仕事相手に良い印象を持ってもらうにはどうすればいいか。コミュニケーションコンサルタントの吉原珠央さんは「自分が話したいことを一方的に話し続ける人は悪い印象を与える。相手に合わせて話題を選び、話す長さを考慮するよう心掛けてほしい」という――。

※本稿は、吉原珠央『シンプルだからうまくいく会話のデザイン』(ワニブックス)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/Farknot_Architect
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Farknot_Architect

■初対面では感じの良い人だったのに…

以前、複数の企業の方が集まる懇親会でたまたま知り合い、会話をさせてもらったYさんという女性がいました。彼女は、社交的で言葉遣いが丁寧で、親しみやすい雰囲気を持っていました。

一見すると、Yさんは魅力的で、初対面で感じの良い人という印象を十分与える女性でした。ところが、話し始めてみると、私はとても疲れ始め、早く会話を切り上げたいと思うようになってしまったのです。

その理由は、Yさんが会話の中で、第三者の人たちの話ばかりをすることにありました。

たとえば、「お子さんはいらっしゃいますか?」「何年生ですか?」などと聞かれて私が端的に答えると、Yさんは「私の友人の弟さんご夫妻のお子さんも同学年で、中学校受験を控えていて……」と、私の知らない第三者についての話を3分以上も話し続けるのです。

■面識のない人の話題が続き、疲労困憊

ようやくその話題が終わったと思えば、今度は、「お子さんたちは、算数は得意ですか?」と質問されました。それについても端的に答え、「Yさんのお子さんは、いかがですか?」と、質問をふりました。

そして「いや、2年生くらいまでは成績が良かったのですが、学年が上がるにつれ成績が落ちてきてしまって」と言うので、「学年が上がるにつれて内容が難しくなってきますものね」と、私は反応しました。

すると「子供の友達で同じ塾に通うEちゃんという子がいて、その子の集中力がものすごくて……」と、またしても、私とは面識のない人の話題を延々と5分間も話していたのです。

Yさんは決して悪い人ではなかったですし、よほどその話をしたいのだろうと思い、私は穏やかな表情で、適度な相づちなどを入れながら、最低限の礼節を持って聞き役に徹していました。

しかし、私への質問は全て、自分が好き勝手に話したいことの伏線を敷いているだけのことだとわかり、それによってかなりの体力を消耗し、さすがに疲れて頭がクラクラしてきてしまいました。このように疲労感を抱くことで、話を聞く集中力は下がり、ストレスから「早く話が終わらないかな」と、そればかりを考えてしまったのです。

■「自分の話を止める」という決断が大事

Yさんのように、社交的で、初対面の人とも、話がすらすらとできて感じの良さもあるというのに、相手を聞き役から解放する配慮がないまま、自分ばかりが好きなように話し続ける人は少なくありません。

結局、感じの良さという印象を与えることができたとしても、そのことだけで「話していて心地いい人」「尊敬できる人」「付き合っていきたい人」などといった、信頼関係へ発展させることにはならないのだと実感したのでした。

聞き役だった私の反応が「この人、きっとこの話題に興味があるのね」と、Yさんを勘違いさせていた可能性もあるかもしれません。ですが、相手がその話題に興味を持っていようと、なかろうと、実はあまり関係ありません。

聞き役の疲労感をおもんばかって、自分が話すのを止める決断をすることは、感じの良さを与えることより、はるかに重要な意味があります。

会話を通じて、互いの関係性をうまくつかめる人は、まずは、自分が話す内容や姿を、客観的に観察してみることです。

■相手を置き去りにしない3つの注意点

その際、気をつけることは以下の3点です。

・その話は相手にとって意味があるのか?

・自分ばかりが1分以上、話していないか?

・第三者のことより目の前の相手の情報(状況)を自分は知っているのか?

これらの問いを頭の中で答えてみましょう。すると、「自分が話したいだけで、相手にとってはどうでもいい内容だ」「今は5分しかないから、他人の話ではなく目の前の相手としかできない話題に集中しよう」「そういえば、相手について何も聞いていなかった」「自分の話を一方的に相手に聞かせているぞ」などと、気づくきっかけとなるでしょう。

第三者の話を当たり前のように長々としてしまう人は、目の前にいる会話の相手を置き去りにしていることに気づかず、気分よく自分の世界に浸っていると思われても仕方がありません。

相手を置き去りにする会話を見直し、会話の相手に合わせた話題選びや、話す長さなどを考慮できる人としての人生を歩んでいくことで、あなたの交友関係はより豊かさを増していくのです。

■国内トップ企業の社長の驚きの第一声

何年か前に、日本を代表する某企業の社長A氏について、あるエピソードを聞いて仰天したことがあります。それは、某企業の社長で外国籍のB氏が、初めてA氏の会社に訪れた、重要な会議の日のことです。

もともと、A氏の企業側からの提案で会合することとなり、多忙を極める両社長の秘書たちで事前にスケジュール調整が行われ、ようやく会える日が決定したという経緯があったそうです。

そして会議の日、案内された社長室のドアを開けて流暢な日本語で「こんにちは。初めまして」と、笑顔で切り出し名前を伝えたB氏に対してA氏は、「外国人だったんだ」と、反応したというのです。

その話を聞いて、私は思わず耳を疑いました。その後、A氏は自己紹介をすることもなく、本題に入ったそうですが、その会議の内容について、A氏と部下たちとのコミュニケーションがうまく取れていないことや、議題のビジネスプランに関してのA氏の知識不足も露呈し、結局、その後、両社はうまくコラボレーションすることができずに終わってしまったとのことでした。

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■無礼なひとことが会社の命運を左右する

A氏のように、日本を代表するような企業を背負う社長という役職に就く人物であれば、それなりの実績があり、大きな組織のトップとして多角的に優れた能力を持っている方であることは想像できます。

ただ、「外国人だったんだ」という言葉が、どれほど無礼であるかを理解せずに発言してしまう人物がトップであることは、老婆心ながら心配になってしまいます。

その理由は、そうした人が、企業の収益や国際社会への展開につながるような重要な会話で失言を繰り返し、不信感を相手に与えるリスクはもちろんのこと、そうした経営者をそばで見ている優秀な社員たちが「社長がこのレベルでやっていけるのか」と、離れていく可能性すら無視できないからです。

全ての企業経営陣は、無礼な言動が、企業から優秀な人や良質なアイディアを逃してしまう要因となり得ることを理解し、用心する必要があるはずです。

無礼さがビジネスにおいて、人間関係や収益、ブランド価値などに、いかに大きな悪い影響を及ぼしているかは、アメリカのビジネススクールで「職場の無礼さ」を研究しているクリスティーン・ポラス氏によるベストセラー『Think CIVILITY「礼儀正しさ」こそ最強の生存戦略である』(東洋経済新報社)の中でも、明確な論拠とともに示されています。

■「私に会いに来てくれてありがとう」を伝える

大切なアポイントメントの前には、最低限の準備を行い、自分の立場や役割に対する高い意識を持って臨むという人は読者の方の中にも多いでしょうし、先ほどのような、仰天するような事例は他人事に感じる方もいらっしゃると思いますが、念のため、人と会う前に何が必要かについて整理してみましょう。

それでは、まず会う前に、以下のふたつの準備を行います。

1.感謝の言葉を用意する

写真=iStock.com/NicoElNino
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相手が自分と会うためにどのくらい移動(時間や距離、移動手段の手間など)し、準備し、時間を作ることに労力を使ってくれたのかを算出し具体的に想像する。

その上で、相手があなたに会うまでの過程をイメージし、その状況を引用しながら言葉に出して感謝を伝える。

以下に、いくつか例を挙げます。

「電車の乗り継ぎが多かったでしょう。それにもかかわらず、今日はありがとうございます」
「渋滞がひどかったでしょうに、お越しくださりありがとうございます」
「昨日まで、出張で大阪にいらしたみたいですね。ご多忙の中、お時間を作ってくださり本当に感謝です」
「先週まで、展示会があって、社員の皆さんも早朝から大変だったと思いますが、これだけの資料を準備してくださり、今日はありがとうございます」

■質問したいことを3つ以上考えておく

2.関心の言葉を準備する

それまでの相手とのやり取りや、会社や個人のSNSなどの情報をリサーチし、「過去」「現在」「近い未来」という時制ごとの情報を把握しておく。

たとえば、「前回、お会いしたときに、趣味で釣りを始めたと話していたけれど、その後、どうなっただろう?」「会社の公式サイトの社員紹介のプロフィールによると、Aさんは福岡県出身で、学生時代は大学まで陸上をしていたと記載があるが、厳しい練習に耐えてこられて、勝負の世界に生きてきた人なのだろう」「銀行員として10年勤務し、会計事務所に転職して会計士の資格を取得して会計事務所を開業されているのか。目標を持って着実にキャリアを歩んできた人なのだろう」「趣味は洋画鑑賞とあるから、好きな映画や、最近観た映画について聞いてみよう」「既にAI関連のスタートアップ企業との関わりがあるみたいだから、具体的な展望を質問してみよう」など、情報から人物像をイメージし、実際に質問したいことを3つ以上は、準備しておく。

■相手を知ろうとするひと手間が自分を高める

吉原珠央『シンプルだからうまくいく会話のデザイン』(ワニブックス)

要するに、人と会う前に、こうした準備に注力していること自体が、礼節のある態度の出発点となっているのです。それはコミュニケーション能力という側面のみならず、綿密な計画性と、実行力のある人だという客観的な判断基準をクリアしたとも、言えるのではないでしょうか。

相手について知ろうと、なんらかの準備をするとなると、それなりに時間を要します。相手を知るということは、それだけ手間がかかることなのです。ただ、そうしたひと手間をかけない人は、どんなに明るく感じ良さそうに振る舞えたとしても、「うわべだけの人」として、見透かされてしまうのかもしれません。

人と会う前には準備に手間をかけ、それを具体的に伝えて相手を歓迎することができる人は、同じように、相手からも歓迎され、重要な人として接してもらえるのです。

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吉原 珠央(よしはら・たまお)
コミュニケーションコンサルタント
1976年生まれ。日本行動分析学会会員。ANA(全日本空輸株式会社)、証券会社、人材コンサルティング会社などを経てコミュニケーションを専門とするコンサルタントとして2002年にDC&ICを設立し、ビジネスパーソン向け研修、講演活動などを実施。著書に20万部ベストセラー『自分のことは話すな 仕事と人間関係を劇的によくする技術』『その言い方は「失礼」です!』(幻冬舎新書)、『絶対に後悔しない会話のルール』(集英社新書)など、多数。
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(コミュニケーションコンサルタント 吉原 珠央)