紫外線による日焼けは皮膚というイメージがありますが、実は眼にもあります(写真:sasaki106/PIXTA)

猛暑の夏は少しずつ落ち着いてきていますが、まだまだ日中の日差しが強い日々が続いています。日差しに含まれる紫外線による日焼けは皮膚というイメージがありますが、実は眼にも日焼けがあります。紫外線はさまざまな眼の病気と関わりがあるため、日常的な予防策が必要であるといえます。

紫外線を眼に浴びると、表面にある角膜(黒目の部分)がまずダメージを受けます。医学的には「紫外線角膜障害」などと呼ばれ、スキー場で起こる「雪目」もこのひとつです。スキー場では雪に反射した太陽光に眼が長時間さらされることで起こりますが、太陽光の強い場所、すなわち海水浴場や標高の高い山でも起こります。

感染症のリスクになることも

症状は眼の痛みや充血、ゴロゴロ感であり、角膜が再生するとともに通常は数日程度でおさまります。しかし症状がひどい場合は角膜が荒れることで(角膜びらん、角膜潰瘍)感染のリスクにもなるため、屋外活動の後に眼の痛みや充血がある場合は眼科を受診して抗菌薬の目薬や鎮痛薬を処方してもらいましょう。

なお、ドライアイがもともとあり角膜が乾いている方はよりダメージを受けやすいため、涙に近い成分の点眼薬を付けることで潤いを保つように心がけましょう。

眼の表面のダメージとして、結膜(白目の部分)に紫外線が当たると「翼状片」という疾患を引き起こす場合があります。これは結膜の細胞が増殖することで、白目が黒目側に伸びてきてしまう疾患です。細胞の増殖と言っても悪性ではなく命に関わるものではありませんが、伸びてきた白目が黒目を引っ張ることで乱視がひどくなるほか、黒目を覆うほど進行すると視力が低下してしまいます。これは点眼薬で治すことはできず、根本治療は増殖した部分を切り取る手術です。さらに再発する場合もあり、予防が大切な疾患のひとつです。

紫外線がより眼の奥まで届くと、水晶体に影響が出てきます。水晶体は眼をカメラに例えるとレンズの役割を担っており、視力を保つためにとても大切な器官ですが、ここにダメージが蓄積することで「白内障」がより進行するといわれています。

「加齢黄斑変性」とはどんな症状?

とくに紫外線はこの水晶体で吸収されるため、影響が出やすい部分でもあります。白内障の原因は主に加齢によって水晶体が硬く濁ってしまうことであり、高齢者の病気であると思われがちですが、紫外線を多く浴びる生活を続けることで若年者でも白内障となることがあります。症状は眼のかすみや光の眩しさであり、点眼薬では治療できないため、日常生活に困った段階で濁った水晶体を人工のレンズに取り換える手術となります。

水晶体のさらに奥、網膜に紫外線が当たることでも「加齢黄斑変性」といった網膜疾患が引き起こされることがあります。こちらも名前のとおり加齢による疾患ですが、紫外線によって網膜にある黄斑という視力に関わる細胞が多く存在するところが障害され変性することで、ものが歪んで見える、視力が低下するという症状が出てきます。

また加齢黄斑変性は進行すると網膜の血管が障害され、ここに新たな血管(新生血管)が伸びてきます。新生血管は急ごしらえの脆く不完全な血管であるため出血しやすく、眼の中で出血が起こることで視力が低下してしまいます。そのため加齢黄斑変性と診断されると、この新生血管を伸びにくくする注射を眼に直接打つ必要があるほか、出血がひどい場合は眼の中の手術となります。なお、加齢黄斑変性は喫煙も大きなリスクとなっていますので、紫外線だけでなくタバコの吸いすぎにも注意が必要です。

これらの疾患の予防のためには、日常的に眼に直接紫外線が当たらないような工夫を行うことが重要です。外出時には帽子や日傘を使っていただくほか、UVカットのサングラスの使用も効果的です。

疾患の予防のためにできること

ここで注意したいことは、サングラスのレンズの色の濃さと紫外線の通しにくさには関係がないという点です。濃い色のレンズは眩しさを確かに軽減してくれますが、眩しさと紫外線は光の波長が異なるため別物であり、紫外線を軽減していることにはなりません。

むしろ色の濃いレンズでは視界が暗くなり、ものをよく見ようと生理的に瞳孔が開いてしまう(散瞳)ため通常よりも多くの紫外線を浴びてしまいます。メーカーによっては透明なレンズながらUVカット効果の高いサングラスやコンタクトがありますので、ぜひ一度調べてみてください。

紫外線は夏だけでなく1年を通して振り注いでいるため、秋冬でも対策が必要です。屋外での活動が長くなってしまったときはまぶたを保冷剤などで冷やし、ディスプレーやスマホ画面を見るのも当日は極力避けて眼を休めましょう。

眼の日焼けは、皮膚の日焼けによるヒリヒリ感や赤みと違い、じわじわと進行するものも多いため気付いたときにはダメージが蓄積されていることも少なくありません。視覚は五感で得る情報の9割を占めているともいわれています。いくつになってもクリアな視界でいられるよう、眼のケアを日常生活に取り入れていきましょう。

(上原 桃子 : 医師・産業医)