ラグビーW杯ライバル分析《後編》 リーチが警戒するサモアの穴は? アルゼンチン戦は「残り20分で7点差」が勝負の分かれ目
ラグビーワールドカップ2023
日本代表と対戦する予選プールDライバル分析・後編
(サモア&アルゼンチン)
◆ライバル分析・前編>>「初戦チリの弱点とは?」「 イングランド戦で奇跡を起こすカギは?」
ついに9月8日から、フランスで「楕円球の祭典」ラグビーワールドカップが幕を開ける。日本代表が今大会で掲げた目標は、2019年のベスト8を超える史上初の「ベスト4」以上だ。その夢を叶えるため、まず決勝トーナメントへと駒を進めるには、予選プールで「4勝0敗」もしくは「3勝1敗」で上位2位に入ることが必須である。
日本(世界ランキング14位)は予選プールD。チリ(同22位)、イングランド(同8位)、サモア(12位)、アルゼンチン(同6位)と激突する。対戦スケジュールは以下のとおり。
【第1戦】9月10日(日)20:00 日本vsチリ(トゥールーズ)
【第2戦】9月18日(月)4:00 日本vsイングランド(ニース)
【第3戦】9月29日(金)4:00 日本vsサモア(トゥールーズ)
【第4戦】10月8日(日)20:00 日本vsアルゼンチン(ナント)
※日本時間
日本代表は彼らと、どう戦うべきなのか──。前編のチリ&イングランド分析に続き、今回は予選プール後半戦で戦うサモアとアルゼンチンの2チームについて紹介したい。
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観客を魅了するサモアのウォークライ「シヴァタウ」
イングランドとの試合を終えた11日後、日本がトゥールーズで迎え撃つのがサモアである。縦に強い「フィジカル強国」であり、南十字星と椰子の木のエンブレムをつけたブルーのジャージーをまとい、試合前には「シヴァタウ」というウォークライを踊ることでも有名なチームだ。
サモアの対戦成績は日本の5勝12敗。大きく負け越している。しかし、2015年大会では26-5、2019年大会でも38-19と、ワールドカップでは日本が2連勝している。
そして今回、3大会連続で同じ組となった。この流れは決して悪くない。ただ、今年7月に札幌で対戦した時は前半途中にFLリーチ マイケルが退場した影響もあって、結果は22-24で逆転負けを喫している。
※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)
【リーチマイケルが最も警戒するサモアの底力】サモアは過去のワールドカップにおいて2度もベスト8進出を果たすなど、アイランダー(太平洋諸国)のなかで最も結果を残してきた。だが、近年では2015年大会と2019年大会、ともに1勝3敗で予選プール4位に終わっている。
サモアの主力選手たちは、アイルランドのレンスター所属のPRマイケル・アラアラトアや、イングランドのブリストル所属のFLクリスチャン・ブイなどを筆頭に、海外クラブでプレーしている選手が多い。その影響もあって、代表チームはワールドカップの準備期間があまり取れず、規律面でいつも課題を抱えている印象だ。
ただ、今回のサモアはひと味違う。2020年にトンガ出身とサモア出身の選手で構成されるスーパーラグビーチーム「モアナ・パシフィカ」が創設され、そこでトップラグビーの経験を積んだ選手が10人ほど代表メンバーに選出された。これがチーム全体の底上げとなっている。
さらに2022年1月のワールドラグビーのルール変更により、サモアにルーツを持つオールブラックスやワラビーズの選手がサモア代表となったことも大きい。
そのルール変更によって、オーストラリア代表で2019年大会に出場したCTBクリスチャン・リアリーファノ、2015年大会でオールブラックスの優勝に貢献した巨漢PRチャーリー・ファウムイナ、清水建設江東ブルーシャークスでプレーするSOリマ・ソポアンガなどがサモアの一員として今大会に出場する。彼らが豊富な経験をチームにもたらしていることは間違いない。
サモアは大会直前、世界ランキング1位のアイルランドと対戦して13-17と大接戦を演じるなど、十二分に実力があることを証明した。リーチも「今大会はサモアが一番怖い」と警戒している。
日本としては、過去2大会で勝利した時と同様に、まずは激しくプレーする相手に対して規律よくプレーすることが欠かせない。キックをうまく使って、相手陣でのプレー時間を増やすことも得策となるだろう。
【アルゼンチンの武器は伝統のFWだけではない】そうしてサモアの規律を徐々に崩していければ、日本の得点チャンスも自然と増えていく。地道にPG(ペナルティゴール)を重ねつつ、相手ゴール前ではセットプレーからのサインプレーでトライを挙げることができれば、勝利をたぐり寄せることができるはずだ。
そして予選プール最後の4試合目、10月8日に対戦するのが世界ランキング6位の「南米の雄」アルゼンチンだ。エンブレムは南米に生息するジャガーだが、かつて南アフリカ遠征時に現地の新聞記者が間違えたことで「ロス・プーマス(ピューマ)」という愛称で呼ばれている。
過去の対戦成績は日本の1勝5敗。20年以上前は日本との実力差も拮抗していたが、1999年大会でベスト8に進出し、2007年大会では開催国フランスを倒す快進撃で3位となり、ラグビー強豪国の仲間入りを果たした。
さらに2012年からは、ニュージーランド、オーストラリア、南アフリカと毎年対戦する南半球4カ国対抗「ザ・ラグビーチャンピオンシップ」に参戦。チーム強化を加速させたことで、2015年大会には再びベスト4へと駒を進めた。
ただ、前回大会はイングランドやフランスとの同組で苦戦し、予選プールで姿を消した。その分、今大会に賭ける思いは強い。
アルゼンチンは伝統的に、強靭なFW陣のスクラムを武器として戦ってきた。しかし、近年はBK陣の若い選手たちが成長し、展開力も持ち味としている。
選ばれたメンバーは、ほぼ全員が海外組。イングランドのレスター所属のキャプテンHOフリアン・モントージャを筆頭に、フランスのボルドー所属のLOグイド・ペッティ、スコットランドのエディンバラ所属のWTBエミリアーノ・ボフェッリなどがいる。
また、日本に馴染みがある選手は前回大会のキャプテンFLパブロ・マテーラ。三重ホンダヒートに所属し、昨季はチームをリーグワン2部から1部に昇格させて、自身もディビジョン2のMVPに輝いている。
【日本代表が史上初のW杯ベスト4に入るには?】そんな強敵を相手に、日本はアルゼンチン得意のセットプレーや接点で後手を踏むようでは、勝機を見いだすことはできないだろう。相手はキッキングゲームがうまく、プレースキックも正確で隙はない。やはり接点で勝つくらいのゲームをしないと試合は難しくなる。
もちろん、予選プール4戦目でどういう状況になっているか次第ではある。だが、格上相手には残り20分までで「7点差以内のゲーム」に持っていきたいところだ。
ラグビー日本代表は過去、アウェーでのワールドカップでベスト8に入ったことはない。新たな歴史を築くためにも、まずは初戦のチリ戦に勝利して勢いに乗り、2試合目のイングランド戦にすべてをぶつけたい。サモアもアルゼンチンも強豪だが、イングランド戦で手応えを掴むことができたら、その後の自信に大きくつながっていく。