(漫画:©︎三田紀房/コルク)

記憶力や論理的思考力・説明力、抽象的な思考能力など、「頭がいい」といわれる人の特徴になるような能力というのは、先天的に決められている部分があり、後天的に獲得している能力は少ないと考える人が多いのではないでしょうか。

その考えを否定するのが、偏差値35から東大合格を果たした西岡壱誠氏です。漫画『ドラゴン桜2』(講談社)編集担当の西岡氏は、小学校、中学校では成績が振るわず、高校入学時に東大に合格するなんて誰も思っていなかったような人が、一念発起して勉強し、偏差値を一気に上げて合格するという「リアルドラゴン桜」な実例を集めて全国いろんな学校に教育実践を行う「チームドラゴン桜」を作っています。

そこで集まった知見を基に、後天的に身につけられる「東大に合格できるくらい頭をよくするテクニック」を伝授するこの連載(毎週火曜日配信)。連載を再構成し、加筆修正を加えた新刊『なぜか結果を出す人が勉強以前にやっていること』が、発売後すぐに3万部のベストセラーとなっています。第82回は、理解力を高めるために東大生が実践している習慣、について解説します。

東大生は、もともと理解力が高い?


東大生は、「理解する力」が高いです。先生の話を聞いたり、本を読んだりするときに、すんなりと簡単に理解することができます。

そう聞くと、「やっぱり東大生は、生まれつき理解力が高いから東大に合格したんだな」と思われるかもしれません。ですが、実はこの「理解する力」は、日頃の習慣によって後天的に身につけることができる力です。

『ドラゴン桜』のマンガにも、そのヒントが示されているのでご覧ください。東大数学の入試問題で、「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」という問題を解く時のアドバイスをするシーンです。

※外部配信先では漫画を全部閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください





(漫画:©︎三田紀房/コルク)





(漫画:©︎三田紀房/コルク)





(漫画:©︎三田紀房/コルク)



(漫画:©︎三田紀房/コルク)

いかがでしょうか。

抽象的に考えるのではなく、「東京ドーム何個分」のように具体的に考えることが理解の秘訣だという話でしたね。

東大生は、勉強する際のちょっとした工夫で、この思考法をしっかりと身につけています。

例えば、学校の教科書でもイラストや写真・身近な事例などを見て具体的なイメージを付けたり、漫画でも語られているとおり数学の問題でも具体的な数字から入れてみたり。

「バカな奴は単純なことを複雑に考える。普通の奴は複雑なことを複雑に考える。賢い奴は複雑なことを単純に考える」というのは京セラの創業者である実業家、故・稲盛和夫氏の言葉ですが、この言葉どおり、難しいことをシンプルに考えることが理解度を高めるポイントです。

理解度を高める3つのポイント

さて、具体的に、以下の3つのポイントを意識するといいでしょう。

・細かい要素に分解する
・身近なものとの共通点を探す
・結果に対する原因を考える

例えば、ドップラー効果という物理現象を勉強するとしましょう。教科書通りの説明だと

「波の発生源、または観測者の移動によって、
波の周波数が本来のものとは異なって観測される現象」

ですが、ちょっとわかりにくいですね。これを「救急車が通り過ぎる前と後で、サイレンの音が変化して聞こえるのと同じ現象」と置き換えたらどうでしょうか。一気にわかりやすくなりましたよね?

この例えから、説明の要素を分解して

・波→救急車のサイレン
・相対的な速度→通り過ぎる
・本来のものとは異なって観測される→音が変わる

と共通点や原因を考えて置き換えてみましょう。

こんなふうに、身の周りの物事を「別の言い方はないかな?」とか「ほかに似たような例はないかな?」という視点で眺めるようにするのが、シンプルに考えるためのカギです。

実際に頭のいい人はどんな事でも「抽象⇔具体」の思考を往復しているため、理解や発想のスピードが違います。

東大生の子たちと話していても「それってつまり、こういうことですね」とすぐに要点をとらえたり、反対にこちらが要点を話すと「それって例えばこういうことですね」と具体的なイメージをすぐにつかんだりします。

また、彼らは人から具体例を出してもらって理解するだけでは満足しません。

先ほどのドップラー効果の例でも、理解するだけなら「救急車のサイレンと同じ」でいいのですが、さらに思考を発展させて「じゃあF1カーが通り過ぎるときのエンジン音が変化して聞こえるのも同じことかな?」とか「波の周波数ってことは、音だけじゃなくて光の波長にもあてはまるのかな?」といったことまで考えます。

これが習慣になっているので、自然と思考力が鍛えられているんですね。「一を聞いて十を知る」ではなく、「十まで推測する」と言ったほうが正しいかもしれません。

また、矛盾するようですが、最初はあえて抽象度が高いままで理解するほうがいいこともあります。例えば歴史の勉強をしていると、山ほど覚えることが出てきます。

教科書の最初から順に、人類の祖先の種類だの、石器がどうのと細かいことを覚えていてはキリがありません。そこで、要領のいい人はまず全体像の把握から始めるのです。

「人類が誕生した→文明が生まれた→人口の増加とともに争いが生じるようになった」というように要点だけつかんでおくと、情報量が圧縮されているため覚える負担が少なく、スムーズに頭に入ります。その後で段階的に具体的な知識を加えていくことで、効率的に覚えられるというわけですね。

日常やビジネスシーンでも役に立つ

このように「抽象⇔具体」の間を行き来することは、勉強に役立つだけではありません。日常生活やビジネスシーンでのさまざまな問題解決にも活かせるはずです。

「抽象→具体」であれば、問題の原因と解決策の糸口が見えるでしょうし、「具体→抽象」であれば個別の事例から根本の問題点が見えるきっかけになるでしょう。

頭の回転とは決して生まれつきの才能ではなく、トレーニングによって鍛えられます。難しいことをシンプルに考える意識を、ぜひ生活に取り入れてみてください。

(青戸 一之 : 東大卒講師・ドラゴン桜noteマガジン編集長)