『ウルトラマンブレーザー』田口清隆監督、国会議事堂に注いだ特撮魂 破壊シーンも妥協ナシ
大団円を迎えた「ウルトラマンブレーザー」テレビシリーズに続いて、初の劇場映画『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』が公開される。テレビシリーズのメイン監督を務め、映画のメガホンを取った田口清隆がインタビューに応じ、本作の決戦の舞台として描かれる国会議事堂のこだわりについて熱く語った。
怪獣映画を撮りたい!田口監督の勝算
「ウルトラマンブレーザー」では、テレビシリーズで敢えて描かなかった要素がある。ウルトラマンでは欠かせない「正体バレ」で、主人公ヒルマ ゲント(蕨野友也)がウルトラマンブレーザーと一体化していたことは誰にも知られることなく、最終回は幕を閉じた。
そのことについて、田口監督は「ゲントとSKaRDの関係性はそのままに、いくらでも話を作れるようにしておきたかった」と理由を明かす。テレビシリーズ以外にも「ウルトラマンブレーザー」Blu-ray BOXIIに収録される完全新作ミニドラマ「SKaRD休憩室」を自ら監督するなど、「自分としては『終わった』という感覚が全くないのが正直なところです」と「ウルトラマンブレーザー」の現役感を強調しており、映画でも「参謀長だったハルノ レツが司令官に昇格したりはしているのですが、テレビシリーズからの関係性は基本変えていません」と言明する。
例年、映画は最終回2話と同時に撮影が行われており、「どうやっても僕らの頭は最終回に持っていかれるんですよね。それはキャストもそうだし、スタッフも一緒。やっぱり1話から積み上げてきた終着点が最終回ですからね。そんな中、劇場映画は、それよりもさらにひとつ高い山を作らなくちゃいけないわけです」とその苦労を明かす。
本作の脚本家には、テレビシリーズでメインライター(&シリーズ構成)を務めた小柳啓伍ではなく、中野貴雄が起用された。折しも小柳は、最終三部作(第23話〜第25話)の執筆に集中しており、どうしても準備期間に間に合わない。「自分の中で救世主というか、こんな時頼れる男はあの人しかいない」と田口監督が中野を指名した。
田口&中野コンビでは、「ウルトラマンギンガS」の名作「ガンQの涙」(第11話)や、「ウルトラマンオーブ」ではシリーズ構成&メイン監督として組んだ他、本作では、やはり田口監督が撮った第15話「朝と夜の間に」を執筆している。「中野さんは、僕の中では全幅の信頼を置いている脚本家であり、業界の大先輩であり、何なら戦友とも呼べるような存在です」とその力量を高く評価する。
一方、縦軸の絡まなかった第15話はともかくとして、リアル志向の『ウルトラマンブレーザー』と中野が持つカラーはある意味、水と油の感もあるが、田口監督にはひとつ勝算があった。「映画はやることだけは決まっていたけど、シリーズ構成外で、もともとテレビとは全く違う事を描きたいと思っていたんです。そこで今回はやりたいと考えたのが『怪獣映画』です。シリアスな展開や人間関係はテレビシリーズ全25話でしっかりと作り上げたので、その確立した『ウルトラマンブレーザー』の世界観を、怪獣映画という骨子に突っ込んでみました」
第1話の池袋を超える舞台を求めて
すでに公開されている予告映像からもわかる通り、決戦の舞台は国会議事堂周辺で、映画ならではのスケール感が期待される。
「第1話は池袋を舞台にしましたが、池袋のビルの屋上で実景を撮っている際に、プロデューサーの村山(和之)さんへ『1話でこれをやったら、映画はもっとすごいことしないと成り立たないですよね』と話したところ、村山さんも『あ〜』と嘆息を漏らしていて(笑)。国会議事堂ついては、以前、目の前の憲政記念公園をロケハンしたことがあって、撮影で使えることは知ってたんです。さらに遡ると、映画『20世紀少年 -第1章- 終わりの始まり』で国会議事堂が爆破されるシーンがありましたが、僕は当時、合成担当で現場にも立ち会っていて、いつか自分の作品で壊したいとずっと温めていた場所のひとつだったんです。それで『今回は国会議事堂しかない』と提案しました」
予告映像からは、その国会議事堂のミニチュアが破壊される場面も確認できるが、これには興奮を隠せなかったファンも少なくないと思う。ランドマークの盛大な破壊シーンは、怪獣映画の花形である。
「『ゴジラ-1.0』がアカデミー賞視覚効果賞にノミネートされたり、ガメラがNetflix で『GAMERA -Rebirth-』としてアニメ化されたり、海外では『ゴジラxコング 新たなる帝国』の公開が控えていますし、テレビでは東映のスーパー戦隊シリーズや仮面ライダーシリーズも頑張っている。今はまさに特撮マニア、怪獣好きとしては堪らない状況だけど、大作の怪獣や破壊描写はほとんど3DCGですよね。自分の理想としては、CGとかミニチュアとか関係なく、的確に使ってどうやって撮ってるか分からない映画を観たいんです。それでメイキングを観て、そこではじめて『こうやって撮っていたんだ!』と驚きたい。だけど一方で、『着ぐるみ怪獣が石膏ビルを吹っ飛ばしてる映像が見たいんだ!』という気持ちもあります(笑)」
「今のテレビシリーズのウルトラマンは、制作環境的にミニチュア特撮でやらざるを得ない。撮れる状況が整っているし、それで描いて来た世界観が確立されてもいるわけです。正直これが願ったり叶ったりで。理想論は置いておくとして、僕自身ウルトラマンの映画を撮るのは久々ですし、ミニチュアの国会議事堂の破壊には根っこにある『特撮好き』が大いにうずきました」
スケールにこだわった国会議事堂のミニチュア
これまで幾多の作品で破壊シーンが描かれてきた国会議事堂だが、そのミニチュアにも監督のこだわりがうかがえる。ウルトラマンシリーズをはじめ、たいがいの巨大特撮は、ヒーローや怪獣を50メートルクラスに設定し、ミニチュアを1/25スケールで再現することが多い。だが、議事堂は中央塔までの高さが地上から約65mと意外と大きいのである。
過去の国会議事堂の破壊シーンを振り返ると、たとえば第一作『ゴジラ』では1/33、『ゴジラ×モスラ×メカゴジラ 東京SOS』では1/40と設定上のスケールより幾分小さく作られ、ゴジラが大きく見えるようにされていた。そういった前例がある中、本作で田口監督が狙ったのは、「ウルトラマンの設定に合わせた直球の1/25スケールでの国会議事堂の再現」である。
「1/25スケールで国会議事堂を再現する上では、下積み時代からずっとご一緒している美術の稲付正人さんに相談したところ、最初は『予算的にキツイよ、それは』みたいな反応で(笑)。やっぱりとても大変なんですよ。だけど、最終的にはスタッフ全員が乗ってくださって『最後に盛大な花火を打ち上げよう』と実現に向けて動き出しました。やっぱり特撮映画好きとしては、既存の有名な建物が盛大に破壊されるのは、非常に燃えるところじゃないですか。今回の映画では、何よりそこをしっかり描きたいと思いました」と田口監督。
最後に、改めて映画の見どころを訊いてみた。「テレビシリーズを応援してきてくださったファンの皆さんには、ウルトラマンブレーザーとSKaRDが『怪獣映画』という枠組みを舞台に大暴れする様を存分に楽しんでもらえればと思います。また、この作品で初めて映画を観る子供たちがいるかもしれないので、そんな彼らに向けて『これぞ、特撮怪獣映画だ!』と、その魅力が届いてくれたら嬉しいですね」(取材・文:トヨタトモヒサ)
『ウルトラマンブレーザー THE MOVIE 大怪獣首都激突』は全国公開中