東証の近く東京・中央区日本橋に本店を構える三木証券。1936年創立で7店舗を運営する(記者撮影)

営業員と話した内容を覚えていないととれる発言を繰り返す。勧誘内容とはまったく関係のない話を繰り返す。過去の担当者のことを突然話し始める。直前の会話を覚えていないために何度も同じ問答を繰り返す――。

そのような会話の成立しない高齢者に外国株の取引を行わせ、取引手数料を稼いでいた証券会社があった。

証券取引等監視委員会は9月15日、関東を地盤に活動する三木証券が不適切な営業を行っていたとして行政処分するよう金融庁に勧告した。勧告を受けて金融庁は、業務改善命令などの行政処分を検討する。

80歳〜90歳代の客に不適切営業

監視委によると、三木証券は2020年4月以降、80歳〜90歳代の顧客18人に、リスクを十分に理解させることなくアメリカのIT銘柄など外国株の取引を行わせていた。

ある顧客は8カ月で33回の売り買いをしていた。支払った手数料は、最も多い人で1460万円程度。数百万円を払った顧客も複数いた。ほかにも、新興国のテクノロジー関連企業に投資する投資信託の勧誘でも不適切な取り扱いがあった。

認知能力の衰えた高齢者に向けて、このような営業活動を行うよう、三木証券内部で組織的な指示があったわけではないという。一方で、多くの営業員が関わっており、事態の深刻さを物語っている。

証券業界全体で顧客本位の業務運営が叫ばれている。それに逆行する三木証券の営業姿勢に驚きが広がった。

金融商品取引法は、顧客の知識や経験に照らして不適切な勧誘を行い、投資者の保護に欠けるおそれのある業務を行ってはならないとしている。これを「適合性の原則」という。

今回はこの適合性の原則に反した営業活動だったと、監視委は認定した。適合性原則違反での勧告は、今年6月のちばぎん証券に対するものに続く。

相次ぐ証券営業での不祥事に対し、日本証券業協会(日証協)の森田敏夫会長は、9月20日の会見で「非常に残念。報告書を見てきちんと対応を考えたい」とコメントした。

「極端な収益至上主義」

ただ、こうした姿勢を改めるには一筋縄ではいかなさそうだ。

監視委は、無理な営業が横行した背景として「経営陣による極端な収益至上主義への転換」を挙げる。

顧客の高齢化により口座数が減少傾向にあったことなどで、三木証券は2016年度から4期連続の営業赤字に陥った。経営改善が喫緊の課題になっていた。そこで2020年4月以降、経営陣主導の下、主にアメリカ株への販売に注力した。


経営資源が限られている中、販売商品を絞り込むことはほかの会社でもよくあることだ。アメリカ株販売の強化で三木証券は2020年度に営業黒字化を果たす。ところがこの黒字は、経営陣が率先してコンプライアンスを軽視したことにより実現したものだった。

2019年6月に営業員評価制度を見直し、手数料収入実績を評価に直接反映するようにした。2022年1月には法令違反行為などを行った営業員の評価を下げる仕組みを撤廃。手数料収入に偏った不適切な営業を助長するような評価体制に移行していった。

こうした制度変更に批判的な社員に対するパワハラまがいの行為も横行していたという。営業車の使用を禁じ営業成績が下がったところで、降格処分をしていた。

外部からの指摘にも耳を傾けなかった。2018年には自主規制機関である日証協の検査で、コンプライアンス部門の人員不足を指摘されていた。

それにもかかわらず、赤字体質からの脱却と継続的な黒字化を図るため、社長自らが主導してコンプライアンス部門の担当社員を削減。2018年9月に14人いた監査部の社員が2022年9月には6人になっていた。

結果、日証協の高齢顧客ガイドラインで定められた確認事項も十分に確かめることなく「承認手続きは形骸化していた」(監視委勧告)。

顧客説明は正式処分後に

こうした状況に、日証協幹部もため息をつく。「顧客からの信頼がすべての地場証券でこんな営業をしていると広まったら、顧客はすぐに逃げていく。なぜここまでひどいことになったんだ」。

裏を返せば、背に腹を変えられないほど追い詰められていたのだろうか。

三木証券は、監視委が勧告を出した9月15日に「厳粛に受け止め、深く反省し、根本的な原因分析とその改善を図り、(中略)再発防止に努めてまいります」とのコメントを発表した。

ただ、コンプライアンス体制の見直しや顧客への説明といった具体的な対応は、金融庁からの処分を待ってから行う予定だ。

過度に手数料収益を追う施策をやめた後、経営を安定させられるかは未知数だ。顧客層の高齢化や契約口座数の減少は、避けがたい現状として立ちはだかっている。道を誤った中小証券会社の更生はあまりにも厳しい。

(高橋 玲央 : 東洋経済 記者)