「久保建英を中心に戦っている今季はリスクもある」現地記者がその活躍を絶賛も危惧されることと解決策を語った
久保建英の勢いが止まらない。シーズン開幕から4試合で3得点1アシストを記録し、ラ・リーガ得点ランキングで2位につけ、4戦連続MVPに輝いている。今回はスペイン紙「アス」およびラジオ局「カデナ・セル」でレアル・ソシエダの番記者を務めるロベルト・ラマホ氏に、ここまでの久保のパフォーマンスや、今季心配されたダビド・シルバ引退の影響などを分析してもらった。
【久保はスーパースターだ!】久保建英のグラナダ戦でのパフォーマンスは、最初の3試合ですでに見せていた"今季のラ・リーガで特に好調な選手のひとり"であることを裏づけるものとなった。
久保建英は「ダビド・シルバの穴を埋めた」と現地スペイン人記者は評価する photo by Nakashima Daisuke
実際に久保は、このシーズン序盤に最も決定的な働きをしているジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)に次ぎ、すばらしいプレーを披露している選手と言っても過言ではない。4試合で3得点1アシストという成績が何よりもそのことを物語っている。
また、この4試合すべてでMVPに選ばれていることは大きな価値があり、いかにメディアを賑わす存在になっているかを如実に表している。久保はすでに皆の注目を集める選手になっており、スポットライトを浴びているスーパースターなのだ!
なかでもグラナダ戦は、間違いなくここまでで最高の出来だったが、過去3試合との違いはどこにあったのだろうか? その答えは簡単だ。パコ・ロペス監督率いるチームに対して、正確無比なプレーで高い決定力を発揮したためである。
最初のチャンスをものにしただけでなく、2回目の決定機で再び得点してみせた。これ以上何も彼に求めることはできない。どちらも"ゴラッソ(スーパーゴール)"だったが、特に2点目は見事な放物線を描いてレアレ・アレーナの空を舞い、GKラウール・フェルナンデスの守るゴール左隅に突き刺さるすばらしいものだった。
グラナダ戦で久保はその週に抱えていたケガを克服して勝利に貢献したが、ラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)で大きく成長したため、もはやハイレベルなプレーをするのに練習など必要なくなっているようだ。
実際、たった一度のトレーニングのみで先発出場し、右ウイングとして特別な輝きを放ち、電光石火の動きを見せた。自信に満ち溢れたプレーでボールを要求し、絶え間なく相手と対峙し、攻撃的プレーのすべてをまとめ上げ、彼のイマジネーションからチーム最高の攻撃が生まれていた。
時にスピードで相手のバランスを崩し、時にドリブルで相手を抜き去り、ゴールにつながる最後の局面で大きな差を生み出したのである。
それらはまさに、彼のサッカーを楽しむために入場料を払う価値があると思わせるほどのプレーだった。また自身初のハットトリックを達成する可能性もあったが犠牲的精神が勝り、シュートを打たずにミケル・オヤルサバルのゴールをお膳立てしようと出したパスが、DFに当たってオウンゴールを誘発していた。
【ダビド・シルバの穴を埋めた】グラナダ戦での久保のすばらしい活躍は、ダビド・シルバの早期引退という悲しいニュース以降、ラ・レアルにとって久々の朗報であり、さらに彼が一歩前進したことを証明する出来事となった。
魔法を持つ者同士は国籍に関係なく瞬く間につながるものであり、久保は昨季シルバと特別な関係を築いていた。スビエタ(※レアル・ソシエダの練習場)でロッカールームを共にした1年間で、久保はライン間のプレーを改善し、ラストパスの精度を高めたのだ。またピッチでお互いを探し求め、すばらしいコンビネーションを披露した。
シルバ引退の影響を受け、久保のパフォーマンスが大幅に低下すると考えた人もいたかもしれないが、実際にはその逆のことが起こった。シルバの抜けた穴を久保は持ち前のイマジネーションとクオリティーの高さで埋めたのだ。
"アルギネギンの魔術師"(※シルバの愛称。アルギネギンはシルバの出身地)の代わりを見つけることなど不可能だが、アタッキングサードで効果的なプレーを生み出す責任を負う選手がラ・レアルには必要だった。そして、その役割を担ったのが久保であり、シルバ引退の影響を受けることなく、とてつもないクオリティーを発揮したのである。
このようなことがラ・レアルに起こったのは幸運だったと言えるだろう。なぜなら久保の成長がなければ、イマノル・アルグアシル監督率いるチームのラ・リーガのスタートは大きく変わっていただろうから。
【久保のリズムでプレーするとリスクがある】昨季のラ・レアルはシルバに合わせてプレーしたが、今季は久保のリズムでプレーしている。そしてそれは、イマノル監督率いるチームのゲームがより縦に速く、目まぐるしくなっていることを意味する。
シルバがいた時はライン間でためを作り、ゴールにつながるラストパスを出せるタイミングを窺うプレーが多かった。一方、久保を中心に戦っている今季は、すべてがよりスピーディーかつ無秩序になっていると言えるだろう。昨季よりもスペクタクルなプレーを提供しているが、守備時に大きなスペースを残し、リスクを伴っている。
昨季は組織的に相手を抑え、1−0のリードを守る術を知っていた。すなわち、先制さえすれば、相手につけ入る隙を与えずにほとんどの試合に勝つことができたのである。
しかし今季は先制しても簡単に守りきれていない。実際、ホームゲームすべてで失点しており、特にまだシルバ抜きの戦いに適応できていなかった最初の2試合は、どちらもよく似た展開で引き分けていた。
ホーム3戦目のグラナダ戦、今季初勝利を目指すラ・レアルは久保のペースでプレーするために、さらにリスクを冒す必要があること、つまり失点の恐れがあることを明確に理解していた。
その解決策として打ち出したのが攻め続けることであり、久保のように相手に臆せず、常に前を向いてプレーすることだった。5−3で勝利という結果がそのすべてを物語っており、我々はスペクタクルなサッカーを目の当たりにしたのである。
【久保を助ける新加入の5選手】この新たなプレースタイルを確立するために、クラブはその資質を備えた5選手と契約を結んでいる。スポーツディレクターのロベルト・オラベは、中心となる久保を取り巻く環境を今夏の移籍市場でうまく整備できたのか。
加入後すぐにその能力を発揮したアマリ・トラオレ(マリ)、オーバーラップに定評のあるアルバロ・オドリオソラ(スペイン)、安定した守備とタイミング良く駆け上がる能力を備えたキーラン・ティアニー(スコットランド)のサイドバック陣は、バリエーション豊かなプレーを提供できる。
そしてフィジカル面を生かしたプレーをしつつ、ライン間を動き回り、チームメイトと連係する能力を備えたMFアルセン・ザハリャン(ロシア)、ポストプレーに優れ、多くのゴールを決めてきた実績のあるFWアンドレ・シウバ(ポルトガル)は攻撃力を高めるためにやって来た。
FWではウマル・サディク(ナイジェリア)は大ケガから復帰したがまだコンディションを整える必要があり、アンドレ・シウバは負傷した状態で加入したため、CFのポジションが疑問視されているが、2人とも調子を取り戻せば何の問題もないはずだ。
最も懸念されるのはGKのポジションだ。控えのマレーロはこの1年で成長しているがトップレベルでの経験がないため、アレックス・レミロに何かあった場合の不安が絶えずつきまとうことになる。