例年以上に夏の移籍が活発だった印象のある今季のJリーグ。ヨーロッパのシーズンに合わせ、夏に海を渡る選手が増えているのは、すでに近年顕著な傾向ではあったが、それにも増してJクラブ間での移籍、それも実績のある主力級選手の移籍が活発だったことは、今夏の特徴のひとつとして挙げられる動きだろう。

 移籍した選手が新天地で活躍し、降格危機にあえぐクラブを救う。はたまた、優勝争いの後押しをする。そうした即効性を求め、夏の戦力補強を有効活用したクラブは少なくない。

 なかでも、夏の移籍ならではの補強と言うべきは、他クラブで出場機会が限られていた選手を獲得し、即戦力として活用するケースではないだろうか。

 例えば、マルコス・ジュニオール。

 2019年には横浜F・マリノスのJ1優勝に大きく貢献し、自身も得点王を獲得した高性能MFは、最近は西村拓真の台頭とともに出場機会を減らしていた。

 自身2度目のJ1制覇を味わった昨季にしても、リーグ戦23試合に出場したものの、その約半数が途中出場。その状況は、今季に入っても変わることがなかった。

 そんな悩めるブラジル人アタッカーに新助っ人として白羽の矢を立てたのは、サンフレッチェ広島。森島司が名古屋グランパスへ電撃移籍し、シャドーのポジションに空いた穴を埋める必要があったからだ。

 森島の背番号10を引き継いだマルコス・ジュニオールは、加入直後に迎えた"デビュー戦"で、いきなり1ゴール1アシストを記録。初陣にして勝利をもたらすと、加入後の3試合は2勝1分けと、優勝争いについていきたい広島にとって心強い新戦力となっている。

 マルコス・ジュニオール自身、シーズン途中での移籍はブラジル時代を通じても初めての経験だといい、「短い時間しかなく、早く決めなければいけなかった」と、簡単な決断ではなかったことをうかがわせる。

 それでも、「サッカーはひとりではなく、チームでやるもの。自分としてはできるだけ早く適応しようとしている」と真摯に語る元J1得点王は、新戦力であるがゆえのぎこちなさなど、まるで感じさせないプレーを見せている。

 あるいは、犬飼智也。

 2018〜2021年シーズンに鹿島アントラーズで主力として活躍していたセンターバックは、2022年の浦和レッズ移籍後は、ケガによる長期離脱もあって出場機会が激減。復活を期した今季もリーグ戦での出番はなく、完全に"ルヴァンカップ要員"となっていた。


柏レイソルに移籍して存在感を示している犬飼智也

 だが、経験豊富な30歳のDFをシーズン途中にして獲得したのは、J2降格危機にあえぐ柏レイソル。すると、8月以降のリーグ戦全5試合に先発出場し続けた犬飼は、攻守両面で最終ラインを安定させ、チームに5戦無敗(2勝3分け)の好成績をもたらした。

「声を出してくれたり、チームをまとめるリーダーシップが必要だった」

 そう語る柏の井原正巳監督は、「ディフェンスの安定感を引き出してくれる」と夏の移籍市場で獲得した新戦力を絶賛。犬飼自身も、「若い選手は自分のプレーに集中するのがベスト。自分が引っ張っていく年齢になって、そういう立場で呼ばれたのもあるし、いろんないい先輩から吸収してきたものをプレーで出せている」と、新天地での手応えを口にする。

 彼らふたりに共通するのは、最近は所属クラブで出場機会に恵まれていなかったこと。と同時に、すでにJ1での十分な実績があったことだ。

 ベンチ、あるいはスタンドに座らせておくだけではもったいない実力者が、こうして再びピッチでハツラツと動き回る機会を得たことは、貴重な新戦力を手にした当該クラブだけにとどまらず、Jリーグ全体にとっても有益なことだろう。

 何より、選手自身がサッカー選手としての最高の喜びを味わっていることは言うまでもない。

「浦和でやっていた時は、どうしてもポイント、ポイントでしか(試合に)出られなかった。1カ月とか、 2カ月とかに1回のペースで試合に出ると、やっぱり最後は体がきつかったりする。それはどれだけトレーニングで追い込んでもうまくいかなかった。やっぱり試合に出ることが一番だなっていうのは感じている」

 そう語る犬飼は、清々しい表情で「(1週間に1回という)試合のサイクルをベースに体も作っていけるようになった」と言い、「今は充実している」と笑みを浮かべる。

 出番に恵まれず、くすぶっていた選手が、水を得た魚のように生き返る――。夏の移籍の醍醐味である。