恒大集団が建設するマンション。資金不足により工事が滞る物件は多い(写真は同社ウェブサイトより)

中国の深圳市公安局は9月16日夜、経営再建中の不動産大手、恒大集団(エバーグランデ)傘下の資産管理会社、恒大財富(エバーグランデ・ウェルス)の社員に対し公安当局が刑事強制措置(訳注:通常は身柄拘束や逮捕を指す)を取ったと発表した。

刑事強制措置の対象には「杜」という姓の容疑者が含まれている。恒大財富の状況を総合的に見て、同社の董事長(会長)の杜亮氏であるとみられる。恒大財富は個人投資家向けに販売した多額の金融商品の償還が困難になっており、これらの投資家から金融当局などに告発されていた。

恒大財富の旧社名は「恒大金服」で、2015年11月18日に設立された恒大集団の100%子会社だ。恒大金服は不動産に特化した資金運用を行うP2P(ピアツーピア)金融業務の運営に携わっていた。2018年以降、中国の複数の地方でP2P金融を手がける企業の乱脈経営が表面化、業界全体が業務是正を余儀なくされた。恒大金服の社名で販売していた金融商品はそれ以降は姿を消し、同社は2019年5月30日に恒大財富へと社名変更した。

だが社名変更後も恒大財富は理財商品(高利回りの資産運用商品)を販売。そこで調達した資金は(本来の目的に使われずに)プールされ、各種のプロジェクトだけでなく、恒大集団本社も流用するなど「自己金融」の典型例だった。

当局の許可なく違法資金調達か

2020年1月、湖南省長沙市雨花区当局の非合法資金調達摘発の担当部門は、市民が恒大集団の子会社の理財商品を購入する際には慎重に対応するよう文書で警告した。

この文書は、雨花区内にある恒大集団のマンションで理財商品の広告宣伝が行われていたことを指摘。調査の結果、恒大財富とやはり恒大傘下の宸宇投資管理が、湖南省政府から理財商品販売などの金融業務に必要な許可証を取得せずに、違法な資金調達を行った疑いがあることがわかった。

2021年9月上旬には恒大財富の違法経営が改めて摘発され、すべての理財商品の元本の償還を停止したことから、全国各地で債権者が抗議行動を起こした。


調達資金の多くがグループ内で流用された結果、本体の経営危機により償還も危うくなる負の連鎖につながった(写真は恒大集団のウェブサイトより)

財新記者が複数の情報源のデータをもとに計算したところ、恒大財富関連の理財商品の未償還金額は保守的に見積もっても約400億元(約8126億円)に達していたことがわかった。

資産処分進まず5月には償還停止も


本記事は「財新」の提供記事です

恒大財富は2021年9月13日に理財商品の償還案を発表。現金による分割払い、現物資産による支払い、理財商品の残高と不動産ローン残金の相殺という3種類の償還方式のなかから、いずれかを選ぶよう投資家に提案した。

ところが、現金による支払い額はその後に何回も引き下げられ、投資家の期待していた額から遠くかけ離れてしまった。このため、投資家らは幾度となく深圳市金融監督管理局、恒大財富問題を担当する深圳市政府のプロジェクトチームの事務局、深圳市公安局の経済金融犯罪捜査部門などに告発を行った。

さらに2023年に入ると、恒大財富の償還案はまったく履行されない「空手形」と化した。5月31日夜、恒大財富は「資産の現金化の遅れから理財商品の償還資金が不足し、予定した償還ができなくなった」と発表していた。

(財新記者:王娟娟)
※原文の配信は9月17日

(財新 Biz&Tech)