【高橋 克英】「海外富裕層」が真に求めるもの…冬のリゾート、ニセコがウケた裏側にある富裕層の考え方

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今や世界中から富裕層がこぞって訪れる冬の高級リゾート地となった北海道ニセコ。どうやってニセコはインバウンドをものにしたのか。海外の富裕層を取り込む外国資本の戦略、日本の観光に足りていないものとは何なのか。ニセコの成功の背景を、リゾート地・富裕層ビジネス・不動産投資の知見をもつ筆者が、これらの謎をひも解く。

*『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』(高橋克英著)より抜粋してお届けする。

『なぜニセコだけが世界リゾートになったのか』連載第3回

『もうネタがない…!ニセコ最大の顧客「富裕層」から今、先進国にお金が流れつくワケ​』より続く

日本人的観光vs海外富裕層観光

中間所得者層などあらゆる年代世代所得ステージの人々が訪れるのが理想ではある。しかし、それは富裕層の離反を招く施策だ。彼らは混雑を嫌い、誰でも行けるリゾートを好まない。

概して日本人は、旅行や観光となると、どうしても「せっかくだから」と、あっちも見てこっちにも行って、できるだけ予定を詰め込み、元を取ろうとする。もう二度と行けないかもしれない海外の観光地などならなおさらだ。筆者もその口なのでよくわかる。

それはそれで旅の一形態ながら、ニセコが相手にするのは海外の富裕層だ。彼らは何某かの成功者で世界中の観光地やリゾート地を旅し、もてなしを受けてきた旅行・観光・レジャーの達人だ。

彼らは、主体的に自ら決めて動く。指示されたり、提案にそのまま従ったりするのは嫌いだ。決められたスキーコースでは物足りず、自ら自然を切り開いていくバックカントリースキーを彼らが好むのにもそんな理由がある。

何をするのかは彼らが自ら決める。スキーシーズンでも、グリーンシーズンでも、自ら楽しむので心配ご無用であり、「何もすることがないのではないか」は余計なお世話だ。

「何もしない」贅沢

海外富裕層は、多くのものをすでに手に入れており、モノよりも時間により価値を置く場合も多い。観光や旅行においても、何もしない贅沢、何もしない時間を求めている場合が多いという。

そもそも滞在するホテルからあちこち出歩いたりはしない。ホテルやコンドミニアムを我が家のようにして、すべてそこで過ごそうとするのだ。よってこうしたホテルには星付きレストランや最上のスパやプールが必要になる。そしてさまざまなプログラムやアクティビティをコンシェルジュの紹介で利用するのだ。

ニセコでは、パークハイアットニセコHANAZONOなどがその典型であるが、そもそもここに滞在すると、わざわざ食事は外で、アクティビティは別の場所で、とはならなくなる。ホテル施設やサービスも当然、そうした戦略のもと設計されている。

ニセコは「何もしない」ができるリゾート地だ。

羊蹄山の眺めがあれば十分、もっと自信を持つべきだ。ゲストが主役で、リゾート地は舞台。パートナーや家族、友人たちと語らう、くつろぐ、眺める、食事する。彼らの予定表に予定を詰め込もうとしない、アクティビティをむやみに増やさない。

ニセコの行方は

どの道、安っぽいサービスしか提供できないのであれば、なおさらだ。

ニセコ富裕層以外には敷居が高い観光地になってしまったかもしれない。しかし、それでいい。すべての顧客層が満足するスキーリゾートとなるキャパシティーは、ニセコにはないのだ。

「選択と集中」「売上より利益」というビジネス観点からも、今までの高級化路線を継続するのが得策だ。

誰でも行けるニセコにするのか、特別な日に行くニセコにするのか。前者になれば富裕層は逃げ、次のニセコをみつけようとするだろう。

『札幌では安心できない...ニセコにあって札幌にない海外富裕層を獲得するために必要なもの』へ続く

札幌では安心できない…ニセコにあって札幌にない海外富裕層を獲得するために必要なもの