記事のポイント

Amazonはプライムビデオの広告付きプランで、広告掲載保証の場合はCPMが約36ドル、保証されない広告では約30ドルに設定。NetflixやDisney+と比較し、プライムビデオは中間の価格設定。

広告付きプライムビデオは既存のプライムビデオ購読者が自動的にオプトインできるため、1億1500万人以上へのリーチが可能。

広告主はAmazonから高額な契約を求められているが、実際の予算配分はまだ不透明で、プライムビデオの影響力は未知数。


Amazonのプライムビデオ(Prime video)がストリーミング広告市場に参入したのは比較的遅いかもしれない。しかし、このeコマースの巨人が広告主に示した最初のピッチを見ると、Netflixとディズニープラス(Disney+)が広告付きプランの追加当初に犯した失策の一部がわかる。

あるエージェンシーの幹部A氏は、「ラストムーバー(最後に動いた者)にはメリットがあるし、例えばNetflixなど、広告プラットフォームのローンチ時に誰もが陥った過ちをすべてチェックして、適切に行っている。改めてそう考えると、現実は惨いものだ」と話す。

一例:Amazonは、来年2024年早々の広告付きプラン開始に向けて、最初から広告主に1000インプレッション当たり超高額な料金を支払うように依頼するつもりはない。

プライムビデオ広告の価格は?



エージェンシーの経営陣4名によると、Amazonはプライムビデオの価格で2つのオプションを設定している。広告掲載が保証されたプランでは、広告主はCPM(インプレッション単価)に対して30ドル台半ば(5200円前後)が課されている(2名の経営陣よると、約36ドル[約5400円])。一方、掲載が保証されていない広告(業界用語で「プリエンプティブル[先買い]」)の場合、広告主はCPMの30ドル台前半(4800円前後)を支払うことになる。なお、ここにあげた金額は、幅広く2歳以上(「P2プラス」)の視聴者を対象にした広告の基本料金である。本件に関してAmazonの広報担当者にコメントを求めたが、回答はなかった。

別のエージェンシー幹部B氏は「これは、主要テレビ局のやり方と1年前にNetflixが実施した内容の間をとった形だ」と話す。さらに、AmazonのCPMは「Netflixが打ち出した料金やピーコック(Peacock)の当初の料金のような60ドル(約9000円)でもなければ、20ドル(約3000円)以下でもない」と説明した。

比較としてNetflixを見てみよう。Netflixでは当初CPMを65ドル(約9750円)に設定したものの、その後は値下げが見られる。複数のエージェンシー幹部によると、最近のCPMは、30秒スポットで40ドル台前半(6300円前後)、15秒スポットで30ドル台後半(5600円前後)だという。なお、Netflix広報担当者はコメントを控えている。

Amazonは、CPMを30ドル台半ば(5200円前後)に設定したので、広告付きプランの大手ストリーマーのなかでは中間の価格帯に属することになる。なお、ここにあげるCPMは、2023年のアップフロントで取引されたP2プラスを対象とする。

Netflix:40ドル台前半(6300円前後)

ディズニープラス:30ドル台から40ドル台半ば(4500円前後〜約6700円前後)

マックス(Max):30ドル台から40ドル台前半(4500円前後〜6300円前後)

ピーコック:20ドル台から30ドル台半ば(3000円前後〜5200円前後)

Hulu:20ドル台から30ドル台前半(3000円前後〜4800円前後)

米国で1億1500万人へのリーチが可能に



AmazonがNetflixとディズニーの例から得た学びは、ほかにもある。それが、既存のプライムビデオ購読者が自動的に、広告付きプランにオプトインできるようにしたことだ。ITとビジネスのニュースサイト、インサイダー(Insider)が2023年9月に報じているように、この戦術のおかげで、Amazonは広告主に対し、1億1500万人を超える同社広告付きプラン登録視聴者にリーチする可能性があると説明できるようになった。

そうすれば、広告バイヤーの「Netflixやディズニープラスの事例と同じように、充分な人数のオーディエンスに広告を届けられないのではないか」という懸念も回避できるようになる。なお、両社とも、購読者が別途サインアップしなければ広告付きプランを選べない。

「そのように展開するなら、Amazonはスケールメリットが得られるはずだ。ビジネス展開が基本的にNetflixと相反する方法なので、初めの一歩として効果的だろう」とエージェンシー幹部C氏は予測する。

だからといってAmazonのピッチが完全に広告主の心をつかんだとはいえない。テック系ニュースパブリッシャーのザ・インフォメーション(The Information)が伝えるところによると、Amazonは広告主に、相当な額の支払いを約束するように求めているという。具体的には5000万ドル(約75億円)以上と1億ドル(約150億円)以上の事例が報告されている。

エージェンシー幹部らにしてみれば、このような要請は驚きに値する。米DIGIDAYのインタビューに答えてくれたエージェンシー幹部D氏によると、Amazonから30ドル台前半(4800円前後)のCPMを提示されたが、その代わりに、6000万ドル(約90億円)の契約を求められたという。「6000万ドルも使う予定はない。もっと詳細情報を得て、どのような効果が得られるのか理解してからでないと契約は無理だ」。

広告の長さや回数はどうなるのか



エージェンシー幹部らが依然として待ち続けているというAmazonの情報は、プライムビデオで流すCM時間の回数とその長さ、さらには流す広告の数に関するものだ。

そこで気になるのが、「Amazonの参入が、もっと幅広いストリーミング広告の市場で、金の動きにどのような影響を与えるのか」という大きな問題である(少なくとも筆者のような業界ウォッチャーにとってみれば、この問題は大きい)。

テレビやストリーミングに広告を出す大手広告主はすでに今年2023年のアップフロントで予算の配分を決めており、広告予算獲得を狙った今回のAmazonの戦略は時機を逸していたので、その影響は幾分か軽減されるかもしれない。さらに、CPMで比較すると、プライムビデオのCPMは競合各社と比べて飛びぬけた数字ではなく(「実際、ライバル企業は相当な数字を出している」と最初のエージェンシー幹部A氏は話す)、これまで広告付きプランで最も大きなスケールを誇るHuluが、他社よりも低いCPM料金を提示しており、逆にNetflixは料金が高いものの、その理由は多分にインベントリが少ないためだと考えると、Amazonに期待されるスケールからみて、最高レベルのCPMをAmazonに求めるエージェンシー幹部も出てくるはずだ。

それに、エージェンシー幹部らはプライムビデオの広告プランを持ち上げるので(実際、ビジネスの現場では各社のサービスを悪く言わないことが多い)、プライムビデオがほかのストリーマーから広告費を吸い上げられるのか、その可能性に関して、広告バイヤーの意見は極めて曖昧だ。

「プライムビデオが参入するからといって、予算をすべてNetflixからプライムビデオに移すとは限らない。単に、プレイヤーが増えたというだけだ。だから何かしなければならないということはない」とエージェンシー幹部D氏は説明する。

「新規参入」の影響は大きい



とはいえ、プライムビデオの参入でドミノ効果が生じ、広告付きプランのある大手ストリーマーは、営業プレゼンを考え直して対応しなければなくなるだろう。

エージェンシー幹部B氏はこう話す。「私が考えるに、2024年、Amazonの存在は、Netflixの動向に影響を与える極めて大きな要因になるはずだ。Amazonはスケールも大きいし、提示する価格帯が似ていないこともない。Amazonが市場の新参者となれば、影響は免れないだろう」。

[原文:Future of TV Briefing: The prices Amazon is pitching to advertisers for Prime Video]

Tim Peterson(翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)