国軒高科はアメリカで車載電池の一貫生産を目指している。写真は安徽省合肥市の本社ビル(同社ウェブサイトより)

中国の車載電池大手の国軒高科(ゴーション・ハイテク)が、アメリカのイリノイ州に20億ドル(約2955億円)を投じて工場を建設することがわかった。9月8日、同州のJ.B.プリツカー知事が声明を出して明らかにした。

新工場は(イリノイ州の最大都市である)シカゴから南に約80キロメートル離れたモンテノに建設される。生産能力(容量ベース)は車載電池用の電池セルが年間40GWh(ギガワット時)、電池パックが同10GWhを計画しており、2024年の稼働を目指す。

イリノイ州が315億円の税制優遇

プリツカー知事の声明によれば、この工場の進出により地元に2600人を超える高賃金の雇用機会が創出されるという。その見返りとして、州政府は国軒高科に対して30年間で2億1300万ドル(約315億円)に上る税金の優遇措置を提供する。

国軒高科は、アメリカで車載電池を材料段階から一貫生産できる体制を整えようとしている。同社は2022年10月、アメリカのミシガン州に23億6000万ドル(約3487億円)を投じて車載電池の正極材料と負極材料の工場を建設すると発表。同州政府の公表資料によれば、完成時には年間15万トンの正極材料と同5万トンの負極材料を生産する計画だ。

国軒高科の積極投資の背景には、アメリカで2022年8月に成立した歳出・歳入法(インフレ抑制法)の影響がある。

同法は、アメリカの消費者が購入するEV(電気自動車)に1台当たり最大7500ドル(約111万円)の税額控除を認める一方、EVに組み込まれる車載電池や電池材料の一定比率以上をアメリカ国内またはアメリカと自由貿易協定を締結した国で生産するよう求めている。

とはいえ、仮にインフレ抑制法の要件をクリアしても安心とは言えない。中国企業はアメリカ政府から国家安全保障や外交政策上の懸念がある外国の事業体と見なされ、制裁対象となる可能性があるからだ。

CATLは「迂回的な手法」で進出計画

そんななか、国軒高科は対米外国投資委員会 (CFIUS) に対して関連資料を自主的に提出し、審査を願い出た。同社が6月13日に出した声明によれば、CFIUSは「国軒高科の計画に国家安全保障上のリスクはなく、プロジェクトを推進しても問題ない」との結論を伝えてきたという。


CATLはフォードとの提携を通じて、アメリカに生産拠点を築こうとしている。写真は電池工場の建設を発表するフォードのビル・フォード会長(同社ウェブサイトより)

直接投資でアメリカに工場を作る国軒高科に対し、異なる動きを見せているのが中国の車載電池最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)だ。同社は迂回的な手法をとることで、アメリカに生産拠点を築こうとしている。


本記事は「財新」の提供記事です

2023年2月、CATLはアメリカ自動車大手のフォード・モーターと「新形式の提携」に合意。その内容は、フォードが単独出資で(ミシガン州に)車載電池工場を建設し、CATLがリン酸鉄系リチウムイオン電池の関連技術や(生産立ち上げの)サポート・サービスを提供するというものだ。

アメリカのEV大手のテスラも、同様の方式でCATLとの協業を検討中とみられている。

(財新記者:安麗敏)
※原文の配信は9月10日

(財新 Biz&Tech)