2023年、米連邦取引委員会(FTC)の法律家など、政府の規制当局にとって、ゲーム内広告は激しい議論を巻き起こす問題になりつつある。9月中旬に公表されたFTCの新たな文書では、マーケティングとエンターテインメントの境界線を曖昧にする広告の潜在的なリスクがクローズアップされている。

FTC関係者が9月14日に公表した文書は、「曖昧な広告(周囲のコンテンツにしっくりと溶け込むデジタル広告)」の限界を浮き彫りにしている。文書の所見は、2022年10月にFTCが主催したワークショップから導き出されたもので、このワークショップでは動画やビデオゲーム、それ以外の形態のデジタルメディア内にある広告とのエンゲージメントについて話し合う公開討論会が開かれた。

「特定の問題についてもっと知りたいときにワークショップを主催する場合が多い」と、FTCでプロジェクトを主導した上席弁護士のミシェル・ローゼンタール氏は語る。「このワークショップは、学者や消費者保護団体、業界の代表者を集めるのが目標だった。最新の研究の状況を探るために、自主規制機関の米商事改善協会(Better Business Bureau)も含めた」。

子どもは広告とほかの形態のコンテンツを区別するのが難しい?



ローゼンタール氏は、「FTCはほかのゲームプラットフォームも招待したが、参加した著名なゲームコミュニティプラットフォームはYouTubeだけだった」と付け加えた。ワークショップへの参加を求められた者すべてが実際に参加したわけではないという。

今回公表された文書によると、ワークショップから導き出された結論は明白だ。子どもは、広告とほかの形態のコンテンツを区別するのがますます難しくなっており、この現象により、子どもが誤って購入したり、意図せずに個人データを共有したりする場合もある。子どもが最近、ゲームに費やす正味時間を考えると、この結果はFTCにとって大きな懸念材料だった。

「リポートによれば、エンターテインメント目的で画面を見ている時間は、8〜12歳の子どもでは1日に約5時間半で、13〜18歳では約8時間半だ」とローゼンタール氏は述べた。

FTC関係者は、広告主が曖昧な広告を完全に避けるよう示唆して、文書を締めくくっている。「ゲームメーカーやソーシャルメディアのインフルエンサー、ほかのコンテンツクリエイターは、TV番組のコマーシャルの広告表示方法と同様に、黒または白の画面や広告メッセージの前後など、短くワンクッション置くことを検討すべきだ」。

子どものエンゲージメント状況を監視する措置



ゲーム内広告は、今のペースでいくと、今後10年間に数十億ドル(数千億円)規模の市場に成長する見込みであり、ゲームプラットフォーム内での子どものアクティビティを規制することは、今では米国などの政策立案者にとって喫緊の課題だ。

この1年間、規制当局などの政府機関は、法律制定と子ども向けの安全ツールを開発する企業に対する財政支援の両方のかたちで、ブランドと子どものゲーム内におけるエンゲージメント状況を監視するために、かつてないほど多くの措置を講じてきた。

たとえば、子どもを対象とした安全技術企業Kidasは昨年、イスラエルと米国の2国間産業研究開発(Binational Industrial Research and Development:以下、BIRD)財団から100万ドル(約1億4880万円)の助成金を受け取った。米国政府とイスラエル政府は、Kidasとその配信パートナーであるオーバーウルフ(Overwolf)に対して助成金を共同で提供したのだ。

「このプロジェクトへの資金拠出は、ゲーム業界を扱うプロジェクトという事実と特に関係があるわけではない。むしろ、子どもに安全マージンを提供している事実に関係している」と、BIRD財団のビジネス開発担当ディレクターであるオメル・カーメル氏は語り、「その面で、大きな影響があるからだ」と言い添えた。

さらなる資金を得た結果、 Kidasは、マーケティングを大幅に強化し、サービスへのサインアップ数を倍近くに増やすことができた。「こうした評価は重要だ」と、KidasのCEOであるロン・カーブス氏は言う。「コムキャスト(Comcast)やインテル(Intel)のような大手企業にアプローチする際、米英政府から助成金の支給対象と見なされた事実によって、信頼性が大いに高まる」。

ゲーム空間を安全で公正な場にすることが必要不可欠



ゲームは、米国のリチャード・ブルーメンソール上院議員(民主党、コネチカット州選出)とマーシャ・ブラックバーン上院議員(共和党、テネシー州選出)が2023年5月に再提出した「子どもオンライン安全法案(Kids Online Safety Act)」の一要素でもある。ゲームプラットフォームで子どものアクティビティが増加していることも影響して、この法案が提出されたが、批評家からは、現在の法案の文言により、オンラインユーザーの権利が制限される危険性があるとの声も上がっている。

「私たちが目にしているこのパラダイムシフトでは、無秩序なメディアが横行しており、人々はマクロレベルでどういう水準の操作が行われるのかを目の当たりにしている。これは残念ながら、子どもとその安全が関係している」と、Discord(ディスコード)モデレーション技術企業ジョイン(Joyn)の共同創業者でオンラインにおける安全の専門家であるジェイコブ・ダールマン氏は述べた。

ビデオゲームも、未成年のユーザーも、なくなることはない。だが、ブランドがゲームのエコシステムへの関与を深め続けるなかで、政府が介入し、ゲーム空間を関係者全員にとってより安全で公正な場にすることが必要不可欠になりつつある。今のところ、規制当局はまだ、ゲーム内で発生する大量のオンラインエンゲージメントとアクティビティに追いつこうとしているところだ。

「技術のペースが速いため、政府機関の在り方や対応のための調整ペースが、技術全体のスピードに対応していない」と、オーバーウルフのCMOであるシャハル・ソレク氏は指摘する。「だから、非常に急速に大きな進歩を遂げている分野がいくつかあっても、需要を満たせない分野がある。(そうした需要を)満たせるようになるべきなのだ」。

[原文:Why regulators at the FTC and beyond are turning an eye to child safety in gaming in 2023]

Alexander Lee(翻訳:矢倉美登里/ガリレオ、編集:島田涼平)