東武インターテック南栗橋工場の車体と台車を分離するクレーン。工場内に定期検査の車両がない光景はめずらしいという(記者撮影)

東武スカイツリーラインは浅草・押上から東武動物公園までの伊勢崎線の愛称だ。東武動物公園で伊勢崎線と分岐した日光線の下り普通電車で3駅目、JR宇都宮線と交差する栗橋の1駅手前にある「南栗橋」という駅名は、首都圏では意外と知られている。

1899年に北千住―久喜間で営業を開始した東武鉄道の歴史のなかで、1986年開業の南栗橋駅はとくに古いわけではない。2022年度の1日平均乗降人員は7137人と、東武亀戸線の東あずま駅(7226人)を下回る。

東武鉄道の一大拠点

それでも抜群の知名度を誇るのは、車両基地があり、同駅を終着駅とする通勤電車が多いためだ。東武線にとどまらず、相互直通運転をする東京メトロの日比谷線と半蔵門線、東急田園都市線の各駅の発車案内や電車の行き先表示器で知らず知らずに目にしている駅名だ。

100km近く離れた神奈川県大和市、小田急江ノ島線と乗り換えられる東急田園都市線の中央林間駅からやってくる電車もある。一方、北は東武日光や鬼怒川線の新藤原、東武宇都宮などを始発とする普通電車も南栗橋を終着とする。駅前は一戸建てを中心とした住宅地や田畑が広がるばかりで「寝過ごすと大変な駅」としても定番だ。

その南栗橋駅の東口には車両基地のほか、乗務管区や総合教育訓練センター、日光・鬼怒川エリアで走らせている蒸気機関車(SL)の機関庫など、東武鉄道の施設が集積している。駅前の「施設案内図」によると、最も奥にあるSL機関庫までは距離にして1410m、徒歩による所要時間は約18分かかる。


南栗橋駅前の案内図。周辺にさまざまな鉄道関連施設が集中している(記者撮影)

そのなかで圧倒的に巨大な建物が車両の定期検査をする「南栗橋工場」だ。日常の点検や3カ月ごとの機能検査は東武鉄道の車両部が実施するが、車両を分解して点検・整備をする重要部検査(4年または走行60万km)や全般検査(8年)はグループ会社の東武インターテックが南栗橋工場で担っている。

奥行き312mの巨大な工場棟

工場棟は車両が出入りする正面の幅が75m、奥行きが312m。東武鉄道で唯一となるメンテナンス工場のため、自社線で直接繋がっていない東武東上線の車両も秩父鉄道経由で回送してきて重要部検査・全般検査をする。

車体は入場するとアーチ型クレーンで吊り上げて車体と台車を分離。台車・回転機・空制・電機の4つの職場で整備・修繕を分担する。再び車体と台車を結合すると車体の塗装(スチール車)や洗浄(ステンレス車・アルミ車)、試運転などを経て出場する。自動搬送装置などもさまざまな場面で活躍する。

通勤車両の場合、塗装の必要がないステンレス車などは5日間、塗装車は6日間で出場する。また、特急車両の100系「スペーシア」の場合は11日を要する。技術助役の早川昌宏さんは「サービス機器が多く全電動車であることなどから時間がかかる。工場棟に入る1週間から10日前には到着していて座席や蛍光灯を外す」と説明する。


工場棟は幅75m、奥行きが312mある巨大な建物だ(記者撮影)


洗浄装置を出た台車の向きを変えるターンテーブル(記者撮影)

工場棟の隣には電子部品作業場などを備えたメンテナンス棟が建つ。最近は、はんだ作業による基板修理など電子部品への対応力の強化を図っているという。東武インターテック総務部課長の片岡耕介さんは「電子制御化が進む中で、『壊れたらメーカーに修理に出す』だけでなく、自分たちでも予防保全してメンテナンスできる技術を養っていく」と話す。

南栗橋工場は一般公開の「東武ファンフェスタ」のほか、沿線の学校などを対象にした「社会学習応援プログラム」と呼ぶ実地体験学習で見学することができる。「裏方の仕事を知る機会は少ないので、実際のメンテナンスの現場を見て鉄道業界全体に興味を持ってもらうきっかけになれば、人材確保にもつながる」(片岡さん)という。


新しくできたメンテナンス棟。電子部品の作業場がある(記者撮影)


春日部工業高校の生徒を対象にしたはんだ作業実習(記者撮影)

8月下旬には3日間にわたって、春日部工業高校の生徒5人を対象に行き先表示器を題材にした講座を開催した。内容は表示器システムの解説や操作体験、はんだ作業や修繕作業の実習など。講師を務めた係長の久保田稔さんは「生徒たちは覚えが早くて順応性があり、バッチリだった。将来は是非東武に入って力を発揮してもらいたいですね」と話していた。

存在感増す南栗橋

車両工場と反対側の駅西口では産官学連携による大規模開発「ブリッジ ライフ プラットフォーム南栗橋」のプロジェクトが進行中。2022年5月に「イオンスタイル南栗橋」がオープンした。南栗橋には2023年3月のダイヤ改正で通勤・帰宅時間帯に一部の特急が停車するようになり、駅の存在感は以前より増している。


南栗橋駅へは相互直通運転をする東急や東京メトロの車両も走ってくる(記者撮影)

乗客にとって「寝過ごすと大変な駅」であることに変わりはないが、東武線全線になくてはならないのが南栗橋エリアであることは再認識されてもよさそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)