千代田線のイベントで披露された車両。左から5000系、中央が6000系、右が7000系(2018年11月筆者撮影)

東京メトロの路線には初代・銀座線1000形をはじめ、新路線が開業するたびに時代の最高技術を詰め込んだ名車が投入されてきた。それぞれの名車の解説については、すでにさまざまな場所で紹介されているため、今回は割愛し、現状の保存状態について解説していく。

完全に姿を消すことはあまりない

まずは「赤い貴公子」と呼ばれ、両開きドア、駆動システムにWNドライブ、電磁直通ブレーキなど、当時の新機軸を搭載した丸ノ内線の300形と500形である。300形は葛西駅の高架下にある「地下鉄博物館」にて展示されている。500形は、譲渡先のアルゼンチンの首都「ブエノスアレス」での活躍後に帰国し、引退した銀座線01系(101編成)3両編成と共に、中野検車区に保存されている。

また、マッコウクジラと呼ばれたセミステンレス製の日比谷線3000系は、日本初のATC導入車である。この3000系は南千住検車区に2両が保存されている。東西線で活躍し、当時の営団地下鉄(現・東京メトロ)としては初の20メートル車両だった5000系は、綾瀬車両基地にて保存。さらに世界初のサイリスタチョッパ制御を搭載した名車、千代田線6000系においては、試作車(6000−編成)ハイフン車の3両編成が、総合研修訓練センターにて保存され、量産1号車(6102編成)10両編成と、有楽町線7000系の第1編成(7101編成)が、新木場車両基地で保存されている。このように、東京メトロにおいては引退した車両とはいえ、解体して完全に姿を消すということはあまりない。

東京での活躍後、地方に譲渡されて運行を続ける車両もある。ローカル私鉄に送られることが多く、銀座線や丸ノ内線で活躍していた2000形は、集電方法を第三軌条方式から架空電車線方式に変更後、日立電鉄や銚子電鉄に譲渡された(いずれも、すでに引退している)。

そのほかにも日比谷線3000系が長野電鉄に、銀座線01系が熊本電鉄に、日比谷線03系も熊本電鉄、北陸鉄道、長野電鉄に譲渡され運行されている(日比谷線3000系の長野電鉄での運用は終了している)。引き続き公共交通としての役割を担っている車両は幸せだと、その姿を見るたびに心底感じている。

6000系や7000系の動向は?

現在でも東京メトロの車両基地で動態保存されている車両は、この状態のまま、いつまで保存されるのであろうか?

例えば、6000系(6102編成)や7000系(7101編成)に至っては、フル(10両)編成で残されており、今後、もしも博物館での保存となったときには、スペースの都合も考えなければならない。現に地下鉄博物館で保存された銀座線01系は、お顔の部分だけがカットされた状態で展示されており、少し残念な気分になってしまうのは否めない。

6000系や7000系の動向、そしてこれから引退していく8000系や02系などの車種は、今後どのような処遇になってゆくのか。

まず、中野車両基地で保存されている500形の保存背景について、東京メトロ・広報部に直接聞いてみたところ、「500形は、技術伝承を目的に、2016年に譲渡先のアルゼンチンより再取得して、復元作業を行っている」ということだ。この件は同社からのプレスも発表されているが、最近は車両基地内で移動もしているようで、敷地外からでもその姿を見ることができる。

次に新木場の車両基地で保存している2形式(6000系・7000系)の保存背景については、「6000系、7000系については、イベントおよび、訓練等での活用を目的として、保存している」ということだ。

また、500形や6000系・7000系に関して、今後の処遇や動向についても尋ねた。東京メトロによると、「今後の動向については未定。また保存方法等の詳細についても未定」という。

なお、8000系や02系など、今後引退していく車両についても、保存していく方針はあるのかも尋ねた。「今後の引退車両の保存方針については検討中であり、また保存方法等の詳細についても未定」ということであった。

インドネシアの突然の決定

6000系と7000系の一部はインドネシアのKCIコミューター(ジャカルタ首都圏の鉄道会社)に譲渡されており、現在も現地の通勤の足として運行を続けている。この譲渡にあたっては、日本とインドネシア両国の外交によって実現している。インドネシアでは、元東京メトロの車両だけではなく、東急やJR東日本の車両も活躍している。

ところが、インドネシア政府が、「今後、日本からの中古電車の輸入は一切認めない」と2023年6月22日に決定した。新木場での保存車両にも影響が出る可能性があるのではないか。東京メトロで保存されている気になる車両たちの今後はどうなっていくのか。その動向について、これからも引き続き調査を続けていきたい。

(渡部 史絵 : 鉄道ジャーナリスト)