ChromeでのサードパーティCookie廃止という節目を迎える予定の2024年。メディアとマーケティングの世界はどのように変化していくのか?Cookieレスへの対処は言わずもがな、デジタルプライバシーへの対応や悪質なデジタル広告、さらにはジェネレーティブAIの存在などといった業界の課題は山積している。ブランド、パブリッシャー、そしてエージェンシーの人々にとって、誠実かつ分析に富んだ情報を掴むことが、より重要な年になってくるだろう。DIGIDAY[日本版]では、業界の最先端を走る米国のメディアとマーケティングを知りつくした、米DIGIDAY編集長のジム・クーパーに、業界の現況と展望を聞いた。

ジム・クーパー(Jim Cooper)/米DIGIDAY編集長。MediaweekおよびAdweekを経て、2020年にDIGIDAYに参加。20年以上にわたってメディアとマーケティング業界にフォーカスした高品質なコンテンツを生み出してきたキャリアを持つ。客観性と専門性を両立した透明性の高いジャーナリズムをリードし、読者の興味を引くアイデアを生み出すことに定評がある。

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――あなたの編集長就任から今まで、パンデミックや戦争、ジェネレーティブAIの台頭やデータ利用によるプライバシー侵害への懸念の高まりなどさまざまな出来事があった。マーケティング業界への影響は?

この数年間はますます状況が複雑化していて課題も多いのは確かだ。しかし、課題のなかには興味深い変化を促すものもある。DIGIDAYの編集方針を決める際は、そうしたマクロな視点を念頭に置いている。メディアそしてマーケティングの領域で最大のトピックは、GoogleのサードパーティCookie廃止とトラッキングの終了だ。2024年に入ってすぐ、GoogleはサードパーティCookie廃止における最初の一歩を踏み出した。最近まで果たして本当に実行されるのかという声も聞かれていたが、ついにそれが本格化した。現状では廃止に向けて準備を進めている企業とまったく手付かずの企業がある。しばらくは混乱が続くだろう。サードパーティCookieなき後にその空白をどう埋めるのか、決定打となる方法はまだ出ていない。ファーストパーティデータやアテンション指標をどう活用していくのかという議論をはじめ、多種多様なソリューションやコンセプトが取り沙汰されている。今後はそれらが本格的にテストされていくことになるだろう。そのひとつひとつを記事にすることができるのはDIGIDAYにとっては素晴らしい機会だ。また、デジタルプライバシーへの意識が高まるなか、マーケターは消費者に納得してもらえる方法を探りつつ、それと同時に世界各国で整備が進められている規制に従うことが求められている。2024年は米国にとっては大統領選挙の年だ。これによって偽情報・誤情報の問題がさらにクローズアップされるだろう。これに関しては興味深いジレンマがある。選挙に対する人々の関心は非常に高いものの、広告主やマーケターはニュースメディアへの出稿にはかなり慎重になっている。社会の分断が深まるなか、とりわけ報道分野のパブリッシャーはブロックリストの問題に悩まされている。しかしながら、おそらく11月の選挙に向けたこの数カ月のあいだ、米国の大統領選挙史上かつてないほど多くの広告費が投じられると予想される。

――AIの出現によって、デジタル広告にはどのような変化が起きるだろうか。欧米ではリスクを懸念し、規制の強化も始まっている。

厳しすぎる規制は望ましくないが、現状ではまだ不十分だと考えている。広告主はメディアに広告費を払うならば、適切なオーディエンスにリーチしたいはずだ。しかし今はまだ悪質な業者による詐欺まがいの行為が横行している。規制でこれらを抑制する必要はあるが、それは長い道のりになるだろう。こうした問題はAIによってますます加速するはずで、AIによってアドフラウドが爆発的に増加するようなことはあってはならない。規制が持つ役割は大きいだろう。AIができることは非常に多く、驚くほど効率性が高い。ただし、マーケターはその扱いについて慎重になる必要がある。まだごく初期段階にあるこのテクノロジーが、実際にどのように機能するのかを見極め、適切な活用方法を見つけるための試行錯誤が続いているが、ビジネスを推進するうえでのAI活用はまだ誰もマスターしていない。

――今年、あなたが特に注視すべきだと考えている、メディアとマーケティング領域のトピックとは?

2024年には、先ほど触れたサードパーティCookie廃止をはじめとするGoogleやAppleの反トラッキングの姿勢や、ジェネレーティブAIの話題のほか、インフルエンサーやクリエイターエコノミーの進化、エンターテインメント、スポーツ、ゲーミング業界とブランドの関わり方などに関心が集まるだろう。また、ストリーミング競争の展開にも引き続き注視したい。メディアとマーケティング領域における持続可能性とDEIも非常に重要なトピックとなるだろう。これらは、DIGIDAYというメディアにおいても、イベントでも重要なトピックだ。イベントを企画する際には、2つのことに留意している。ひとつは、登壇者の話からインスピレーションを受けられるようにすること。もうひとつは、実際に仕事に役立てることができる知見やノウハウを提供すること。上に挙げた各テーマに関する登壇者の話に、参加者がインスパイアされるだけでなく、問題を解決するためのヒントやノウハウを持ち帰ってもらえるようなイベントを提供していく予定だ。

――持続可能性の課題については、日本のマーケターのあいだではあまり議論されていないように感じている。アメリカではどのように捉えられているか?

ブランド企業は、環境に配慮しCO2の排出量をできる限り抑えるよう、大きなプレッシャーにさらされている。一方で、デジタルメディアの売買は必ずしも環境にやさしいものではないのも事実。今後はKPIとしてカーボン・フットプリントやサステナビリティ・スコアがより重視されるようになり、基準値を満たしていなければ、メディアパートナーとして考慮されないということも出てくるかもしれない。メディアバイイングやプランニングにおいて、持続可能性の問題がより重要視されるだろう。

――DIGIDAYの編集方針、変わらぬフィロソフィーは。

我々のフィロソフィーは、この非常に複雑でディスラプティブな領域において、読者の役立つ誠実で重要な記事を書くことにある。大事にしているのは量より質で、ニュースの分析と解説に力を入れている。変化の激しいこの世界で仕事をし、その時々で起きていることを詳しく説明してほしいと思いDIGIDAYを訪れる読者にとって頼りになる情報源であること。彼らがより良い仕事ができるよう情報を提供し、キャリアを築くうえでの指針を与えること。それが私たちの存在意義だと考えている。

――日本の読者にメッセージを。

マーケティング、メディア、テクノロジーという点で日本はアメリカ市場とよく似ているところもあるが、全く違う部分もある。DIGIDAY[日本版]には、米国でも参考になる興味深い記事が多い。パンデミックの影響が落ち着いてきたいま、日本でもアメリカでも、業界にとって非常にエキサイティングなコンテンツを届けられる年となるだろう。