FIBAワールドカップ・予選ラウンド──。2次ラウンド進出をかけてオーストラリア(世界ランク3位)との試合に109-89で敗れた日本男子代表チーム(同36位)は、17位以下の順位を決める「17-32位決定ラウンド」へ回ることとなった。

 試合後、取材に応対したジョシュ・ホーキンソン(PF・C/サンロッカーズ渋谷)は、激闘後とは思えないほど柔和な表情で取材に対応していた。

※ポジションの略称=PG(ポイントガード)、SG(シューティングガード)、SF(スモールフォワード)、PF(パワーフォワード)、C(センター)。

「ああ(笑)......たしかに水や電解質の入った飲み物をたくさん飲んだよ。でも、今日も体の回復のために同じようにしないといけないね」

 日本がワールドカップで初めてヨーロッパ勢を打破したフィンランド戦の裏で、彼は脱水症状を引き起こしていた。のちに聞いたと伝えると、ホーキンソンはそう返してきた。


ジョシュ・ホーキンソンの存在はチームに欠かせない

 オーストラリア戦に敗れ、日本は予選ラウンドを1勝2敗の戦績で終えた。上のラウンドに進めはしなかったものの、この1勝は今大会でアジア勢1位となって来夏のパリオリンピック出場を目指す日本にとって、非常に大きなものとなった。

 フィンランドからの歴史的な1勝では、河村勇輝(PG/横浜ビー・コルセアーズ)や富永啓生(SG/ネブラスカ大)らにスポットライトが当たった。だが、37分半もの間コートに立ち続け、攻守で大車輪の活躍をしたこのシアトル出身・28歳の活躍がなければ、勝利を手にすることはできなかったのではないか。

 ホーキンソンはフィンランド戦でチームトップの28得点を挙げているが、それよりも19リバウンドの価値が高かった。フィンランドは213cmのNBA選手ラウリ・マルカネン(PF/ユタ・ジャズ)など大きな選手を揃えるも、ホーキンソンはリング下で2〜3人の相手選手に囲まれながら、着実にリバウンドを確保した。

【脱水症状にもかかわらず中1日で再びコートに立った】

 トム・ホーバスHC(ヘッドコーチ)も、この試合に勝つためにはホーキンソンの力量が必要だと判断し、ある意味で非情な判断を下した。

「アシスタントコーチのコーリー(・ゲインズ)が『(ホーキンソンを)下げないとダメ』と言ってきたのだけど、僕は『いや、下げない。タイムアウトを取って彼を休ませる。彼にはコートにいてもらわないと』と言ったんだ」

 ホ―バスHCの判断に、ホーキンソンが応えた。

 第4クォーター中盤、スピードで相手ディフェンスをかきまわす河村のビハインド・ザ・バック(背中を通して相手の虚を突く)パスからレイアップシュートを決めたホーキンソン。この勝負がかかったクォーターだけで12得点を挙げ、日本の勝利に大きく寄与した。

 試合後、原則は通らねばならない取材エリアに、ホーキンソンが通った形跡はなかった。のちに、脱水症状だと聞いた。そこからわずか中1日のオーストラリア戦──ホーキンソンは再びコートに立ち、再び日本のために奮闘を見せた。

 ホーキンソンはまたもフル出場に近い36分半もプレーし、33得点・7リバウンドをマーク。NBA選手を9名擁するオーストラリアに力の差を見せつけられたが、連続得点を挙げて彼らに追いすがるうえで、ホーキンソンの力は欠かせないものだった。

 今年2月に帰化申請が下りたホーキンスは、アウトサイドの技量にも優れる選手として、これまで日本代表でプレーしてきた帰化選手とはひと味違ったタイプの選手だと思われていた。ここまでの3試合の成績は平均23.3得点・12リバウンド。今大会の個人成績でそれぞれ上位にいる。

 パスで味方を生かすこともできる彼のプレースタイルについて、ホーバスHCは2022-23シーズンにデンバー・ナゲッツをNBA優勝に導いた「ニコラ・ヨキッチ(C)に似ている」と評する。ホーキンソン自身は、3Pシュートを打ててリバウンドやディフェンスにも長けるダーク・ノビツキー(PF/元ダラス・マーベリックス)やケビン・ラブ(PF/マイアミ・ヒート)のプレーを参考にしていると言っていた。

【とにかくゴール下でリバウンドをもぎとってくれる】

 しかし、今大会において彼のここまでのパフォーマンスは、体を張ってリバウンドを中心にインサイドで戦う愚直なものだ(ちなみにホーキンソンがワシントン州立大時代に記録した通算1015リバウンドは同校歴代1位)。

 渡邊雄太(SF/フェニックス・サンズ)が言う。

「とにかくゴール下でリバウンドをもぎとってくれるので、チームのみんながすごく感謝しています。これだけ長い時間出て、あの強度でやっていると本当に大変なんですけど、ジョシュは弱音を一切、言わない。チームのためにやってくれています」

 ホ―バスもホーキンソンに対して厚い信頼を寄せる。

「彼はインサイドでリバウンドや得点が取れるので、うちのオフェンスにはそれが必要。外ばかり、速さばかりではなく、(彼がいることで)インサイドでもやれることはすごく大きい」

 エリック・マッカーサー(C・F/元アイシン・シーホース)や桜木ジェイアール(SF・PF/元アイシン・シーホース)、ニック・ファジーカス(C/川崎ブレイブサンダース)、ギャビン・エドワーズ(PF/宇都宮ブレックス)といった外国籍の選手たちが、これまでも帰化をして日本代表のユニフォームをまとってきた。だが、ホーキンソンほど日本という国に順応した選手もいない。

 シアトル出身で、バスケットボールのほかに野球では投手として150キロ以上の球を投げる才覚を持ったホーキンソン。ワールドカップ前のオフ期間には、あこがれのイチローとも会った。その際にはシアトル・マリナーズのユニフォームだけでなく、オリックス・ブルーウェーブ時代のイチローのユニフォームも持参し、サインをもらった。

 ワールドカップという世界最高峰が競う厳しい戦いのなか、イチローがワールド・ベースボール・クラシック(WBC)でそうだったように「JAPAN」の入ったユニフォームを身につけながらプレーすることについて、ホーキンソンはあらためて深い感慨を覚えている。

【パリ五輪に出場できるか否かは計5試合の成績次第】

 ホーキンソンは、声のトーンを上げてこう話す。

「言葉で言い表わせないほど、すばらしい感覚です。国歌が流れる時、ファンたちがそれを聞く姿を見るだけでも鳥肌が立ちます。だからこそ毎回、コートに立つ時は日本を代表して、自分のあらん限りの力を注ぐわけです」

 ここからの順位決定ラウンドでも、ホーキンソンの泥臭いプレーぶりは日本代表にとって必要となるのは間違いない。

 グループEで3位となった日本は、同じく沖縄アリーナで戦っているグループFの下位2チームと対戦することとなる。このまま16強入りするアジア勢がいない場合には、予選ラウンド3試合と、8月31日から始まる順位決定ラウンドの2試合をあわせた計5試合の成績で最終順位が決まる。

「僕らにはまだ2試合が残っています。その2試合で、僕らの目標であるアジア1位を狙います。ですから(オーストラリア戦での敗北から)切り替えて臨まないといけません」(ホーキンソン)

 その戦いに向けて、まずは冒頭で記したようにできるだけのリカバリーに努める。

「チームのトレーナー陣がすばらしい仕事をしてくれているので、とりわけ出場時間の長い選手たちのことはリカバリー用の風呂やマッサージなどで注意深く扱ってくれています」

 順位決定ラウンドでも肉体の回復が十全にできれば、ホーキンソンによるインサイドでの「鬼神の働き」が見られるはずだ。