就活生が生成AIを使うのが当たり前の時代に

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企業の新卒採用担当者を対象にした調査によると、学生が就職活動においてChatGPTなどの生成AI(人工知能)を「積極的に利用するべき」と答えた企業は6.3%。「必要に応じて利用しても問題ない」の64.2%と合わせると約7割が肯定的だった。

また、学生が就活のどのような場面で生成AIを利用するのが望ましいかという質問には「業界・職種研究」の26.2%が最も多く、次いで「企業分析」が22.5%、「今後のキャリアや自己分析などの思考整理」が17.5%だった。

「AIで調べてもいいから最低限の知識をもって面接に臨んで」

この調査は、ベネッセ i-キャリアが運営する新卒向け就活サービス「doda新卒エージェント」および新卒オファーサービス「dodaキャンパス」の顧客企業を対象としたもの。

ChatGPTやGoogle Bard、Bing AIなどの生成AIを使うと、それらしい文章がたちどころに出てくる。社名を入れて「どんな会社?」と聞けば、会社の歴史や経営理念、事業内容や直近の取り組みを簡潔に整理してくれる。

さらに「新卒社員が採用面接を受けるときに、志望動機をどう答えればよいか、アドバイスしてください」と頼むと、「以下のポイントを押さえることが重要です」「具体的には以下の流れで回答するとよいでしょう」といった提案までしてくれるのだ。

調査では、就活で生成AIを「利用するべきではない」と答えた企業が10.8%あり、その理由は「生成AI等に頼らずに選考に臨んでほしいと考えるため」が52.1%、「生成AIは信ぴょう性・信頼性などの観点でリスクがあるため」が28.8%を占めている。

上場企業で採用面接を担当することもある40代の男性マネジャーAさんは「安易に使ってほしくないという気持ちはすごく分かる」としつつ、「どうせ完全に禁止しきれないなら上手に使ってもらうしかないですよね」と諦め顔だ。

「そもそも、会社の事業についてまったく調べずに来る学生は少なくないんです。それなのに『休みは?』『福利厚生は?』などと聞いてくる。ChatGPTでもなんでもいいから、最低限の知識を調べて面接に臨んでくれた方がマシですね」

就活生の基本的な力を見極めにくくなる

Aさんは、ある有名大学のキャリアセンターのコンサルタントから、武田薬品工業を志望する学生の模擬面接で、あまりの勉強不足に驚いたという話を聞いたという。

「タケダをひとことでいうとどんな会社か、と学生に尋ねると『アリナミンの会社』と答えたそうです。でも、タケダは医療用医薬品で世界有数の大手企業で、オンコロジー(がん)の領域では世界トップクラス。売り上げの大半を海外であげています。日本の消費者向け医薬品なんて微々たるもので、2021年にはついに事業ごとファンドに売却されました。その程度のことを頭に入れずに面接に臨もうとするなんて、会社をバカにしていると思われても仕方ないでしょう」

普通の大学生にとって会社のイメージはテレビCMなどで形成されるのかもしれない。試しにGoogle Bardに「武田薬品工業とはどんな会社ですか?」と尋ねたところ、答えの中に「アリナミン」の文字はなかった。

Aさんは「あまり恥ずかしい状態で面接に臨んで欲しくない」と有効利用に期待している。

一方、別の会社の人事部で採用担当を務める30代のBさんは「いまから暗澹(あんたん)たる気持ちになっています」と明かす。

「これ、回答者自身がAIを実際に使っているんですかね。恐ろしさやリスクをちゃんと考えたのではなく『別にいいんじゃない?』と軽く考えていると危ないと思いますよ」

Bさんが特に恐れているのが、就活生の基本的な力を判断できなくなることだ。

「これまでは志望動機などの文章を書いてもらうことで、基本的な文章力や論理的思考をチェックすることができました。一読して『これはダメだな』という人を見抜くことができたのです。でも今後はAIが書いた文章を読んで『この人は頭がよさそう』と誤った判断をしてしまう可能性が高まりそうです」

また、面接担当をしていると、自己分析にしても志望動機にしても、どこかの本に書かれていたようなものばかりで耳を傾けるのがとても苦痛だったが、それがAIに代わるだけではないかと危惧している。

「たぶん、みんな考えることは同じで、AIに対策を聞いて準備してくるでしょうね。それでみんな横並びの答えになってしまう可能性がある。それも、結構ハイレベルな答えが並んでくると、誰がどういう適性を持っているかとか判断しにくくなってくる。これまではやってこなかったオフィスでの入社試験をする必要があるかもしれません」