なぜイスラム教では「一夫多妻」が合法なのか…イスラム教徒の日本人女性が考える「男性だけOK」の理由
※本稿は、森田ルクレール優子『イスラムと仲よくなれる本』(秀和システム)の一部を再編集したものです。
■一人の男性が、何人もの女性と同時に結婚できる
イスラムの特徴に「一夫多妻」があげられます。これは、1人のパパが、何人ものママと同時に結婚できる制度です。
みなさんのパパには、ママは1人しかいませんよね。でもイスラムでは、1人のパパが4人までのママと同時に結婚することが許されています。
おどろきますよね。でも、これには深い理由があります。じつはイスラムが誕生する前の時代は、女性とは何人とでも結婚できる時代でした。そこで「4人まで」と制限をもうけたのがイスラムだったのです。
ただし、イスラム教徒(ムスリム)のパパは、みんな4人のママと結婚しているというわけではありません。そういう人もいますが全員ではなく、むしろ少数派です。
また、一夫多妻をおススメしているわけでもありませんし、条件もあります。
妻を正しく、公平に接することができないのであれば、男性は2人以上の女性と結婚することができません。
たとえば、パパが1人目のママと結婚していて、2人目のママと結婚したい場合、1人目のママが許さなければ結婚してはいけません。
■「公平」という絶対ルール
さらに、2人目のママと結婚できたとして、1人目のママに指輪を買ってあげたら、同等のものを2人目のママにも買ってあげなければなりません。
もしママが4人いて、1人目のママに家を買ってあげたら、ほかの3人にも買ってあげるのです。すごす時間も同じです。1人目のママのところで今週7日間すごしたら、来週7日間は2人目のママのところで……と順番にすごします。
どのママにも同じことをおこなう。これが公平という意味なのです。イスラムの一夫多妻は、公平におこなうことが重要なポイントになってきます。
パパも人間ですから、気持ちの上で「このママと一緒にいるときがいちばん楽しい、いちばん落ち着く」ということもあるでしょう。人間は、気持ちの上での順位をコントロールできません。ですが、気持ちの順位は心の中だけでとどめて、実際の行動は公平にしなくてはならないのです。
ですから、ムスリムは、自分の奥さんをみんな大切にします。ママを大切にしない浮気は、とても悪いことなので禁止です。
ただし、1人以上のママと結婚するには、体力も、時間も、お金も使います。よく「イスラム教徒の男性は、何人もママがいてうらやましいね」などと勘ちがいされていますが、じつは「そんなことないですよ」ということが多いのです。
■家族のため、女性の負担をなくすためのルール
たまに聞かれるのですが「なぜパパには4人までママがいていいのに、ママは4人まで結婚していいとはならないの?」と疑問に思う人もいます。
なかには「一夫多妻は、女性を軽く見ているんじゃないの? 不平等よ!」という人もいますが、ママがたくさんのパパと結婚できないのは理由があります。
まず、パパは外でお仕事をしていることが多く、家を空けている時間が長いです。そのあいだ、ママはお料理やお掃除など、家のことをやるだけでも大変です。また、どんなにパパが手伝ってくれたとしても、赤ちゃんを産むことはママにしかできません。ママが何人ものパパの子を出産し、さらに仕事まですることになると、とても女性の負担が多すぎるのです。
イスラムの一夫多妻は、男性のためではなく、家族のため、そして女性の負担をなくすためでもあるルールなのです。
とはいえ、それを受け入れるには条件がある、ということも知ってもらえたらうれしいです。
■「異母兄弟」でも仲よく暮らせるのはなぜか
異母兄弟とは、ママがちがう兄弟のことです。イスラムでは、一夫多妻がみとめられているので、異母兄弟がいる家庭があります。「ママがちがうのに、仲よく暮らせるの?」と思ったかもしれませんね。
家庭にもよりますが、たとえママたちの仲が悪くてもパパは同じですし、異母兄弟たちは年も近いことが多いため、子どもたちは仲よく暮らしている家庭が多いようです。近くに住んでいる場合は、一緒に遊んだり、お泊まりしたりしています。
兄弟が多いと、大きくなったとき、支え合えることが増えます。大人になれば、親には相談しにくいことも出てきます。でもそのとき、兄弟同士で支え合えるなら、それだけこまったときに助けられるのです。
人間は、1人では生きていけません。たしかに、何から何までたよりきることは問題です。ただ人生では、自分だけではどうにもならないことが起きてしまいます。
そんなときに、手を差しのべてくれる兄弟がいると、とても心強く感じますよね。みなさんも、こまったときに手を差しのべてもらったことはありますか。慣れていないと、うれしいけど、はがゆい気持ちになるかもしれません。ですが、みなさんがうれしいだけでなく、じつは手を差しのべ、助けた人の中にも、温かい気持ちが生まれ、そうした思いはめぐりめぐっていきます。
私はこれを「愛の循環」とよんでいますが、おたがいが気持ちよくなれるのです。イスラムでは、支え合うことは美徳とされています。自分ではどうしようもできないとき、手を差しのべてくれる人が1人でも多くいたら、それはいいことだと思いませんか?
■出産、育児を支え合う
人間が支え合うことはとても大切です。イスラムでは、このような教えを伝えているので、異母兄弟でも仲よく暮らせるのです。
人間のみならず、動物や虫は子孫を残しますよね。もちろん人間も同じで、だれも子どもを産まなくなったら人間は絶えてしまいます。イスラムでは「子どもを産むのはよいこと」としてすすめています。
人間を絶やさないため、そしてムスリムが増えるためです。もし、子どもが少なくなってしまったら、どうなるでしょうか。今、日本のみならず欧米などの先進諸国では、ますます少子化が進んでいて深刻な問題になっています。では、なぜ少子化になったら問題なのでしょうか。
まず、子どもが若者に成長しても、その若い方が少なければ労働力が不足します。そうすると経済が回らなくなり、お金をかせぐことができなくなってしまいます。そうなれば、必然と国は衰退してしまうのです。ですから、若い方の原動力はとても大切です。
■少子化になる心配がない
一方、イスラム圏では子どもが多く、少子化の心配はありません。イスラムでは、子どもはアッラーからおくられた宝物と考えているのです。
もし、子どもを産むことをすすめていなかったら、どうでしょう。ママもパパも、わざわざ子どもをつくろうとしなくなってしまうかもしれません。なかには、望んでも赤ちゃんが宿らない人や、今は望んでいないという人もいます。
日本と同じように、イスラム教徒(ムスリム)も、そういう人がいけないのかと言ったら、もちろんそんなことはありません。子どもを産むことをすすめてはいますが、アッラーはそのような方でも、ちがう方法で天国に入れる道をあたえてくださっています。
イスラム圏では子どもが多いですが、子どもの命を害さないかぎり、お産の制限はみとめられています。ですから、好きなだけ産むということでもありません。
日本では時々、子どもをモノのようにあつかう親がいて、なかにはテレビのニュースになることもあります。
■家族は宝だ
しかしムスリムは、自分の子であっても、いずれ神様にお返しする借り物のような考えです。たとえ親子でも、人間をモノあつかいするのはまちがっています。イスラムでは、子どもたちはとても大切な存在、愛しい存在なのです。
正直、子どもを育てることって大変です。楽しいことだけではありません。私は今8人の子育てをしていますが、こんなに自由がなくなることって、今までありませんでした。幸せなことばかりではありませんでした。
結婚も同じです。結婚って、ラブラブでキュンキュンすることだけではありません。ケンカすることもあります。でも、なぜケンカもするのに結婚し、子どもをつくるのでしょうか。それは、それ以上に幸せなことがあるからです。
その大変さを乗りこえるたびに、おたがいが結び合い、助け合う存在になっていきます。家族は、宝なのです。
■イスラム教徒の夫は家事・子育てに積極的
イスラム圏でも「子育てや家事は女性の仕事」という文化が根づいています。パパが手伝わない国や地域もありますし、家庭によってはお手伝いさんがいる場合もあります。
ただし、これは国や地域の文化や、家庭の事情によるものなので、イスラム教は関係ありません。それどころか、じつはイスラム教徒(ムスリム)には、家事や子育てを一緒にやってくれるパパが多いのです。
イスラム教を始めた預言者ムハンマドは、妻が家事でいそがしければ自ら台所に立ち、お裁縫までしていました。イスラムが誕生したのは、今から1400年も前。一方、私が育ったのは、約20年前の昭和時代です。そのころの日本では、パパが子育てを手伝い、お料理やお掃除をする家庭なんてめずらしいくらいでした。
それがイスラムでは1400年も前から、しかも預言者という立場でありながら実践していたのです。ムハンマドは「もっともよい性格の信者とは、その者の妻たちに対して、もっともよくする者」と言いました。そしてムスリムは、ムハンマドのように生きることを模範としています。ですからイスラムでは、パパがママの仕事を手伝うのです。
私の夫も、もちろん家事をしますし、一緒に子育てをしています。お料理、お掃除はもちろん、ゴミ捨て、子どもの送りむかえなど、細かいことまで何だって積極的におこなっています。
フランスではよく水回りが壊れるので、修理屋さんが来た際や、荷物をとどけに配達員さんが家に来た際も、夫が出て対応しています。また、女性は外出するのに時間がかかるので、わが家では夫にたのんでいます。
イスラムのパパって、家庭でも本当に働き者なのです。
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森田 ルクレール 優子(もりた・ルクレール・ゆうこ)
フィルダウス出版代表
1980年、東京都生まれ。フィルダウス出版代表。パリ近郊在住12年。20年ほど前のエジブト旅行にて人々が道端で礼拝している姿を目の当たりにして魂が震え、帰国後イスラム教に入信。12年前に、SNSで出会ったイスラム教徒の生粋のパリジャンと交際ゼロで結婚。3カ月後フランスへ移住。夫の子ども4人を引き取り、フランス語・子育て経験ゼロから母親になる。自身では4人を出産。現在計8人(20歳の三つ子、17歳、10歳、8歳、6歳、4歳)の子育て中。
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(フィルダウス出版代表 森田 ルクレール 優子)