1年間でも最も寒くなる2月、寒さから気持ちが塞ぎがちになり活動性が落ちる方も少なくないのではないでしょうか。ただ、次のことに心当たりがある方は要注意!

"甘いものを無性に食べてしまう"、"休日出かけようと思ったのに起きられない"、"ちょっとしたことに落ち込む"……。

もしかすると「冬季うつ」の症状が出ているのかもしれません。今回は、冬がもたらす不調、「冬季うつ」についてご紹介します。



「冬季うつ」の特徴とは

・やる気がおきない

・集中力が落ちてしまう

・食欲が出て体重が増えてしまう

・甘いものが食べたくなる

・ついついドカ食いをしてしまう

・過眠気味で寝ても寝てもねむい

「冬季うつ」の原因とは 冬の日照時間と深い関係が……

○まず「セロトニン」の不足

冬季うつは、日照時間の減少による「セロトニン不足」がひとつの原因と考えられています。

セロトニンは幸せホルモンといわれる脳の神経伝達物質で、日光を浴びると脳内で分泌されます。また、セロトニンから生成される睡眠ホルモンである「メラトニン」は、周りが暗いと脳内で分泌されて明るくなると分泌が止まります。

冬季は、日照時間が少ないのでセロトニンの分泌が減少。そして日の出も遅いために、セロトニンとメラトニンのバランスがくずれて、気分が憂鬱になってしまったり、朝起きられなくて過眠になってしまうといった症状が出てくるのです。

○次に「ビタミンD」の不足

もうひとつのうつの原因として忘れてはならないのはビタミンD不足です。

ビタミンDは日光を浴びることで体内でつくることができます。このビタミンDは幸せホルモンの「セロトニン」と「オキシトシン」の合成に関連しているといわれています。※

※Vitamin D hormone regulates serotonin synthesis. Part 1: relevance for autism. FASEB J. 2014 Jun;28(6):2398-413.

日照時間が減るとビタミンDの血中濃度が減少し、セロトニンやオキシトシンの分泌が低下し、季節性の気分障害や過食、睡眠リズムへの影響することなどが、医学的にも証明されています。

○糖質の過剰摂取は「セロトニン」不足による防御反応 

このように日照時間の減少でセロトニン不足になると、人間の体は何とかしてセロトニンの産生を増やそうとします。

そもそもセロトニンはアミノ酸の一種であるトリプトファンから作られます。このトリプトファンからセロトニンを合成する過程でインスリンの力が必要となるため、過食によって血糖値を高めてインスリンの濃度を高めようとはたらくわけです。

誰しも心当たりがある、炭水化物が食べたくて仕方がない衝動は、脳内のセロトニン不足からくる防御反応のようなものです。

イライラすると甘いものが食べたくなる、チョコレートを食べると気持ちが落ち着く、やけ食い・ドカ食いといった行動は、人間の防御反応なので仕方がないことと思われがちですが、ここで、注意しなければならないことがあります。

それは、この防御反応が裏目に出て不調を引き起こす「反応性低血糖症」であるということです。

○不調の元凶、「反応性低血糖」

本来、セロトニン不足を補おうと起こった糖質の過剰摂取が、インスリンの過剰分泌につながる、そこまでは良かったのですが、その後、インスリンの過剰分泌によって、低血糖症を引き起こしてしまうことが大問題なのです。

この低血糖という状態は、体にとってはとても好ましくないため、副腎という場所からドーパミンやアドレナリン、コルチゾールといった、インスリンのはたらきを打ち消すホルモンを多量に分泌します。

このことによって、交感神経の緊張状態を引き起こして、手の震えや冷や汗、さらにはイライラにつながり、その生活習慣が副腎の疲労という状態を作り出し、メンタルの不調を引き起こしてしまうのです。

「冬季うつ」にオススメな食習慣と栄養素

○1日3食タンパク質を食べよう!

三大幸せホルモンといわれているセロトニン、ドーパミン、オキシトシンの原料はアミノ酸です。

例えば、セロトニンはトリプトファンというアミノ酸から、ドーパミンはフェニルアラニン、チロシンから合成されます。また、オキシトシンはアミノ酸そのものが複数結合した物質となります。

そして、そのアミノ酸の原料は、食事の中のお肉、お魚、卵、大豆製品などに含まれるタンパク質なのです。

ですから、幸せホルモンを増やすためには、その原材料であるタンパク質を多く摂取すること、具体的には、朝からタンパク質を最低2品は摂取するように心がけることがとても重要になるわけです。

○脂質はホルモンの重要な材料、 摂るべき脂質・避けたい脂質はコレだ!

脂質は前述した副腎で作られるステロイドホルモンの大切な材料です。これらが不足してくると脳の働きが低下したり、ストレスを感じやすくなったりします。

それを防ぐためには、特にn-3系脂肪酸といわれる良質な脂をオススメします。

サバやイワシ、サンマなどの青魚には、脳の働きをアップさせるDHAやEPAなどのn-3系脂肪酸が多く含まれるので、意識して積極的に取りましょう。

反対に、よくない脂は、揚げ物やファーストフード、マーガリンなどに使用されているトランス脂肪酸です。

トランス脂肪酸は腸内環境を乱すことも知られています。そもそも前述のセロトニンやオキシトシンなどの幸せホルモンは、ほとんどが腸でつくられていることがわかっています。これが腸脳相関といわれている所以です。

また、トランス脂肪酸は腸内環境を乱すだけでなく、脳内の神経細胞の膜に影響をもたらし、神経伝達物質の分泌や神経細胞の機能に悪影響を及ぼしてしまうのです。さらに、心臓や脳の血管の動脈硬化の原因となることは有名です。

これらのトランス脂肪酸を多く含む食品はできるだけ摂取しないようにしましょう。

○「ビタミンB群」は、メンタルサポートビタミン!

メンタルサポートビタミン・ビタミンB群の中でも、特にビタミン6、ナイアシンはメンタルサポートビタミンと呼ばれ、セロトニン、メラトニン、そしてドーパミンやアドレナリンなどの神経伝達物質をつくるときに、補酵素として使われます。

つまり、ビタミンB6、ナイアシン不足になると、幸せホルモンといわれる神経伝達物質の合成がうまくいかないため、うつ状態や不眠症を来しやすくなるわけです。

○万能ビタミン「ビタミンD」は天然由来型を!

ビタミンDはただのビタミンではなく、それそのもので様々なはたらきをするホルモンのように考えられています。

最近では、糖尿病の予防やアレルギーの予防、免疫力の強化によって風邪やインフルエンザ、新型コロナの予防、がん予防や、子宮筋腫の予防や治療、不妊症や流産の予防など、様々な医学的根拠が示されています。

このような、素晴らしいはたらきのあるビタミンDですが、なかなか食事だけで不足した血中濃度を上げることは難しいので、サプリメントで補われることを強くオススメしています。

ここで大切なのは、天然由来型のビタミンD3の摂取ということがポイントです。

骨粗しょう症のお薬として使われるビタミンD製剤は、高カルシウム血症や腎機能を痛める副作用もありえますので、それらの基礎疾患のある方には、絶対にオススメしません。

海外の医学論文でも、Vitamin D Supplementation(ビタミンDのサプリメント投与)と表現されており、あくまでも天然由来型のビタミンD3のサプリメントにこだわってください。

○不調の陰に潜む「隠れ栄養失調」

冬季うつは、自然現象によって引き起こされる体の「状態」で病気ではないことがお分かりいただけましたでしょうか。そして、その「状態」は、栄養摂取のアンバランスで起こる「栄養失調」によるものだと言えます。

飽食の時代といわれている現代に、まさかの「栄養失調」と耳を疑われる方も多いと思います。

でも、皆さんの毎日の食生活の中に「栄養失調」の要因は潜んでいます。見た目には分からないこの状態を「かくれ栄養失調」と名付け注意を促し食習慣の見直しと、適切な栄養素摂取につながる改善指導を提案しています。

まだまだ寒い日が続くこの時期、気分の不調を来しているかた、あきらめないでください! あなたの状態は、栄養で改善します!

○著者プロフィール:梶尚志(かじ・たかし)

梶の木内科医院 院長総合内科専門医、腎臓専門医、日本プライマリ・ケア学会認定医、OND栄養療法実践医家庭医、総合内科専門医として患者を診察する中で、通常の診察では解決できない「体の不調」に栄養学的なアプローチから治療と生活指導を行う。