工事により車線規制をする高速道路(写真:yukiotoko / PIXTA)

最近、民放のテレビ番組を見ていると、NEXCO各社からの高速道路の工事による通行止めや、車線減少への注意喚起のお知らせを目にする機会が非常に多い。

筆者は東京在住なので、夏前からは東名高速道路の多摩川橋の改修による、東京IC(インターチェンジ)〜東名川崎ICの通行規制の案内を頻繁に視聴するし、9月になってからは上信越道の佐久付近や坂城付近の規制の告知もよく目にする。


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今、高速道路は改修・リニューアルラッシュの真っ最中。NEXCO各社のホームページには、実に多くのリニューアル工事情報が載っているのだ。

国内の主要な高速道路が概ね整備された今、高速道路会社の使命が「新規建設」から「老朽化対策」へとシフトしていることを感じさせられる。

数字で例を挙げた方がわかりやすいので、一例としてNEXCO東日本が公開している今年度の事業費内訳を見てみよう。

本年度予算の最新のデータによれば、高速道路事業の費用は、総額9021億円。そのうち新設・改築が3647億円、維持・修繕・災害復旧その他の管理に4536億円、大規模更新・大規模修繕が838億円となっている。

およそ1割を大規模な更新・修繕に費やしているばかりか、維持や修繕も入れると高速道路事業の予算の約6割が、維持や修繕に使われていることがわかる。

首都高速「大師橋」架け替えの舞台裏

最近、行われた高速道路の大規模なリニューアルといえば、2023年5月から6月にかけて実際された、首都高速道路羽田線・高速大師橋(以下:大師橋)の架け替え工事だろう。多摩川河口付近に架かる大師橋の架け替えでは、2週間あまりの通行止めが行われた。


既存の橋と新造の橋をスライドさせる大規模な工事となった高速大師橋(写真:tomotatsu / PIXTA)

大師橋は1968年に完成してから55年が経過し、1200カ所以上の亀裂が見つかるなど、老朽化が著しかった橋である。

1日およそ8万台が通過する大動脈の通行止めのため、単なる工事のお知らせだけでなく、羽田空港へ行くリムジンバスの遅れが見込まれることから鉄道を利用するよう促すなど、かなり踏み込んだ注意喚起を繰り返し行っていたことが記憶に新しい。

この大師橋の架け替えの一部始終を記録した番組が9月18日(月)、NHK総合テレビで放送された。番組名は、『解体キングダム』。

この番組は、普段見ることができないビルなどの解体現場に潜入し、特殊な技術を持つ職人技に迫るものだ。2020年から不定期で放送されていたが、今年4月から週1回のレギュラー番組に「昇格」している。

9月18日の放送は、いつもより長い72分のスペシャルバージョンで、大師橋の架け替えの全貌を、100台ものカメラを据えて見せてくれていた。

この工事の特徴は長さ300m、重さ4000トンもの巨大な橋梁をわずか2週間でそっくり入れ替えるという工事期間、つまり通行止め期間の驚異的な短さにある。

そのため、既存の橋の隣に橋脚を建てるとともに、別の場所で橋げたを建造し、現地に船で運搬。橋脚に乗せたあと、既存の橋と新造の橋の2つを同時にスライドさせて、橋を丸ごと入れ替えるという工法が採られた。


新しくなった高速大師橋(写真:tommy / PIXTA)

超重量級の橋をスムースに滑らせるために、スライドレールと呼ばれる部分にはステンレス、その上を滑る橋脚の乗った箱型の「シップ」と呼ばれる器具には、テフロン板と呼ばれるフッ素樹脂を使って極限まで摩擦係数を減らすなど興味深い工夫が満載で、72分の番組の大半はこの橋のスライドのシーンに焦点が当てられていた。

増えゆく大規模リニューアルへの課題

この番組を視聴して感じたことは2つ。1つは、高速道路に限らず、高度成長期に建設され、解体・大改修が必要となる施設が日本中にあるに違いない、ということ。だからこそ、『解体キングダム』という番組が週1のレギュラーで成り立つわけである。

伝統的な木造家屋の解体ならそれほど手間や時間を要さないが、コンクリートでできた建造物の解体や建て替えがいかに大変かを、改めて考えさせられる。

もう1つは、こうした特殊なワザを持つ職人が、今後どんどん減っていくであろうこと。

すでに建設現場は慢性的な人手不足だといわれるが、特殊な職人技をどのように継承していくのか。そこにも、関心と危惧を抱かざるを得なかった。

高度成長期に造られたもう1つの大規模な交通インフラとして、東海道新幹線がある。


雨の中を走る東海道新幹線(写真:ユキユキ / PIXTA)

今年8月中旬には、静岡県内の豪雨で2日にまたがって大きくダイヤが乱れ、お盆明け直後の足に大きな影響を及ぼした。

また、9月15日の夕方、今度は神奈川県内の豪雨で再び1時間ほど運転を見合わせたが、それだけで「のぞみ」の停車各駅は大混雑となった。

東海道新幹線は盛り土区間が多く、雨量による規制があとに造られた新幹線より厳しい。今後、さらに異常気象が増加することを考えると、2024年に開業60年を迎える東海道新幹線の抜本的なリニューアルも、考えなくてはいけないだろう。

東名や名神は「複線化」が進むが……

ヨーロッパなど海外で運転する機会も多い筆者は、アウトバーンで知られるドイツでも、よく道路の改修区間を通ることがある。

日本であれば、片側2車線や3車線のうち1車線を通行止めにして工事をすることが多いが、ドイツでは車線の幅を少しずつ縮めて、車線の数(通行帯)を減らさずに工事を行う場面によく遭遇した。渋滞を極力、発生させない交通整理の仕方である。

日本よりも道路幅に余裕があるからできる芸当のように思うが、それでも隣の巨大なトレーラーと接触しそうなほどの至近距離で走る際には、かなり肝を冷やした。


対向車線の工事で一車線減っても路肩も利用して3車線確保しているドイツの高速道路(筆者撮影)

また、もう少し視野を広げてみると、通行車両の多い区間には、少し離れて別の高速道路が並行して設けられていることも多い。どこかを通行止めにしても、並行する高速道路に迂回させることで、交通の分断を防ぐのだ。

日本でも東名や名神では、「複線化」が進んでいるが、災害時や大規模工事の際の別ルートを確保する「リダンダンシー(冗長性)」の考えは、老朽化の進行や災害の多発化を考えると、ますます必要になってくるようにも感じる。

「作る時代」から「守る時代」へ。高速道路のリニューアル工事のニュースは、改めて私たちが新たな時代に入ったことを感じさせてくれる。

(佐滝 剛弘 : 城西国際大学教授)