角田裕毅「何かがおかしい...」今季初トラブル→リタイアにも冷静だったワケ 予選は見違える速さで「マシンに希望が見えた」
11番手を走っていたはずの角田裕毅のマシンが、白煙を上げながら力なくコースサイドに止まった。フォーメーションラップ中の出来事だった。
「エンジンかギアボックスだとは思いますが、まだ詳しいことはわかりません。
リアエンドから何かが壊れるような変な音が聞こえて、エンジン音が変わって、振動もあって、スロットルを踏んでもあまりパワーが出てこなかったです。
明らかに音がおかしかったので何かがおかしいと感じて、自分の判断でマシンを停めました」
角田裕毅のマシンはなぜ急に止まってしまったのか
何の予兆もなく、フルパワーを出す場面でもないフォーメーションラップで、パワーユニットが壊れた。
これまでほぼノートラブルを貫いていたレッドブルパワートレインズにパワーユニットを供給するHRCの現場責任者を務める折原伸太郎エンジニアは、何の予兆もないトラブルだったと話す。
「突然でしたね。フォーメーションラップなので、全然パワーを入れるところでもありませんし。ちょっとまだ経験したことのないことなので、何が起こったのかはわからない状況ですが、データを見るかぎりではエンジンのほうが壊れていると思います。ただ、詳しいことはこれから戻って来たものを確認して、HRC Sakuraに送り返してからになります」
2022年から同仕様のパワーユニットを使用してきて、設計に問題がないことはもう確立されている。そして製造・組み立てが完了したパワーユニットは、ベンチでデータに異常がないことを確認したうえで現場に送り込まれている。事実、今季もすでに4台のマシンに3基ずつのパワーユニットが投入され、いずれもトラブルは起きていない。
アルファタウリの2台のパワーユニットは、今週末のイタリアGPに投入したばかりの今季4基目。フレッシュなエンジンであり、この週末での走行距離はわずか530km程度でしかなかった。
そのなかで角田車のパワーユニットにだけ、この問題が起きた。原因は何らかの個体差によるものだと推察されている。
【スタートできていればポイント獲得の可能性は大】そうであれば、連勝記録のかかるレッドブル勢に影響することはない。だが、いずれにしても今後のパワーユニット運用にも関わる問題だけに、慎重に原因を究明しなければならないと折原エンジニアは語る。
「若いエンジンですし、かなり信頼性を上げて確認を取って持ってきているので、何かしらのイレギュラーがないとこんな短命でトラブルは起きない。原因が何なのかを慎重にしっかりと解析する必要があると思っています」
ただし、今季これまでに使ってきた3基のパワーユニットはまだ継続使用が可能な状態で温存されており、4基目が壊れたからといってすぐに5基目の投入が必要なわけではない。少なくとも次のシンガポールGPと日本GPまでにグリッド降格ペナルティを取る必要はないという。
チームメイトのリアム・ローソンがライバルの後退もあったとはいえ、11位でフィニッシュ。ハードタイヤでスタートする逆戦略のバルテリ・ボッタス(アルファロメオ)が10位にジャンプアップを果たしただけに、角田もスタートできていればポイントを獲得できていた可能性はかなり高かった。
土曜のフリー走行3回目で、角田はミディアムタイヤでのロングランを行なっていた。決勝に向けた手応えを掴んでいただけに、なおさらだ。
「(走れていれば)いいレースはできたんじゃないかと思います。ミディアムをできるだけ伸ばしていく戦略でいくつもりでしたし、フリー走行でのペースはかなりよかったので。
ポイント獲得は可能だったと思います。悔しいですね。実際にレースをしてみてどうだったのか、見てみたかったので残念です。特に入賞圏にこれだけ近いポジションからのスタートだったのでなおさらです」
角田自身は入賞のチャンスが霧散したことに落胆の色を見せながらも、チームやHRCに怒りをぶつけるようなことはしなかった。そこにもチームリーダーとしての成長がはっきりと見て取れた。
【角田が素直に「申し訳ない。自分のせい」と反省】金曜は苦しい走り出しとなったが、土曜朝までのセットアップ変更でリアウイングにガーニーフラップを追加すると、マシンは見違えるように走るようになった。FP3でハードとミディアムの確認作業をしっかり行ない、予選ではQ3進出が狙える速さを見せた。
Q2最後のアタックでやや攻めすぎた角田は、アスカリシケインの進入でわずかにラインが膨らみ、その後の脱出が苦しくなってタイムロスを喫した。その結果、10位のランド・ノリス(マクラーレン)に対してわずか0.013秒差でQ3進出を逃すこととなった。
その瞬間、角田はコクピットのなかで大きく頭を振って自分自身に対する怒りを爆発させていたが、その声が無線に乗って届くことはなかった。すぐに気持ちを整理し、自分への怒りよりもチームへの賞賛と自責の念を素直に表明したのは、明らかな成長だった。
アルファタウリのマシンは明らかに戦闘力が向上した
「昨日から今日にかけてマシンは大きく改善されていましたし、クルマのバランスもよかったです。Q2でもアタックに送り出してくれたトラックポジションもよかったですし、チームは本当にすばらしい仕事をしてくれたと思います。だからこそ自分自身に対して腹が立っていますし、チームに対して申し訳なく思っています。これは自分のせいです」
そんな予選のあとだっただけに、是が非でも決勝で結果がほしかった。
だが、トラブルを悔やんでも仕方がない。それも、今季初のトラブルだ。
結果こそ残らなかったものの、夏休み明けの2戦でアルファタウリのマシンは明らかに戦闘力が向上している。そして角田自身も、さらなる成長を見せている。これが今後のレースにつながることは間違いない。
「Q2でパーフェクトなラップが決められなくてQ3進出を逃したのは、自分自身に対するフラストレーションもありましたけど、僕のパフォーマンス自体は悪くない。いいパフォーマンスを見せることができているのではないかと思っています。
マシンのパフォーマンスにも希望が見えました。シンガポールGPには大きなアップグレードが入るので、それを楽しみにしています」
次のシンガポールGP、そして翌週には日本GPが待っている。そこで快走を見せるアルファタウリと角田裕毅の姿を楽しみに待ちたい。