ベルギーのヘンクで日本側の主催試合として行なわれたトルコ戦。しかし観客は日本人よりトルコ人のほうが多く、アウェー度7割といったムードのなかで行なわれた。

 日本の戦いぶりが案じられた。3日前のドイツ戦から日本はメンバーを10人入れ替えて臨んだ。ドイツ戦のスタメンをAチームとすればこちらはまさしくBチーム。戦力のみならず、コンビネーション的にも不安を残す11人である。森保一監督のドイツ戦と力の入れようの違いが手に取るように伝わってきた。

 勝利と強化を天秤に掛けた時、クルマの両輪のようにではなく、勝利にバランスが傾きがちな監督だ。これが中2日でなく中3日だったら、森保監督は勝利を最優先し、ほぼ全面取っ替えという手段に踏みきらなかったのではないか。森保監督のバランス感覚は、中2日という強行日程によって少なからず是正されたと見る。

 一方、トルコはユーロ2024予選のアルメリア戦(ホーム)から中3日でこの日本戦を迎えた。日本より1日試合間隔は長かったが、シュテファン・クンツ監督は、そのアルメリア戦のスタメンからインテルに所属するMFハカン・チャルハノールなど9人を落としてきた。両軍のグレードは結果的に似たり寄ったりとなった。

 Bチーム同士の対戦で混乱するのはどちらか。その答えは、開始早々からトルコに攻勢を許す日本の姿に見て取れた。トルコの選手が潜在的に備える老獪な気質に、真面目な日本人選手は翻弄されかけていた。前半12分、右SBメルト・ミュルドゥルの縦パスを受け抜けだした1トップ、ベルトゥ・ユルドゥルムのシュートが決まっていれば、試合はどうなっていたかわからない。

 日本に初めてチャンスが到来したのは前半15分。伊藤敦樹が堂安律のパスを受けるやドリブルで中央に進出。ミドル弾を炸裂させたシーンである。左足のインステップから繰り出された一撃は、ゴール右上隅に吸い込まれていった。なんの脈絡もなくいきなり生まれた先制点に、トルコ人のみならず日本人も驚いたのではないか。

【光った国内組のプレー】

 伊藤敦樹は今回招集された4人の国内組のうちの1人である。"次回"が確約されていない1人でもある。爪痕を残したい、との高いモチベーションがこの代表初ゴールにつながったと考えるのが自然である。

 その後は、日本選手の負けじ魂というか、高い競争意識が、コンビネーションの不安を上回る展開になった。


中村敬斗の2ゴールなどでトルコを4−2と破った日本代表

 2点目、3点目を蹴り込んだのは左ウイングとして代表初スタメンを飾った中村敬斗だった。28分の2点目は、久保建英のシュートを相手GKが弾いたこぼれ球を詰めたゴール。36分の3点目は右SB、初代表で初スタメンの毎熊晟矢が送り込んだクロスボールをファーサイドで受け、冷静に蹴り込んだゴールだった。相手の左SBからボールを奪い、中村の3点目をアシストした毎熊のプレーも光った。次回があるかどうか微妙な国内組という点で、彼は伊藤敦樹と一致する。

 その一方で、今回が6月のエルサルバドル戦、ペルー戦に続く招集となった森下龍矢は、ドイツ戦はもとよりこのトルコ戦でも出番がなかった。今回招集した26人の中でただ1人、である。こう言っては何だが、ドイツ戦、トルコ戦とチーム内で唯一、2試合連続フル出場を果たした伊藤洋輝が、さして好プレーを見せたわけでもないのに、である。わざわざ欧州まで連れ出しながら出番を与えなかったのか、とても今日的とは言えない残念な采配である。

 それにしてもAとBをもう少し融合させたメンバーを、ドイツ戦に送り込めなかったものか。26人をAとBに分けるのではなく、26人すべてをAとしないと、W杯で5試合以上を戦うことはできない。試合毎にグラデーションを掛けるように漸次的にメンバーをいじっていく術が、ベスト8以上を狙う監督には求められている。

 ドイツに勝ってもトルコに敗れては身も蓋もない。トルコがもう一段、いいメンバーで向かってきたら、結果はどうなっていたかわからないとは、前半36分に3−0としてから、3−1、3−2、4−2と推移した、この試合を観戦しての感想だ。トルコはチャルハノールらの有力選手を投入するたびに、追い上げムードを加速させていった。

【久保建英と古橋亨梧の相性は?】

 日本のアタッカー陣は、BといってもAとの差は紙一重に見える。選手交代枠が5人になったことで、アタッカー陣4人が4人とも入れ替わるケースが珍しくないことも拍車を掛ける。

 堂安(右)、久保(1トップ下)、中村(左)、古橋亨梧(1トップ)。トルコ戦の先発はこの4人で、ドイツ戦は伊東純也(右)、鎌田大地(1トップ下)、三笘薫(左)、上田綺世(1トップ)だった。

 ドイツ戦の終盤には堂安、久保、浅野拓磨が、交代で出場。このトルコ戦には、前田大然、伊東が交代出場を果たしている。

 軸になるのは三笘、鎌田、伊東の3人。左ウイングは堂安、中村、前田、右ウイングは久保、堂安、1トップ下は久保が鎌田を追う。1トップは混沌としていて上田、古橋が互角。浅野が続く展開と見る。

 トルコ戦、前の4人でフル出場を果たしたのは久保と古橋だった。三笘がベンチを温め続けたこともあり、日本のサッカーは久保中心になった。身体を開き気味に構える左利きが真ん中にポジションを取れば、進行方向を読まれやすい。潜在的に大きな問題を抱えながら1トップ下で出場した久保は、Aチームでスタメンを張れない屈辱を晴らそうと頑張った。しかし、この日は古橋とのコンビでも問題が目についた。久保は前を向いてプレーするタイプで、古橋はスピード系だ。この2人が真ん中の高い位置にポジションを取れば、ボールの収まりは悪くなる。

 久保、古橋はそれなりに活躍した。悪かったわけではないが、鎌田の貴重さがあらためて浮き彫りになった試合でもあった。古橋の相手役は久保より鎌田のほうが相応しい。それはその他のスピード系の1トップ候補にも言えることだ。浅野、前田(今回は1トップとしての出番はなかったが)と久保の関係も、良好とは言い難い。

 1トップ下には鎌田が入ったほうがパスワーク、展開とも上質なものになる。その結果、サイドにボールが散るので日本のストロングポイントである、伊東、三笘に活躍の道が開ける。奪われる位置もサイドが多くなるので、リスクは減る。

 ボールを収める力のある選手(たとえば大迫勇也)が1トップに入ると、久保は生きるだろう。左利きがキツい選手特有の問題も、ある程度、解消されるはずだ。大迫的な選手がいない以上、現在のメンバーでは鎌田が最も相応しい1トップ下になる。

 1トップと1トップ下が良好な関係を築けるか否かは、試合の行方に大きな影響を及ぼす。

 日本は1トップに最適な人材がいまだ見つかっていない。1トップ下にはまる選手も現状では鎌田ただ1人だ。ウイング候補は充実しているが、センターラインは脆弱。となると、鎌田の0トップを試してみたくなる。それならば1トップ下に久保を置いても両者の関係は丸く収まると考えられる。

 森保監督にその認識はあるのか。次回10月の代表戦に目を凝らしたい。