小さな日本列島にある「世界にただ一つしかない特異な地質」なのかもしれない…第二のフォッサマグナはあるか

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日本列島の成立や、今後の変化や姿を考えるのに非常に重要な地質構造であると言われる「フォッサマグナ」。しかし、謎もまた多く、そもそもその範囲さえ確定していません。

南北で大きな地質学的な違いがあるフォッサマグナは、日本を取り巻く海洋の地形や成り立ちとの関係で見てくると、より一層その特異な姿が浮かび上がってきます。これまで、このフォッサマグナシリーズの記事では、地形・地質の特異さ、成立の背景、南北での違いなどを、ミステリーのごとく“推理”してきました。

そこで、日本のどこかに、フォッサマグナに酷似した特徴的な地形を探し、フォッサマグナの特異さを検証してきました。今回からは、世界に目を向けて、第二のフォッサマグナ探しに出かけてみます

*本記事は、『フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体』の内容から、再編集・再構成してお送りします。

島弧-海溝系が期待させる「マリアナ海溝」

ではいよいよ、海外のフォッサマグナ候補を見ていきます。

となればやはり、まず気になるのはマリアナ海溝でしょう。

そこには、地球上で最も深い溝であるチャレンジャー海淵があります。最新の計測では、その深さは1万920mとされています。

マリアナ海溝につながっているのがヤップ島弧-海溝系で、さらにこの会合点には南からカロリン海嶺が衝突しています。つまり、T-T-Rの三重点ということになります(図「マリアナ海溝」)。ここははたして、フォッサマグナになりえるでしょうか。

「本家」の配置をあてはめれば、マリアナ弧を東北日本弧に、ヤップ弧を西南日本弧に、カロリン弧を伊豆・小笠原弧になぞらえることはできます。背弧海盆はこの場合にはフィリピン海になります。では、これでフォッサマグナができるかといえば、結論としては、難しそうです。

まずマリアナ弧ですが、これは東北日本弧のように大きな島弧ではなく、また、地殻は大変薄く、基礎的な「体力」に欠けているようです。また、ヤップ弧は島弧のようですが火山はなく、島全体がほとんど低温・高圧の変成岩でできています。やはり「火の気」がないわけです。

これらの点で、マリアナ海溝はフォッサマグナとは大いに異なっています。

第二フォッサマグナ有力候補!?…「チリ三重点」

南米アンデス山脈の西にはチリ海溝があります。そこには、前述したように、海溝とトランスフォーム断層と海嶺が1点で交わるR-T-Fのチリ三重点があります(図「チリ三重点」)。この有名な三重点の可能性はどうでしょうか。

アンデス山脈は島弧としては異常に大きく、しかし背弧がないために「陸弧」と呼ばれています。基盤岩は古く、地殻は70kmもの厚さがあります。これはヒマラヤ山脈の地殻と同じくらいです。「体力」は十分です。

海側からはトランスフォーム断層が近くまで来ています。フォッサマグナにおいても、東西の両端がトランスフォーム断層によってできたという説がありますので、それを採れば同じような配列の地形となります。

その意味では、チリ三重点はフォッサマグナである可能性を否定しきれないように思われます。最近では日本の研究者によってよく研究されてもいて、今後の課題になってくるのではないでしょうか。

巨大地溝が興味深い「東アフリカリフトゾーン」

「巨大地溝」として最も有名なのは、人類の発祥の場と考えられた東アフリカリフトゾーン(東アフリカ大地溝帯)でしょう。幅35〜100km、総延長は7,000kmに及ぶ巨大な地溝帯には、実は三重点が存在します。

「アファー三角地帯」と呼ばれるところで、ここでは紅海、アデン湾そして東アフリカリフトを境界とする、アラビアプレート、ソマリアプレート、ヌビアプレートという3枚のプレートが1点で交わっています(図「東アフリカリフトゾーン」)。リフトの中ではホットプルームがマグマとなって、ケニア山やキリマンジャロなど、巨大な火山をつくりだしています。「火の気」は十分です。

今後、リフトにさらなるマグマがつぎ込まれれば、やがて拡大が起こって、アフリカ大陸は二つに分かれてしまうでしょう。もしもそのとき、そのどこかに島弧が衝突するようなことがあれば、まさにフォッサマグナができるのではないかと考えています。

日本とよく似ている!?…ニュージーランド

南太平洋のニュージーランドはよく日本に似ているといわれます。その国土はおもに、北島と南島という二つの大きな島からなっています(図「ニュージーランドの現在」)。

北島にはタラウェラなどの火山をもつタウポ地溝帯があって熱水活動が盛んで、地熱発電がおこなわれています。この地溝帯は北方にあるトンガ・ケルマデック島弧―海溝系の南の延長で、その背弧側が突っ込んでいる地域になります。北島には美しいタラウェラ火山があり、南島には富士山と似ていて同じくらいの標高のクック山を最高峰とする、氷河が発達したサザンアルプスという山岳地帯があります。

ニュージーランドは白亜紀の80Ma頃には、「ゴンドワナ」という大陸の東縁にくっついていました。ゴンドワナはオーストラリア、南極、そしてジーランディアという大陸地殻などからなる巨大な大陸でした。ジーランディアは面積が約400万km²もあり(現在の世界最大の島グリーンランドの約2倍)、いまも海面下に存在しています。

そしてニュージーランドは、ジーランディアの一部であるロードハウ海台の東縁にへばりついていました。

ところが、オーストラリアとロードハウ海台の間に、小さな割れ目ができます。のちにタスマン海となる割れ目です。やがて、この古タスマン海というべき割れ目はどんどん拡大していき、現在のようなタスマン海となりました。

それにともない、ニュージーランドも現在の位置に移動してきたのです。こうしたタスマン海の形成史は、日本海の形成史にそっくりです。

しかし、地質構造配列を見るかぎり、現在のニュージーランドには大きな断層などはなく、どうやらフォッサマグナはなさそうです。

ジーランディアが海に没したときに、もしも大量のマグマが出ていればタウポ地溝帯は北部フォッサマグナになっていたのではないかと想像しているのですが。

フォッサマグナをつくるための必要条件とは

世界には、海嶺の三重点(R-R-R)がいくつもあります。そして、三重点ではありませんが海嶺とトランスフォーム断層がぶつかって「T」の形になっているところもいくつもあります。

『フォッサマグナ』では、こうした地質とフォッサマグナについての関係も考察してみましたが、結論から言うと、これらがフォッサマグナに直結するかというと、そうではなさそうなところに落ち着きました(結論とは別に、考察自体は地球の地質を考える上で、色々な示唆を含んでいるので、ぜひご一読ください)。

日本周辺と海外で、フォッサマグナができている可能性のある場所を見てきましたが、その結果、いえることは「火の気」すなわち、マグマが上がってきた形跡がある場所が、意外に少ないということです(日本周辺では皆無でした)。もしフォッサマグナ形成の必要条件にマグマが上がってくることが含まれるなら、これらの地域にはフォッサマグナはできないでしょう。

ここでもう一度初心に返って、フォッサマグナができるための地形の必要条件とはいったい何かを考えてみたいと思います。

まず、大陸の縁にあることでしょう。それから、背弧海盆ができること、そこに別の島弧が衝突してくること、などでしょうか。

これが条件だとすれば、まず大洋の真ん中にある海嶺やトランスフォーム断層などでできる三重点は失格になります。また、海溝は世界に30ほどありますが、それらの会合点の背後に背弧海盆があるかどうかで絞っていくと、さらに候補は狭められます。

結局、候補として残るのは九州、東アフリカ、ニュージーランドの三重点くらいになりますが、本当にそれだけなのか、そもそも、三重点にとらわれすぎではないか、などと考えはじめると、検証するには膨大な作業(地質屋はこういう作業を「いも料理」といっています)が必要となり、ここで性急に結論を出すことは出来なさそうです。

当面の結論として、この地球上ではフォッサマグナは、やはり日本にあるものが「世界で唯一」と見てよさそうです。

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さて、第二のフォッサマグナ探しの旅が一段落したところで、再び日本列島の折れ曲がりに位置する本家フォッサマグナに立ち戻り、「フォッサマグナは日本に何をしているのか」というテーマで、いま、そしてこれからの日本列島に与え得る影響について考察してみたいと思います。

フォッサマグナ 日本列島を分断する巨大地溝の正体

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