良質な“試行錯誤”を積み重ねられるめいろは、どのような子にもおすすめできる遊びです(写真:Graphs/PIXTA)

のべ数十万の子どもたちからポテンシャルを引き出し、のちに難関大学に合格するような「あと伸び」する子へと導くことで、数多くのメディアに取り上げられてきた高濱正伸氏(花まる学習会代表)は「学びになる遊び」の有用性を説いています。なかでも間口が広いのが迷路で、どんな子どもでも迷路を前にすると必ず解き始めるのだとか。その不思議な魅力について『あたまがよくなるめいろ まなび編』から一部抜粋し、ご紹介します。

“試行錯誤”の積み重ねでやり抜く力が育つ

「5分と座っていられなかった子が集中できるようになりました」

「昔、迷路に夢中だった我が子は算数・数学が得意になりました」

もう30年近く、このようなうれしい声を多数いただき続けています。

なかには、めいろにハマりすぎて驚くほど緻密な問題や工夫を凝らした作品をつくり始める子もいて、彼らは東大をはじめとした難関大学に進学し、自分のやりたいことに邁進する素敵な大人になりました。

こう申し上げると「めいろの何がそんなにいいのか」と疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。

たしかにめいろはルールが単純ですし、得るものなどないのではと思われるお気持ちもよくわかります。

めいろの最大の魅力は、遊びのなかで良質な“試行錯誤”を積み重ねられる点にあります。「あそこに行くんだ!」とゴールを見据え、自分で選んだ道に邁進する。これは勉強でもスポーツでも仕事でも、何かを成し遂げる過程で必ず行うことです。だからどのような子にもおすすめできる遊びなのです。

この試行錯誤を短時間で何度も繰り返せるめいろは、失敗を恐れず挑戦する強さや「やり抜く」という心のスタミナを養います。すると、たとえめいろの行き止まりに入っても「ゴールできないルートが一つわかった」と、前向きにとらえられるようになるのです。

これは地頭のいい子、成長とともに学力が大きく向上する「あと伸び」する子が、必ずといっていいほど備えている素養です。私たち大人においても、何かに挑戦してやり抜くことは成功するために必須のことですから、良質な試行錯誤の価値をご理解いただけるのではないでしょうか。

次にお伝えしたいのが「見える力」です。

めいろをたくさん解くと、サッと目で追っただけで通るべき道筋が「光って見える」ようになっていきます。さらに力がつくと、どこの分岐点に何通りのルートがあるかまで、達人さながらに「見える」ようになるのです。

これは算数でいうところの「場合分け」が感覚的にわかり、補助線1本が思いつかないと解けない中学受験の図形問題を解く際にも大いに役立つ「数理センス」が磨かれてきた証です。

同時に、試行錯誤と推論を重ね、たった一つのゴールへの道を見つけることは、論理的思考を重ねて答えを導き出す、「詰める力」の成長につながります。

この2つの力がつくことで、頭のよさの根幹を成す算数・数学という学問での地力を養えるわけです。

算数好きが備える数理センスが自然に磨かれる

一般的なめいろでも上記のような力が磨かれていきますが、そこにパズル要素や学習要素を加えていくと、同時に脳のいくつもの領域を刺激しつつ数理センスが磨かれるようになります。付与されたルールを守りつつめいろの構造を見抜くうちに、集中して深く考える力がつくのです。

めいろは未就学児でも楽しめる「学びになる遊び」ですが、せっかく買ったんだからとばかりに「頭がよくなるよ!」とか「おもしろいからやってごらん!」などと言って渡すことだけは、どうかおやめください。

楽しいはずのめいろが、こなすだけの「作業」になってしまいかねないからです。どんなことでも自ら楽しんでいるときの集中力は凄まじく、没頭している間はあらゆる能力が伸びるといっても過言ではありません。

意欲を呼ぶ「渡し方」とは

では、どのように渡せばいいのでしょうか。いちばんいいのは「さりげなく隠しておく」ことです。

隠すといっても、見つけられなければ意味がありません。リビングの別の本の下などに表紙がチラッと見えるようにする程度の隠し方で十分です。

そして、子どもが見つけるまで我慢しましょう。

新しいものに敏感ですから必ず気づきます。そうして子どもが自分で「発見」すると、好奇心のエンジンがかかるのです。

買ってもらった高価なおもちゃより、自分で拾ってきたどんぐりや石などに夢中になった記憶はありませんか。それと同じです。大人が熱心にすすめたり渡したりするほど子どもが興味を失うことは、往々にしてあります。

発見させて興味を抱かせたら、放っておきましょう。

何か聞かれたら、それにだけ答えればOKです。


「こうすれば簡単だよ」とか「なんでこんなやり方するの。こっちのほうが早いでしょ」などという「指導」が始まると、子どもはげんなりしていくばかりです。大人なら「やらされ仕事」でも頑張れますが、幼い子どもには無理というもの。もちろん脳も活性化しません。

子どもが「できた!」と教えてくれたら、その成功体験に思いきり共感してあげるのが、大人にできる最高の仕事です。

ぜひ、お子さんを信じ、お子さんが自ら選んで試行錯誤する姿を誇らしげに眺めてください。こで幾多の経験を積みながら成功体験を得ることこそが、「地頭のいい子になってほしい」という親の願いを叶える、いちばんの近道なのですから。

(高濱 正伸 : 花まる学習会代表)