ひさびさの会場説明会で熱気ムンムン。鈴木社長は日本独自の施策もアピール

2023年12月18日、インテルは都内で「AI Everywhere」に関する戦略と新製品展示を行いました。久しぶりの会場説明会という事もあり、多くの記者が取材に訪れていました。冒頭、鈴木社長は今年の総括と今後のインテル注力分野と日本のインテル独自の取り組みに関して紹介しました。

インテル株式会社 代表取締役社長 鈴木国正氏

はじめに出てきたのが「シリコノミー」という用語。シリコンとエコノミーを組み合わせて、米国本社のパット ゲンルシンガーCEOが作り出した言葉です。

世界で半導体の影響が増大し、地政学上の文脈でも取り上げられる状況になっています。2030年までに半導体産業だけで1兆ドルになると予測されており、成長のけん引役はコンピューティングだけにとどまらず、自動車、データストレージ、無線が70%を占める状況。

自動車も現在標準的なガソリン車で1,000チップ、最新の自動車では3,000チップ、将来のEVカーでは5,000〜7,000チップと半導体が多く使用されており、半導体の供給不足によって自動車の納期が現在非常に長くなっている事もよく知られている状況です。

鈴木社長は「AIの活用で生産性は30%向上すると、シリコノミーが社会生活に大きく影響していく」と述べ、シリコンなくして経済成長はなく、そしてインテルには半導体リーダーとしての責任があり、シリコノミーという用語で社会へコミュニケーションを働き掛けていくと説明しました。

半導体企業のリーダーとしてシリコンエコノミーの説明義務があるとパットゲルシンガー氏が生み出したのがシリコノミーという用語です

一方、世界のデジタル競争力ランキングでは日本が大きく出遅れていると言われています。64カ国でのランキングですが、2022年は19位、2023年は32位と年々低下しています。

鈴木社長は『「デジタル/技術的スキル:63位」、「ビッグデータとアナリティクスの活用:64位」、「上級管理職の国際経験:64位」、「女性の研究員:57位」、「機会と脅威に対する企業の対応:62位」と悲観的な順位がある一方「無線ブロードバンド普及率:2位」、「市民の行政への電子参加:2位」、「世界での産業ロボット供給:2位」、「高等教育での教員一人当たりの学生数:3位」とやり方次第では伸びる可能性があるとも読める』と、必ずしも悲観的ではないと語ります。

鈴木社長はデジタル化の遅れを日本の懸念点として気にしていますが、左側のように成長の余地ありとも

日本のインテルでは近年デジタル人材育成への取り組みを強めており「STEAM Lab/Intel Skills for Inovationフレームワーク」、「AI Lab」、「DX/DcX Lab」を実施しています。

この説明を行った当時「インテルだけでは取り組みが点になってしまう、点から線、線から面にしなければならない」と発言していました(参考記事)。

今後もSTEAM・AI教育プログラムの充実や自治体との連携の連携を進めていますが、今回政府がDXハイスクールに関して全国1,000校程度の高校を「DXハイスクール」に指定し、令和5年度の補正予算に100億円を計上したことを紹介。

これに関して「文科省から『インテルの働き掛けもあって予算計上となった』と直接連絡が来た」と説明。「インテルジャパンは半導体を売るだけではなくデジタル社会のきっかけとなるべく、中長期的に動いている」と社会貢献への取り組みを説明していました。

インテルだけの取り組みでは点に留まる、とも以前発言されていまして、線に面に拡大するためには自治体との連携が不可欠と判断。DXハイスクール予算化には文科省から連絡があったとも

インテルのフォーカスエリアに関しては「グローバル・サプライチェーンの強靭化」「ムーアの法則の継続」「AI Everywhere」の3点を挙げています。サプライチェーンの強化に関しては政府との意見交換の他、シリコンやレジストなどで日本のサプライヤーが大きく貢献しています。

ムーアの法則の継続に関しては、10月にIntel4の量産を開始したアイルランドのFab34やIntel20Aで採用するといわれているPowerVia、ガラス基板(同じパッケージサイズでもより多くのシリコンダイが乗せられ、光配線とも親和性がよい)、将来のプロセスロードマップの進展を挙げています。

AI Everywhereに関しては理研やBCGとの連携に加えて、LLMイニシアチブの発表、そして、AI Everywhereを提唱しAI時代を見据えた新製品の投入とAI PCアクセラレーションプログラムの発表を行ったと2023年の取り組みを総括していました。

2023年のインテルの取り組みのハイライト。Intel4以降の製造にはEUV露光が不可欠でついに量産工場のFab34にも導入されています

プロセスノード進捗に関しても現在Intel 7 / 4が量産出荷中(Intel 4のMeteor Lakeは発表したばかりですが、すでにPC製品がいくつは発表されており、おそらくCES2024で追加製品も投入)で、Intel 20Aは来年量産開始を予定、Intel 18Aも来年量感開始に向けて順調に準備が進んでおり、その先のプロセスに関しても今後状況を発信できるといいます。

Intel 18Aはファウンドリー(IDM2.0)として外部企業から製造委託を受けることもできるようになり、Intel 18Aの成功の可否で今後のインテルの運命が決まるように思えます。また、ファウンドリー事業ではシリコン素材やハイエンドフォトレジスト、マスク/ペリクル(露光マスクの保護材料)材料、先進パッケージで日本のサプライヤーに多く期待を寄せていました。

シリコノミーを進めるうえで日本のサプライヤーは重要で、昨年表彰を受けた企業もあります

最近の発表会にしては珍しく、ウエハもお披露目

クラウド、DCだけでなくクライアント、エッジでもAIを。AI Everywhere

AIに関しては大野氏にバトンタッチ。AI Everywhereの詳細を説明しました。インテルは広範な半導体を提供しています。これらをフルに活用したのが“AI Everywhere”コンセプトで、エッジ、クライアントからサーバー、データセンターまでヘトロジニアスで豊富な選択肢のハードウェアとオープンなソフト開発環境、安心して利用できる環境を提供するといいます。

具体的にはCPUだけでなくGPUやNPU、そしてクライアントだけでなくサーバー向けの製品も供給。開発環境に関しては、2018年から提供を行っているOpenVINOによって1つのソースコードの若干の変更だけで多様なデバイスに対応可能です。

インテル株式会社 執行役員 新規事業推進本部 本部長 大野誠氏

今後インテルが進めるAI Everywhereの実現に向けてインテルだけが持つ強み。ソフトウェアも強いところもポイントです

インテルがサーバーやクラウド以外も注力している理由としては、2025年までに企業が管理するデータの半分以上がクラウドやデータセンター以外で生成され、処理されるという予測があるためです。

また、エッジでAIを処理することにより、遅延や通信の不安定にから解放され、通信費用が掛からず経済的にも有利、そして近年高まるプライバシー要件や規制から解放される点を挙げています。

従来のAIはサーバーやデータセンターに留まっていましたが、いくつかの理由からエッジやクライアントにも拡大するハズ

もちろん、データセンターを無視するわけではなく、ヘルスケアや、リテール、エンタープライズLLMは巨大で処理も複雑になるので今後もクラウドによる学習が必要でしょう。

データを外に出さないことで機密性が保てますし、大規模な学習・推論ならばクラウドの方が有利で適材適所な選択が今後可能になります

PCへのAI導入ですが、すでに音声やビデオでいくつかの製品があるものの、今後はあらゆることにAIが提供されAIアシスタントやクリエイティブへの利用向上が進むと期待しています。そのAIに向けた製品がMeteor Lakeから開始されるIntel Core UltraとIntel XEONスケーラブルプロセッサ第五世代(Emerald Rapids)とパッケージを披露していました。

第五世代XEONスケーラブルプロセッサ(左)とCore Ultraのパッケージを見せる鈴木社長

製品開発は順調でロードマップを着実に履行中

技術系の説明ということで、町田氏にバトンタッチ。インテルの製造プロセス進展の状況を説明しました。まず「4年で5ノード」というプロセスルールの状況に関しては、Intel 7 / 4が先週発表。第5世代Xeonスケーラブルプロセッサ「Emerald Rapids」がIntel 7で、Core Ultraの「Meteor Lake」がIntel 4を使用して量産中です。

その先のプロセスについても、Intel 3は製造準備が完了しておりSierra Forestで採用される予定。Intel 20Aは2024年前半に製造準備を完了しており、裏面電源配線となるPower ViaやRibbonFETを採用します。

インテル株式会社 執行役員 技術本部長 町田奈穂氏

そしてIntel 18Aが2024年後半に製造準備を完了し、クライアント向けのPanther Lakeやサーバー向けのClearwater Forestを製造。さらに外部ファウンダリー事業としての本格提供もここから行われ、すでに顧客にはプロセスデザインのドキュメント配布を行っていることが紹介されました。

Intel 18A以降に関してもプロセスノード2回分の見込みができたとして今後紹介予定と、業界リーダーの復活を狙っている感じです。ただ、Intelの7nmプロセスはかなり失敗が続いたうえ、(ウワザレベルではプロセスとは無関係な所で)Sapphire Rapidsの出荷が大きく延期されてしまった事もあり、インテルにとってIntel 18Aは本当に社運を賭けたプロセスとなりそうです。

最近何度も見せられているチャートですが、4年間で5つのプロセスノードを実現+次とその次もメドが付いたと紹介

今後の製品のロードマップについてはまず、エンタープライズ向けとして2024年以降Eコアのみで構成されたSierra Forest、その後PコアのGranite Rapidsを投入。この2つのCPUはソケット互換でCPU部が異なるため、クラウドネイティブでコア数の多い需要から高いワークロードまで対応する予定となっており開発も順調に進んでいるといいます。

GPU関係はFlexシリーズの後継となるMelville Soundを、GPU MAXの後継としてはCPU機能とGPU機能を兼ね備えたFalcon Shoresのリリースを予定しています。

エンタープライズ向けのロードマップ。Falcon ShoresはGPU後継製品であり、Gaudiの後継でもあるようです

先週発表したEmerald Rapidsこと第五世代Xeon SPは、第四世代と同じIntel 7で製造されておりソケット互換ですが、最大64コアと4コア多い製品も投入するだけでなく5600MT/sのメモリもサポート。UPIも20GT/sとL3キャッシュも増大させ、さらに320MBと3倍に増やしたモデルもあると性能アップを強調していました。

また、プロセスの小改良もあり、消費電力当たりの性能やアイドル時の節電も行われていると説明しています。

第五世代XEONスケーラブルプロセッサは第四世代とほぼ同じですが、いくつかのパワーアップポイントが用意され、より高性能に

第四世代比でも汎用コンピューティング性能をはじめ速度アップが図られているほか、第三世代比ではかなりの性能差となっています

最後にAI向けのアクセラレーター「Gaudi」シリーズに関してですが、最初のGaudiは16nmで製造しており、アップデートでFP8の性能を2倍に増やしたことを紹介。次のGaudi2は7nmで製造され、4000機を使ったシステムも登場しています。2024年には5nmで製造されるGaudi3を投入すると予告しました。BF16は4倍、ネットワーク帯域は2倍、HMBも1.6倍に増やしたといいます。

大規模AIアクセラレーター「Gaudi」のロードマップ。来年登場予定のGaudi3までは確定です

クライアント向け製品は15日にCore Ultraを発表しましたが、今後も当然ながら続きますが、今回はコードネームの紹介はありませんでした

Meteor Lakeが体験できるショップが登場。有楽町では21日までイベントも開催

クライアントCPUとなるMeteor Lakeこと、Core Ultraに関しては安生氏が説明。すでにある程度の概要が説明されていますが、Pコア、Eコアに加えSoC内にLP Eコアと3種類のx86コアを搭載した3Dパフォーマンスハイブリッドアーキテクチャを採用しており、メインのCPUコアはIntel4を採用し、GPUはArcグラフィックスを最大8機搭載。

さらにNPUも搭載したタイルアーキテクチャーと異なる製造プロセスのダイをベースタイルで一体化するFoverosをコンシューマー向けに本格投入した「40年に一度の大変革」をしているのが特徴となります。

インテル株式会社 技術本部 部長 工学博士 安生健一朗氏

正式発表になったCore Ultraのファースト製品。複数のタイルが結合された40年ぶりの大刷新製品です

Core Ultraの強みは超薄型PC。特にAMD Ryzenを強く意識したチャートですが、仮想敵にApple M3やQualcomm 8cx Gen3が出ているのもポイント

Thunderbolt4とWi-Fi 6Eも内蔵しており、特に超薄型PCではトップクラスの性能と幅広い分野でトップレベルの電力効率を実現していると説明しました。

通常のGPUと異なりディスプレイエンジンもSoCタイル内にあるため、ネット動画再生のようにワークロードが非常に軽い場合は(CPU/GPUダイの電力供給を止めて)SoCのみで動作することで非常に低い消費電力で動作するというのはなかなか画期的ではないかと思います。

最大79%低消費電力と言ってもアイドル時の話ですが、動画の再生ではほぼ半減というのは結構イイ感じです

また、NPUを搭載していることからAIアプリケーションにおいても高速動作が期待できますが、安生氏はNPUだけでなくCPUやGPUもフルに活用する事でAIを実行できるとアピール。OpenVINOというフレームワークがあることで、開発者はコードをあまり書き換えずに対応可能になる、とソフトウェアも強いインテルならではの説明も。実際のデモとして、「LLaMa2-7B」をローカル上で動作させる「SuperPower」も紹介しました。

インテルのAI戦略はCPU/GPU/NPUと適材適所に分散させるところ。OpenVINOでこれを支えます

AI PCという事でクリエイティブ作成でも有効なことをアピール

性能強化をAIで評価しているため、前世代との比較でも大きな差をアピールしています

クライアントAI処理に関してはLLaMa2-7Bがローカルで動作するデモを行っていました

このように、AI Everywhereを推し進めるインテルとしては市場を大きく拡大する施策が重要です。そこでAI PCアクセラレーションプログラムとAI PC Gardenを紹介しました。

前者は、2025年までに1億台のAI PCが導入されることで、ISVの100社以上が300以上のAI対応機能を開発することを目標に掲げています。

多くのAI対応プログラム作成を促進するためにAI PC向けの開発コミュニティを作り、開発者向けのサイトやトレーニング、機材貸与といった活動を行うのが後者という事になります。

AI PCアクセラレーション・プログラムとして多くのAI PCに加えてAI機能のあるソフトウェアを充実させるのが目標となります

ソフトウェアの開発促進のためにAI PC Gardenを作り、開発者コミュニティや機材貸与等で充実を図ります

最後にAI PC体験コーナーが12月15日からビックカメラ有楽町、ソフマップAKIBAで展開されていると共に18〜21日は有楽町でイベントを実施していると紹介されました。こちらは別記事をご覧ください。

筆者的には(数量的ボリュームの多い)DELL Inspiron 13という普及機から発表するあたりにIntelのAI PCの本気度を感じさせますが、筆者的には「13インチPCにQHDパネルは不要で14インチ製品で出してほしい」というのが本音です(Inspiron 14で発表していれば即注文していました)。

高い確率でCES2024でAI PCに関して追加の発表があると思いますので、とりあえず2週間様子を見ることにします。

一般向けにはAI PC体験コーナーと発売記念イベントを実施

質疑応答で「一般向けプロセッサの命名ルールが変更されたが『Core Ultraのデスクトップ版』はいつ発表されるのか?」という質問がありましたが「いつかはまだ回答できないが準備中である」という回答がありました。

なお、今回の説明会の後にショーケースとしてMeteor Lake / Emerald Rapidsのウエハと製品パッケージも展示されました。Foverosで製造されるMeteor Lakeは完成パッケージだけでなく、結合前のタイルの集合体も展示とかなり気合が入っていました。

ちなみに組立の後工程はマレーシアだそうですが、Meteor LakeのCPUタイルはIntel 4で製造されているものの、これの生産地(Intel 4が作れるのはオレゴンのD1シリーズかアイルランドのFab 34しかありませんが、量産という意味ではアイルランドしかないと予想していたものの)「(現時点では)お答えできません」という回答でした。

今回はショーケースも実施しましたが、6製品と少ないのはCES2024で発表される製品がかなりあるためでしょう(LenovoとLGは日本未発表です)

第五世代XEONスケーラブルプロセッサのウエハと製品パッケージ。Intel7で製造されています

Core Ultraのウエハと製品パッケージ。Intel4で製造されています

Core Ultraはクライアント向けとしてFoverosパッケージを本格採用した製品となり、その状態も展示。4つのタイルとベースタイルを結合したチップをテープで運ぶようです。それをパッケージと一体化して完成します

ローカルでLLaMa2-7Bが動作するSuperpowerのデモ。来年発売されるとの事ですが、日本語がどこまで通じるかが気になりました

GIMP上で動作するOpenVINOの拡張機能からStable Diffusionを動作させるデモ。これはAI PC体験コーナーに行くことで実際に試すことができます

余談ですが「インテルPCマイスター」の認定カリキュラムが10月に行われましたが(参考記事)、実は11月にも上級マイスターの実施がありました。

上級マイスターはかなり難しい試験で「本当に理解していないと回答できない(インテル株式会社 マーケティング本部長 上野晶子氏)」もので第一回の合格率も「予想より低い」とコメントがありました(注:合格率は非公開となっています)。

11月の試験は「一般の方はNGでショップ店員のみ」というお話でガックリしていたのですが、今回聞いてみると「一回目よりさらに合格率が下がった」との事。ショップのどういう方々が受講されたのか詳細はわかりませんが、マイスター上級はかなり難しいという事を証明しているようです。