現代日本の夫婦はどんな家庭生活をしているのか。社会学者の山田昌弘さんは「2023年2月に1万305人を対象に調査を行った。その結果、7割の夫婦がセックスレスであると判明した」という――。

※本稿は、山田昌弘『パラサイト難婚社会』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

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■「ダブルベッド世代」という言葉が存在した

1970年代に、「ダブルベッド世代」という言葉が存在しました。和室が人々の生活空間から失われていき、代わりに洋室が増えていった時代です。西洋の映画やテレビドラマのブームも重なり、欧米風夫婦の生活スタイルに憧れる人も増えました。そこにベッドメーカーの広告戦略がヒットし、「ダブルベッド信仰」が世間に一斉に巻き起こったのです。家具会社の「新婚生活はダブルベッドから始まる」というイメージ戦略は成功し、当時大量に売りさばかれたダブルベッドたちは、今頃どうなっているのか……と、ふと私などは考えてしまいます。

そもそも20〜30代の夫婦と、40〜50代の夫婦、50〜60代の夫婦では、就寝環境は異なるでしょうし、会話の頻度も違うはずです。

欧米の生活文化では、カップル単位、家族単位で交流することが多いことから、多少なりとも「他人の芝生」の詳細が垣間見えるものです。しかし、そうした交流が少なく、他人の私生活は大っぴらに話題にすべきではないという遠慮深さが求められる日本文化では、他の家庭がどのように過ごしているか具体的に知る機会は多くありません。

■1万305人を対象に実施した「親密性調査」

そこで私は、夫婦の家庭生活における「パートナーの親密関係の変容に関する実証研究(以下、「親密性調査」)」を2023年2月に実施しました。コロナ禍という世界規模のパンデミックを経て、「夫婦の在り方」「家族の在り方」について多くの人が自問自答した時期にも重なり、リアルな結果が得られました。

調査対象者は、25歳から64歳までの総数1万305人。既婚者数6325人、独身者数3980人となり、回答は調査会社のネットモニターを用いています。内訳は男性が5204人で、女性が5101人。さらに年齢別に分けると25〜34歳が2154人、35〜44歳が2607人、45〜54歳が3030人、55〜64歳が2514人という構成になります(日本学術振興会科学研究費による研究/研究代表者・山田昌弘 課題番号20H01581)。

この調査結果を詳細に述べると、それだけで一つの学術書になってしまいますので、本稿では基本的な事例に絞り込んでお伝えしたいと思います。

■「趣味で結びついた夫婦」は意外と多い

まずは、家族形態です。「35歳以上で子どもがいる家庭」は、全体の8割強。その中で、「自分の親と同居している」が男性9%、女性5%、「配偶者の親と同居」も男性3%、女性6%であることがわかりました。つまり、「両親世帯と同居している三世代家族」という『サザエさん』的家族の在り方は、本当に少数派になったことがわかります。

では、核家族化した夫婦は、日頃どのような雰囲気で暮らしているのでしょう。

「一緒に楽しむ共通の趣味を持っている」という夫婦は、55〜64歳の男女共に4割強、25〜34歳では6割強という結果が出ました。案外、「趣味で結びついた夫婦」が多いことに気づかされます。調査からはわかりませんが、若い人は趣味が合う人を選んで結婚した人が多いと思われますし、年齢が高い夫婦は、結婚後どちらかの趣味に合わせたというケースが多いと思われます。逆に「趣味が重ならない」夫婦は、二人でいる時に楽しむことがあるのか、新たな興味がそそられるところです。

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■「週に数回程度しか夫婦で話さない」人が全体の3割

「毎日夕食を一緒に食べる」はどうか。こちらは、やはり働き盛りの中年世代(30〜40代)は4割から5割程度で、高齢世代(50〜60代)では6割程度と増えています。仕事で忙しい世代は、外食率も高まり、反対に定年退職が近づくシニア層になると、夫婦一緒に食事をする機会が増えるということでしょう。

ただ、注目すべきは「夕食を一緒に食べるのが、月に数回以下」の人たちが、全体で10%も存在することです。「一年で全くない」という人も3%存在します。母親であれば、夫と夕食を共にせずとも子どもと食べているケースも多いでしょう。ですが、それなら夫は1年365日、誰と食べているのでしょうか。ふと考えてしまいます。

食事といえば会話の時間です。「日常会話を毎日交わしている」夫婦は、全体の68%程度。一方、「週に数回程度」が21%、「月に数回以下」が8%もいるというのは、日本特有の夫婦像だと感じました。この項目もまた、ならば彼らは誰と日常会話を交わしているのか、気になるところです。しかも「週に数回程度しか夫婦で話さない」人が全体の3割近くになるのは、夫婦とは親密なパートナーシップとは言い切れない現実の様相を示唆しています。

■「夫婦で旅行に行かない」が全体の42%

休みの日に自宅で過ごす際、「夫婦で共に遊ぶ」割合を見てみましょう。

こちらもやはりというべきか、若い世代ほど多く、25〜34歳の男性は36%という回答が出ています。先ほど「趣味」で結びついた夫婦も多いことが窺えましたから、同じ趣味のテーマでゲームや映画鑑賞などをしているのでしょうか。ただ、55〜64歳になるとグッとその数値は下がり、男性14%、女性12%と、極めて低くなっています。60歳もしくは65歳で定年退職を迎え、自宅で過ごす人が増えてくる世代ですが、「夫婦で共に遊ぶ」が1割強しかいないとなると、老後の生活に少々不穏な空気が漂ってきそうです。同じ空間に存在しながら一緒に遊んでいない、または別々に時間を過ごしているということでしょうか。

余暇といえば旅行ですが、コロナ禍の影響がまだ残るとはいえ、「夫婦で旅行に行かない」ケースが全体の42%に上るのも、少々多い気がしました。もっとも55〜64歳夫婦になると、むしろ旅行の回数は増えるようです。中年期は家族旅行はなかなか時間もお金もかかるので頻度としては減少し、それに対して定年退職後は、時間とお金の余裕を投入する、そんなスタイルも見えてきます。周囲を見渡しても、日頃あまり仲が良いとは言えない夫婦も、たまに「一緒に旅行に行ってきた」という話も聞くので、無言ながら「旅行には行く」夫婦もかなりの割合で存在するのかもしれません。

写真=iStock.com/7maru
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■「手をつないで外を歩く夫婦」が4割弱

意外に予想が外れたのが、「出かけるときに手をつながない」の62%(全体)でした。要するに、「手をつないで外を歩く夫婦」が4割弱になるということです。もっと少ないのではないかと想像していたので、少々驚きました。もっとも世代間の違いはあります。当然といえば当然ですが、高齢夫婦になるにつれ「手をつなぐ」夫婦は少なくなり、55〜64歳の夫婦は男性70%、女性77%が「手を全くつながない」と答えています(25〜34歳の男性は28%、女性は41%)。若い世代は、欧米的な親密度の高いスキンシップを当たり前にしていると言えるのか、それとも恋愛気分がまだ残っているだけで、30年後は彼らもやはり、手をつながない夫婦になってしまうのか、気になるところです。

日本人は「愛情を言葉で表現するのが苦手だ」とよく言われますが、長年連れ添った夫婦となればさらにその傾向は強まるようです。「愛情を言葉で表現する」かどうかについて、「毎日」は8%、一方、「月に数回以下」は82%という結果になりました。「月に数回以下」をさらに掘り下げると、「愛情を言葉で表現することが全くない」が45%ですから、日常生活で「愛情」をどのように確認しているのか、という疑問が新たに湧いてきます。

■「7割の夫婦はセックスレス」という事実

言葉と同様に少ないのが「性関係」です。「毎日」は1%、「週に数回」が3%、「週に一回程度」が6%で、合計1割。残り9割は週一回もない。「セックスレス」にカウントされる「月一回未満」(28%)と「全くない」(41%)を合わせて7割という結果となりました。特に55〜64歳の高齢夫婦の「性関係が全くない」が男性51%、女性66%です。一方、25〜34歳でも男性10%、女性15%、35〜44歳では男性24%、女性33%が、「性関係が全くない」状態で、こちらは予想より多かったです。こうしてみると、「結婚」しても、子どもが生まれるかどうかはまた別問題という現実を、少子化対策関係者もより意識すべきではないでしょうか。

言葉による愛情や、肉体的愛情に至る前に、そもそも相手に好意的感情を抱いて結婚生活を営んでいるかという疑問もあります。ネット空間では特に、配偶者に対する悪口が跋扈(ばっこ)しているのも事実です。

山田昌弘『パラサイト難婚社会』(朝日新書)

「相手にときめきやドキドキを感じますか」という問いに対し、「よくある」は4%、「時々ある」が14%、「たまにある」が29%で、「全くない」が53%という結果になりました。より詳細を見てみると、「よくある」で一番多かったのが、25〜34歳の男性で11%でした。

反対に、「相手にときめきを全く感じない」トップは、55〜64歳の女性で、74%という結果になりました。要するに若い世代は、パートナーに対してある程度ときめきやドキドキを感じやすいが、高齢夫婦(特に女性)は、好意よりも倦怠(けんたい)・嫌悪感の方を強く抱いているということです。ちなみに、「一緒にいるとイライラするか」の問いで、45〜55歳の女性が「よくイライラする」「時々イライラする」を合わせて、40%に達していました。

■「同じベッドで寝ている夫婦」は全体の26%

肝心の「夫婦はどのように寝ているか」ですが、「同じベッドで寝ている」は全体の26%でした。「同室で布団は別」が36%、「違う部屋で寝ている」が36%という結果です。

しかし、世代別に見てみると、25〜34歳の男性は「同じベッド」が53%と、ほぼ半数を占める反面、55〜64歳の男性は18%でした。この世代の男性の3割は、「同じ部屋の別の布団」に寝ており、約5割は「違う部屋」に寝ているという結果が明らかになりました。「ダブルベッド信仰」世代も、長い月日の結婚生活の末、別々の空間で寝起きしているという結論は、少々寂しさを伴うものではありました。

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山田 昌弘(やまだ・まさひろ)
中央大学文学部教授
1957年、東京生まれ。1981年、東京大学文学部卒。1986年、東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。専門は家族社会学。学卒後も両親宅に同居し独身生活を続ける若者を「パラサイト・シングル」と呼び、「格差社会」という言葉を世に浸透させたことでも知られる。「婚活」という言葉を世に出し、婚活ブームの火付け役ともなった。主著に『パラサイト・シングルの時代』『希望格差社会』(ともに筑摩書房)、『「家族」難民』『底辺への競争』『結婚不要社会』(朝日新聞出版)、『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』(光文社)など。
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(中央大学文学部教授 山田 昌弘)