1時間以上手を洗う、ドアノブやつり革が触れない…女性の強迫性障害は、出産 子の独立が引き金に!
これってただの心配性? と思うような症状でも、もしかしたら病気かもしれない。不安にさいなまれ、同じことを何度も何度も確認してしまう心当たりがある人は要チェックだ。
《病。キツイ。マジでキツイ。そのメンタルの病に、世の中で一番大事な『家族』と、世の中で一番大事な『芝居』を、絶対に、絶対に、侵食されぬよう、僕は生きるか死ぬかで、全身全霊で生きる》
2月5日、俳優の佐藤二朗(54)が自身のX(旧ツイッター)で投稿した“告白”が、大きな反響を呼んだ。さらに翌6日の更新で、《『強迫性障害』。小学生時に発症。》と病名を公表し、SNS上では、佐藤を心配する声が一層拡大した。
昨年、女優の遠野なぎこ、元モーニング娘。の道重さゆみといった有名人たちも、強迫性障害に苦しんでいることを公表している。いったいどのような病気なのか。
強迫性障害の患者を年間約200人治療している「おりたメンタルクリニック」の精神科医・織田宗太郎理事長はこう語った。
「強い不安やこだわりといった“強迫観念”と、その強迫観念を振り払おうとする“強迫行為”が生じる病気のことをいいます。強迫観念とは、頭から離れない考えのこと。自分で“ばかばかしい”とわかっていても、頭から追い払うことができないのです。強迫行為とは、強迫観念の不安を打ち消すために何度も何度も同じことを繰り返し行う行為のこと。“やりすぎ”“無意味”だと頭では理解していても止められない。それが『強迫性障害』の特徴です」
厚生労働省「強迫性障害(強迫症)の認知行動療法マニュアル」には、「生涯の間に100人に1〜4人が経験する、決して珍しい病気ではない」と書かれている。つまり、誰にでも発症する可能性があるということだ。
「発症原因は現状はっきり特定されていませんが、神経学的な要因や環境などが関与しているのではといわれています。また、脳内伝達物質であるセロトニンの不足が関わっている可能性も指摘されています」(織田理事長、以下同)
発症の要因としては、ストレスなどが関わっていることが多く、とくに女性の場合、結婚、出産後、月経前、子どもの独立といった、家庭環境や立場の変化によっても発症しやすいそうだ。
では、どういうタイプが強迫性障害になりやすいのか。
「真面目で几帳面、神経質な人がなりやすく、完璧主義で曖昧さが許容できない人などは注意が必要です。平均発症年齢は20歳前後。発症してから10年ぐらいたってから初めて受診されるケースが多いです。当院の場合、30〜40代の方が多く、50代以上の方もいます」
発症すると、日常生活や社会活動にも影響が出るといわれている。具体的にどのような症状が起きるのだろうか?
【不潔恐怖・洗手強迫】
ドアノブや手すり、つり革など、不潔に感じて触れない(強迫観念)。
汚れや汚染の恐怖を打ち消すために過剰に手を洗う(強迫行為)。
「とくに女性に多い症状です。手洗いを繰り返しすぎて、手荒れ、肌荒れを起こしている方がとても多いです。1時間以上、手を洗い続けるというケースもあります。コロナ禍によって、不安や恐怖がさらに高まり、より過剰になったという方も増えました」
【確認行為】
戸締まり、鍵のかけ忘れ。ガスの元栓の閉め忘れ、電気の消し忘れなどを過剰に確認してしまう。
「玄関の鍵をかけたかどうかの確認を、何度も何度も繰り返す。そして確認しても不安が残る。そのため出かけるまでに時間がかかり、遅刻を繰り返す。患者さんのなかには、閉め忘れ、消し忘れがないか、毎日スマホでドアノブやスイッチ類などの写真を撮って、安心を得ようとする方も」
【加害恐怖】
他人に危害を加えてしまったのではないかという不安が、頭から離れない。
「人混みを歩いているときに、他人と体が触れてしまい、“大丈夫ですか?”と何度も何度も相手に確認を取る。また、自分が危害を与えたのではないかという加害恐怖から、警察に被害届が出ていないか確認を取る方もいます」
これら以外にも、左上の症例リストを参考に当てはまる症状があるかどうか、チェックしてみよう。
一方、玄関の鍵をかけたかどうか不安になることや、外出先で物に触れた後、指先を必ず消毒するといった行動などはよくあることで、単なる心配性や潔癖症のようにも思えるのだが……。
「心配性や潔癖症との違いは、日常生活に支障をきたしているかどうかです。『強迫性障害』の場合、同じことを1時間以上繰り返したりするので、会社に遅刻したり、手をずっと洗い続けることで、常に手荒れやあかぎれ状態のままで生活をする。症状が悪化すれば、不安と恐怖で外出できなくなり、家にひきこもるケースもあります。このように社会生活を著しく阻害してしまうのです」
さらに強迫性障害は家族を巻き込んでしまうケースも多いという。
「家族に過剰に手洗いや除菌を要求したり、特定の場所に触ることを禁じたりすることもあります」
織田理事長によると、強迫性障害は、治療することで寛解状態に至る(治る)人が多いという。
少しでも日常生活や人間関係に支障をきたしていると感じたら病気を疑い、できるだけ早い段階で、専門医(精神科、心療内科)の診察を受けよう。