BELLUSTAR TOKYO(ベルスタートウキョウ)の客室からは都内の景色が一望できる(記者撮影)

富裕層インバウンドの増加を見据え、外資系高級ホテルの開業ラッシュを迎えている。今後5年で開業する高級ホテルの8割が外資系という驚きのデータもある。出店で劣後する中、国内系ホテルに巻き返し策はあるのか。

総支配人は、各ホテルの宿泊部門から朝食など食事までホテルのすべてを取り仕切る「顔」ともいえる存在だ。激変するホテル業界をどのように見つめているのだろうか。4人の名物総支配人を直撃する。

【過去の連載】
12月2日配信:パレスホテルに10年住む総支配人の「改装秘話」

今回は今年5月に開業したばかりの東急歌舞伎町タワー(東京都新宿区)に入居する2つのホテル、「HOTEL GROOVE SHINJUKU(ホテルグルーヴシンジュク)」と「BELLUSTAR TOKYO(ベルスタートウキョウ)」の総支配人・西川克志氏を直撃した。2000年にグランドハイアット福岡の総支配人に就任してから数えてこの道23年、68歳の大ベテランだ。

東急ホテルズとアジアを軸に展開するパン パシフィック ホテルズグループが組んでいる。客室数はグルーヴが538室、ベルスターは97室。高級ホテルとはイメージが遠い歓楽街・歌舞伎町に開業したことで、業界では注目の的となっている。

「このまま終わったら寂しい」

――総支配人に就任した経緯を教えてください。

ハイアットでは最長・最年長総支配人の一人だったので、ハイアットリージェンシーサイパンを最後に退職して、次の人にバトンを渡す予定だった。そんな中、コロナ禍でホテルの利用客がいなくなった。現場が好きなので、このまま終わったら寂しいなと思っていた。

アメリカのグリーンカードがあるので、リタイア後はハワイへ行く予定だった。日本へ帰るつもりはなかったが、ベルスターとグルーヴの話をもらった。プランを見て面白いと思い、総支配人をやってみようとなった。

2000年から2008年までグランドハイアット福岡の総支配人をしており、近くには歓楽街である中洲があった。商業施設に併設しているグランドハイアット福岡は横に長く、東急歌舞伎町タワーに入居している2ホテルは縦に長い。

横か縦かの違いで似たような環境だった。総支配人のオファーを受けたとき、違和感や恐怖感はなかった。


にしかわ・かつし/1979年日本大学卒業、旅行会社に入社後、1983年にシャングリ・ラホテル入社、2000年以降、ハイアット系列ホテルの総支配人を務める。2023年から現職。業界では「ニックさん」の愛称で知られる(撮影:尾形文繁)

ベルスターの単価は10万円を超えている

――開業後の手応えは?

20〜38階に入居しているグルーヴの稼働率は7〜8割程度、平均客室単価は3万5000円だ。客室単価は想定より高くて驚いている。宿泊客の85%以上がインバウンドとなっている。アジア圏だけではなくて、欧米人もいて幅広い宿泊客が利用している。

39〜47階のベルスターも稼働率が上がってきた。足元では40〜50%くらいで、客室単価は10万円を超えている。宿泊客の7割くらいは外国人で、3割が日本人となっている。海外の宿泊客は1週間以上などの連泊が多く、日本の宿泊客は1〜2泊の人が多い。

東京には外資系や国内系の歴史のあるラグジュアリーホテルが多い。そういったホテルと比べると、開業したばかりで知名度がない。だが、パンパシフィックホテルズグループと提携(ソフトブランド契約を締結)している。パンパシのネットワークを利用して、ブランドを崩さないようにしつつ、認知を獲得していきたい。

ビジネスミックスでは海外の宿泊客が多い。今後の販売戦略としては、海外営業などを行っていく。海外のトレードショー(見本市)などへ営業部隊が行っている。ベルスターは海外の個人旅行客、グルーヴは個人客に加えて団体客も取っていきたい。OTA(オンライン旅行予約サイト)からの予約も多い。

――改めて歌舞伎町という立地をどのように捉えていますか。

歌舞伎町の捉え方は日本人と外国人で違うと思う。私も歌舞伎町を通って、「ここで高級ホテルは成立するのか?」と思ったこともある。

しかし海外の宿泊客からは「ファンタスティック」と言われた。外国人にとって、新宿はなんでもあるアトラクティブ(魅力的)な街。ネオンがきれいで、ゴールデン街や思い出横丁はSNSで投稿されている。それらを求めて外国人は新宿を訪れる。ベビーカーを押してファミリー層が歌舞伎町を出歩いていたりする。

日本人には「歌舞伎町の壁」を感じる


日本人はもちろんインバウンド客にも人気の歓楽街・歌舞伎町(撮影:梅谷秀司)

一方で日本人には、日々歌舞伎町が(トー横キッズなどの)ニュースで取り上げられていることもあり、「歌舞伎町の壁」を感じる。ホテルの中にいれば別世界だが、行きと帰りは歌舞伎町を通らないといけない。

――レストランの動向はいかがでしょうか。

景色の良さなどをアピールして足を向けてくれるようにしていきたい。また逆に歌舞伎町の壁があるからこそ、「隠れ家でいいね、おいしいね」と言ってもらえる。そういったお客様に知り合いの方などを連れてきていただいて、知る人ぞ知るレストランになっていきたい。

海外から来た宿泊客はわざわざ日本でフレンチは食べない。長期滞在する人に食べたいと思われるようなレストランにしたい。ブランドイメージを下げないようにしつつ、あの手この手でPRをしていく。

――14年ぶりの日本ですが、ホテル業界はどう変わりましたか。

日本政府がインバウンド集客の政策を推進しており、本当に増えた。ビジネスはやりやすくなった。

一方で、外資系ホテルの従業員はブランドにおごってはいけない。ブランドが増えてきている一方で、自社のヒストリーや良さを伝えられる人が少なくなってきている。それを知らずに、自分はどのホテルにいたとアピールをする人もいる。

売り上げではなく、利益に対して厳しく

――日本のホテルに勝ち筋はありますか。

売り上げではなくて、利益に対して厳しくならないといけない。1000万円の売り上げがあっても、900万円経費をかけたら商売にならない。どうやって質を維持しながら利益を上げていくか、真剣に考えないと外資系には負けてしまう。お客様を重視するのはいいが、過剰な部分があるのではないか。


ホテル以外には劇場や映画館などエンタメ施設が入居している東急歌舞伎町タワー(編集部撮影)

利益率の高い宿泊を重要視し、ブランドを保つために料飲(レストランや宴会で提供される食事)部門にも力を入れることが必要だ。宿泊で稼ぐためにはMICE(国際会議)などを取り込まないといけない。その際に必要になるのが、料飲部門だ。

日本の料飲部門は質がすごく良くて、味は外資系に負けていない。だが、PR力は劣っている。日本のホテルに足りないのはクリエイティビティとプレゼンテーションだ。

日本のホテルはガラパゴス化している側面がある。ホテリエたちはもっと海外に行って、いろいろな人間と仕事をして経験を積んでほしい。

(星出 遼平 : 東洋経済 記者)