事故で怪我を負ったり、病状が重くて自力では病院に行けなかったりする場合などに、頼りになるのが救急車です。本来、救急車は緊急時や非常時に利用するための公共サービスですが、無料のせいか安易な気持ちで利用する人が増加していることが社会問題となっています。

本記事では、救急車の本当の費用はいくらなのか、アメリカなどの事例も紹介しながら解説します。

増え続ける救急車の出動

近年、救急車の出動件数は増え続けています。本来、救急車は緊急の対応が必要な傷病者を速やかに病院に運ぶためのものですが、軽症者などの出動要請も多いのが実情です。救急車出動要請の実態は以下の通りです。

2022年は集計開始以来最多
消防庁の「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」によると、2022年(令和4年)中の救急車による救急出動件数は722万9,838件となり、対前年比は103万6,257件の増加(16.7%増)となりました。

また、搬送人員は621万6,909人にのぼり、対前年比は72万5,165人増(13.2%増)です。2022年は救急出動件数、搬送人員ともに集計開始以来最多となりました。救急出動件数の急増の原因については、新型コロナウイルス感染拡大の影響や高齢化などが理由の一つと考えられます。

出典:消防庁 「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」の公表

救急出動の内訳

令和4年の救急車出動件数の内訳は、急病が489万8,917件(全体の67.8%)で最も多く、次いで一般負傷が110万1,249件(15.2%)、交通事故が38万3,060件(5.3%)となっています。

対前年比で見ると、急病は20.8%増(84万4,211件増)、一般負傷は13.6%増(13万2,119件増)、交通事故は4.0%増(1万4,569件増)です。前述した出動件数の対前年比103万6,257件増の内、急病と一般負傷件数で約9割を占めることがわかります。急病の中身は公表されていませんが、新型コロナウイルス感染症の影響があると推察されます。

また、年齢別で見ると、高齢者(65歳以上)が386万2,874人(全体の62.1%)、成人(18歳以上65歳未満)が186万 2,404人(30.0%)、乳幼児(生後28日以上7歳未満)が27万4,026人(4.4%)となっています。高齢社会の進展にともなって、高齢者の割合が増えていることがわかります。

出典:消防庁 「令和4年中の救急出動件数等(速報値)」の公表

救急車出動にかかる実際の費用

日本では救急車の運用は行政サービスの一環であり、利用料金を請求されることはありません。しかし無料とはいえ、実際にはコストがかかっています。救急車の運用にかかった費用は税金で賄われているのです。

救急車出動にかかる実際の費用はどのくらいなのか、外国での運用実態などについて紹介します。

救急車出動の実際の費用は

無料の救急サービスだが、実際にはコストがかかっている

救急車が1回出動するのに必要な費用は、諸経費込みで約4万5,000円と見積もられています。救急隊1隊を組織するには、救急車1台(車両代と器材費で約 2,700万円)のほか、救急救命士を含むスタッフや車両基地の整備等が必要になります。さらに、車両メンテナンス費やガソリン代、医療機器や物品の購入費も必要です。

出典:東京都財務局 機能するバランスシート 救急事業とバランスシートの役割

2022年の救急出動件数は約723万件だったため、これに1回の出動にかかる費用4万5,000円を乗じると、約3253.5億円にもなります。安易に利用する人が後を絶たないのは、運用が税金で賄われ、無料のためではないかと考えられ、有料化が検討され始めています。

アメリカの場合は

ニューヨークでは救急車は高額の利用料がかかる(写真はニューヨーク・マンハッタン)

救急車の利用料が無料の国は、日本以外にも香港、イギリス、スウェーデンなどがあります。しかし、無料の国は少数派で多くの国や都市は有料です。オーストラリア、ドイツ、アメリカなどがそうです。

ニューヨーク市の場合、救急業務の実施主体は公的機関と民間医療機関の2パターンあります。公的機関はニューヨーク市消防局です。民間の医療機関には病院や救急会、ボランティア団体などがあり、これらはニューヨーク市消防局と協定を締結した組織です。

救急車の利用料は、公的機関と民間医療機関ともに有料ですが、料金は搬送形態によって異なります。料金は搬送した人から徴収され、低所得者や高齢者には公的保険が適用されます。

救急車の利用料は、次の通りです。

【ニューヨーク消防局による搬送の場合】
患者搬送 (救命士なし) 8万4,000円
救急搬送1.(救命士乗車)14万3,000円
救急搬送2. (救命士乗車) 15万5,000円 

【民間医療機関による搬送の場合】
患者搬送・救急搬送費:2万4,000円以上

救命士乗車の必要性を判断するのは、救急入電時に緊急度を判定するコールトリアージです。また、病院までの搬送距離によって料金が加算されます(約1,000円/km)。さらに、酸素投与が行われた場合も別途約7,000円が加算されます。

出典:消防庁 平成27年度 救急業務のあり方に関する検討会 第3回資料
※上記は2015年のデータで、1ドル=120円で計算。円安状況によりさらに高額になる可能性あり。

夜間利用には割増料金も

救急車の利用は無料ですが、日本でも救急病院(診療所)を深夜(22時~6時)に受診すると、初診の場合、通常の診察料に4,800円の「深夜加算」が上乗せされます。また18時以降でも850円~2,300円の時間外加算がプラスされるため、診察料が割高になります。

夜間利用だけでなく、休診日になっている日曜や休日に受診した場合も「休日加算」があります。また、薬局で調剤してもらう際にも「深夜加算」や「休日加算」があるので注意が必要です。緊急を要する場合以外は平日昼間に受診すると、医療費と家計の負担を軽減できます。

出典:全国健康保険協会 10月 時間外受診は割増料金がかかる

救急車出動増加の問題点
今後も救急車出動が増加し続けると、さまざまな問題が起こると予想されています。主な問題点の一つが、救急車不足による重症者への対応の遅れです。

救急車の台数には限りがあるため、軽症による利用が増えると重症者の対応が遅れ、結果として救える命が救えないという事態を招いてしまいます。

また、救急車出動にかかる費用は税金で賄われているため、要請の増加による経費の増大も問題です。これまで無料だった救急車利用が諸外国のように有料化されるかもしれず、実際に有料化に向けた議論もされ始めています。

救急車の適正な利用のために

このままの状態が続くと、これまでのような救急車利用はできなくなってしまうかもしれません。いざというときに安心して救急車を利用するために、何ができるのでしょうか。以下に救急車の適正利用にもつながる民間サービスなどを紹介します。

民間の患者等搬送事業者を活用する
症状は軽いものの、病院までの交通手段がない場合や、ストレッチャーや車椅子に乗った状態で病院に行きたい場合などは、民間の「患者等搬送事業者」を活用する方法があります。

患者等搬送事業者は、各消防本部が認定しているので、最寄りの消防本部で確認できます。

救急安心センター事業(#7119)に電話する

判断が迷ったときは救急安心センターに電話を

体調が悪化したときや、怪我をした場合などに救急車を呼んだほうがよいかどうか迷うときもあるでしょう。そのような場合は救急安心センターに電話をすると、医師や看護師など専門の相談員に相談できます。

電話番号は大人の症状であれば#7119、子どもの症状であれば#8000(子ども医療電話相談事業)です。ただし、救急安心センター事業は地域によっては実施されていないため、事前に消防庁や厚生労働省のホームページで実施エリアを確認しておくことをおすすめします。

また、救急車の必要性や病院に行くタイミングに迷った際に、画面上で症状を選ぶだけで判断をサポートしてくれるアプリ「Q助」もあります。Q助は消防庁が作成した無料アプリで、スマホにダウンロードしておけばいつでも使えるので安心です。

まとめ

利用料が無料であるため、安易に使い過ぎている側面もある救急車ですが、実際には多額の費用がかかっており、その費用は税金で賄われています。

このまま救急車の出動要請が増え続けると、将来的には大きな問題になり、アメリカのように高額な料金がかかるようになるかもしれません。そのような事態を避けるためにも、緊急時以外は救急車利用を控えるなど、適正利用を心がける必要があるでしょう。