紙おむつや生理用品等で競合するが、海外展開ではユニ・チャームに軍配が上がる(撮影:尾形文繁)

転換期は2022年だった。ユニ・チャームの時価総額が3兆円を上回る一方、花王は3兆円を割り込むようになった。

両社とも日本を代表する日用品メーカーとして、紙おむつや生理用品で競い合っている。しかし9月22日時点の時価総額を見ると、ユニ・チャームが3兆3537億円で、花王の2兆5200億円を大きく引き離す。10年前から時価総額を3倍に増やしたユニ・チャームに対し、花王は2019年に時価総額4兆3000億円を突破して以降、下降局面に転じている。

明暗を分けた要因の1つが、海外進出のスピードだ。花王の消費者向け(コンシューマープロダクツ)事業の2022年度海外売上高比率35%に対し、ユニ・チャームは66%を占める。

海外比率が高い方が儲かる理由

海外比率の差は、収益力に影響する。ユニ・チャームの2022年度のコア営業利益(売上総利益から販売費及び一般管理費を控除した数値)は1195億円。花王の同年度の売上総利益から販売費及び一般管理費を差し引いた数値は1074億円と近い水準だ。

ユニ・チャームの同年度の売上高は8980億円であり、花王の1兆5510億円と比べると、2倍近く“稼ぐ力”に開きがあると言える。


両社が展開するベビー用紙おむつや生理用品カテゴリで見ると、日本市場は出生率低下等で成長鈍化が見込まれる。持続的な成長には海外進出強化が欠かせない。さらに日本国内よりも、海外の方が値上げによる価格転嫁を進めやすい。原材料高騰が続く中、両社の収益力の差が一段と浮き彫りになった。

ユニ・チャームの高原豪久社長は、2001年より舵取りを担う創業家2代目。海外展開を強化してきたことが、今の株価や業績に繋がっている。

直近の2022年度では「中東のフェミニンケア(生理用品)や大人用紙おむつの進出状況が好調。ブラジルもコロナ禍を経て回復傾向」(高原社長)と語ったように、果敢に多くの地域を攻めている。中国市場への依存度が高かった花王や資生堂などと違い、インバウンド需要剥落の影響も大きく受けなかった。


経済成長が続くインドでユニ・チャーム商品は多くの棚を占めている(提供:ユニ・チャーム)

東南アジアや中東、北米、南米など、ユニ・チャームの進出先には偏りが少ない。アラブ地域ではオリーブオイルが「肌に優しい」とされる文化に目を付けて、オリーブオイル配合の生理用品をサウジアラビアで展開するなど、現地事情に合わせたものづくりにも注力している。

日用品の販売価格は、進出国の1人当たりGDP(国内総生産)の上昇に連動する。ユニ・チャームの場合、まずベビー用紙おむつや生理用品で市場を開拓し、成熟期に大人用紙おむつやペット用品へ展開を広げる。人の一生に沿った商品ポートフォリオを取りそろえることで、世界の人口増加を業績拡大の追い風にしている。

2018年には、東南アジアで紙おむつ事業等を展開するタイの日用品メーカーDSGTを約600億円で買収するなどM&Aにも積極的だ。

花王も海外成長に本腰

海外展開で出遅れた花王も、これから再強化する方針を掲げる。M&Aを活用するなどで2022年度に6745億円だった海外売上高を、2027年度に8000億円以上まで拡大させる目標だ。

現時点で海外進出が進んでいるのは、消費者によく知られる日用品や化粧品よりも、法人向けに産業用製品の販売等を行うケミカル事業だ。2022年度のケミカル事業の海外売上高比率は65%もあり、高い技術力が評価されている。

高シェアなのが、衣料用洗剤やシャンプーに使われる界面活性剤の主原料の1つである高級アルコールや、食器用洗剤や殺菌剤等の原料となる三級アミンだ。欧米などで引き合いが強く、幅広い産業に供給している。5Gや6Gといった通信分野向け半導体の製造工程で洗浄などに使用される薬剤の開発も強化している。すでに大手企業からの採用が確定している。

ケミカル事業の売上高は4025億円(2022年度、内部取引含む)で、グループ内のシナジーも大きい。

「生産設備や原料拠点の共有、技術の相互転用もできる。たとえばドイツで開発された肌に優しい洗浄基剤が、スキンケアのビオレに使われるケースもある」(ケミカル事業部門統括の片寄雅弘氏)。商品を垂直統合で生産することで、コストも抑えられ差別化できるメリットもある。

独自性で反転攻勢する

花王は消費者向け商品でも海外を攻める方針だが、独自商品でライバルとの正面衝突を避ける戦略を採る。たとえばデング熱が社会問題になっているタイでは、殺虫成分を使わずに化粧品等で使われるシリコンオイルを用いたスキンケア「ビオレガード モスブロックセラム」を発売した。肌の表面に蚊が止まらなくなる新技術は、花王ならではの強みだ。

スキンケアなどは尖った技術で、海外市場の攻略を目指す方針。「中国やインドなど地域ありきで進出できる商品を考えるのではなく、花王が持つ『世界で勝てる技術』を軸に、それが必要な地域に商品展開していくという方針に転換したとみて、期待している」(三菱UFJモルガン・スタンレー証券の佐藤和佳子シニアアナリスト)。

「消費者の要求水準が世界で最も高い」と言われる日本市場で、切磋琢磨するユニ・チャームと花王。世界的ガリバーのP&Gやユニリーバと肩を並べて、各国でシェアを拡大していく余地は大きい。真価が問われるのは、まさにこれからだ。

(伊藤 退助 : 東洋経済 記者)