORNING
放送日時:毎週月曜〜金曜6:00〜9:00
パーソナリティ:ユージ、吉田明世
番組Webサイト:https://www.tfm.co.jp/one/