HarmonyOSを中心としたエコシステムのなかで、スマートフォンやタブレット、ウェアラブルデバイスなどを展開するファーウェイ。日本では現状、HarmonyOSはあまり普及していないが、中国ではそれが急速に拡大しており、クルマや家電にまでOSが搭載されている。

 

このたび筆者は、中国深圳にあるファーウェイのフラグシップストアとスマートラボを見学し、その最前線を体験した。ファーウェイのHarmonyOSが実現する近未来の様を紹介しよう。

 

自動運転対応のスマートカーが展示されている旗艦店

まず訪問したのが、ファーウェイのフラグシップストア。現地スタッフによれば、同店が位置している場所は「日本でいう大手町」だそうで、周囲には高層ビルが立ち並んでいた。フランスの有名なチームとファーウェイが共同で設計したという建物は、周囲4面がガラス張りの3階建て。曲線的なデザインで、ステンレス製の屋根は鏡面仕上げになっている。

↑フラグシップストアの入り口

 

↑1階フロアの様子。平日にもかかわらず、多数の客が来店していた

 

↑日本では未発売のスマホ・HUAWEI P60 Pro。価格は6188元(日本円で約12万5000円)から

 

↑1階奥のアカデミーエリアでは、スマートカーの発表会の様子が流され、多くの人が見入っていた

 

↑ショップの外周には、24時間対応の自販機が設置されており、イヤホンやウェアラブルデバイスが販売されていた

 

↑3階のテラスからは、周囲を囲む高層ビル群を見渡せる

 

この店にはファーウェイの最新デバイスがずらりと並んでいるが、それはスマホやウェアラブルデバイスなどのガジェットに限ったものではない。入り口脇にはスマートカーが鎮座しており、2階にはスマートホームのモデルルームもある。

↑スマートカー・AITO M7

 

圧倒的な存在感を放っているスマートカーは、もちろんHarmonyOSを搭載。自動運転に対応したハイブリッドカーで、中型のAITO M7と、小型のAITO M5の2車種がある。AITOは、共同開発を行なったクルマメーカー・小康工業集団のブランド名だ。

↑AITOのエンブレム。日本には未上陸だ

 

ガソリンと充電池の併用で、最大1200kmを走れるというこのクルマには、「ADS 2.0」という自動運転機能が搭載されている。27個ものセンサーで周囲の状況を把握し、赤信号ならブレーキをかけ、青信号では自動走行してくれる。また、自動駐車システムも搭載されているという。

↑ハンドルや座席は革張りで、高級感があった

 

↑フロント座席に設置されたタブレット。大型なので地図も見やすい

 

↑タブレットは後部座席にも設置されている。ちなみに、座席にはマッサージ機能が内蔵されている

 

クルマの動作は至る所がスマートで、解錠することで顔を出すドアハンドル、ドアを開けると自動で出てくる踏み台、着座すると自動で奥行きを調整してくれる電動の座席など、従来のクルマにはなかった機能が多数搭載されている。解錠などの操作はスマホやウェアラブルデバイスから行える。

↑開場すると自動で出てくるドアハンドル。普段は収納されている

 

↑ドアを開けると、黒い踏み台が下から出てくる

 

↑スマホの操作画面

 

2階には、スマートホームのモデルルームも

2階に上がると、スマートホームのモデルルームがあった、リビングとダイニングキッチンが再現されたこの部屋では、HarmonyOSのエコシステムが、家の姿をどう変えるかを体感できる。

↑玄関の生体認証機器

 

↑リビングには、98インチの大型ディスプレイが設置されている

 

↑「リラックスモードにして」と声でリクエストすると、照明が暖色に切り替わる

 

↑リビングに設置されたスピーカー(写真左下)。4台がソファーの周囲を囲い、サラウンド感のある音を鳴らす

 

↑キッチンにもHarmonyOSが搭載されている。冷蔵庫には、収納物を入れてから何日経っているか検知する機能がある

 

↑換気扇にあった、HarmonyOSの搭載を示すラベル。換気扇にまでOSが搭載されているのは驚きだ

 

日本ではウェアラブルデバイスメーカーとしての印象が強いファーウェイだが、中国ではより広範囲のコンシューマー事業を展開している。このフラグシップストアを訪問した筆者は、その事業範囲の広さを実感した。

 

タブレットと声で家中の操作が完結する“未来の家”

フラグシップストアにあったスマートホームのモデルルームは、近未来を予感させるものだった。それよりはるかに大規模なスマートホームがあるのが、ファーウェイのスマートラボだ。高層ビルの44階に入居しているこのラボには、リビング、ダイニングキッチン、寝室、キッズルームなどを備えた、巨大なスマートホームが設置されている。

↑広大なリビング。照明や空調、カーテンの開閉、テレビのオンオフ、オーディオの再生まで、全て自動化されている

 

スマートホームの中には、リビング、寝室、ダイニングキッチンなど様々な部屋があるが、その全てに共通しているのが、1台のタブレットによって操作が完結すること。これが実現しているのは、照明からオーディオ、各種家電に至るまで、あらゆる機器がHarmonyOSに対応しているからだ。

↑タブレットのホーム画面。左側には来客時やリラックスなど、シチュエーションのメニューが表示されており、これをタップすると照明などが自動で調整される

 

↑直感的な操作モードも搭載。中央のリングの外周に各部屋の名称が表示されており、それをリング内にスワイプすることで、個々の部屋の操作画面が表示される

 

↑各所に設置されたカメラで家中の様子を確認できるから、セキュリティも万全だ

 

↑電力の使用状況も一目瞭然

 

↑タブレットは各部屋に設置されている。写真はダイニングキッチンの壁面

 

家の設備は、音声操作にも対応している。人の発声からシステムの動作までのタイムラグがないのが印象的で、特にカーテンの開閉ではそれを如実に感じた。発声からカーテンの動作までにかかる時間は、体感では1秒もなかった。

↑声で「リラックスモードにして」と指示すると、ソファが自動でリクライニングする

 

↑キッチンはまさかの可動式。ボタンタップで天板が動き、シンクが現れる

 

↑ダイニング。食事や記念日など、シチュエーションを指示すると、照明が自動で調整される

 

↑洗濯機の脇にある物干しも可動式で、普段は天井に格納され、必要なときに降りてくる。中国では部屋干しが主流であるため、これは欠かせない

 

↑キッズルームの学習机には、子どもがしっかり勉強しているか、その様子をモニタリングする機能がある

 

↑キッズルームの天井にはプラネタリウムが内蔵されていた。併設のスピーカーには、絵本の読み聞かせ機能もある

 

スマートホームでは、細かな技術が光っていた。それが、人感センサーで点灯する読書灯だ。人感センサーを搭載した照明はすでに世の中に多く普及しているが、誤作動があるものも多い。しかしここの読書灯はそれを可能な限り抑えている。たとえば、動物が近寄っても照明はまったく動作しない。

↑スマートホームの読書灯。コンパクトだが、点灯時には十分な明るさがあった

 

↑枕はなんとスマート枕。照明と連携し、人が寝ているのを検知したら明かりを落とし、トイレなどに起きた際には足元のライトをつけてくれる

 

↑掃除などを行うロボット

 

スマートホームは災害にも強い。あらゆる電気機器の制御を統合しているホームマシンが、災害時には生活のために最低限必要なものだけを選び、太陽光発電によって動作させる。

↑ホームマシン。ここから400以上の機器に接続できる

 

ファーウェイのコンシューマー事業のコンセプトは、「すべての人に最適なデバイスを届ける」こと。スマートカーやスマートホームも含めて、同社が多彩な製品を開発している理由はそこにある。それらの機器にもれなく搭載されるHarmonyOSは、アメリカの制裁によって産まれたものではあるが、いまやファーウェイの幅広い製品展開を支える根幹に成長しており、同社の底力の大きさを感じさせる。日本の対岸で着々と拡張しているそのエコシステムは、世界へ乗り出す機会をうかがっているのだ。