井上尚弥を上回るPFP1位を目指して いとこの浩樹は現役復帰2戦目で「どれだけ進化しているかを見てもらいたい」
井上浩樹が王座返り咲きを狙う。WBOアジアパシフィック・スーパーライト級王座決定戦(8月30日@後楽園ホール)で、同級3位のハイバード・アブドゥラスル・イスモリロフ(ウズベキスタン)と対戦する。
井上尚弥・拓真のいとことしても知られる浩樹は2020年、永田大士に敗れて日本王座から陥落。試合後に現役引退を発表し、保持していたWBOアジアパシフィック王座を返上した。しかし、2022年2月に現役復帰を発表すると、その約1年後に行なわれた復帰戦で2ラウンドTKO勝利を飾った。
今年2月の現役復帰1戦目をTKOで勝利した井上浩樹(左)
――対戦相手であるイスモリロフ選手の印象は?
「攻撃的ですね。ウズベキスタンの選手らしい荒々しさがある上に、技術もありますし強いです」
――イスモリロフ選手の情報は、10勝(6KO)1敗という戦績以外なかなか出てきませんね。
「実は、僕のところにもそこまで詳しい情報は入っていなくて(笑)。ただ、アマチュアボクサーの岡澤セオン選手(2021年の世界選手権ウェルター級で金メダルを獲得)とウズベキスタンでエキシビジョンマッチをやっていて、その映像を見ることができました。
プロとアマではポイントのつけ方が違うので一概には言えませんが、アマチュアの試合だとしたら岡澤選手が勝ちとなる試合だったと思います。ただ、岡澤選手は足も使えてディフェンスがすごくうまい選手なんですけど、それでもイスモリロフ選手がグイグイ中に入ってパンチを当てるシーンもありました。攻撃力があって好戦的な選手ですね」
――2月の復帰戦で浩樹選手は見事なTKO勝利。今回の試合への思いは?
「しっかり勝って次に繋げたいです。ここで負けちゃうと、だいぶ足止めを食らってしまうけど、勝てば先が見えてきますから。新しくついてくれた鈴木康弘トレーナー(2012年ロンドン五輪のウェルター級日本代表)が本当によく見てくれていて、恩返ししたい気持ちもあります。鈴木トレーナーは現役時代、ウズベキスタンの選手に3度負けているので、そのリベンジもしたいです」
――ウズベキスタンはアマチュアボクシングが盛んな国ですね。
「アジアだとカザフスタンとウズベキスタンが、アマチュアではツートップ。ボクシング大国ですね。鈴木トレーナーも、ウズベキスタンの選手に関して『めちゃめちゃ強い、という印象が頭に残っている』ということだったので、僕もすごく危機感を持って練習しています。練習中も鈴木トレーナーは、『そんなんじゃ勝てないぞ!』とゲキを飛ばしてくれます」
――試合に向けて特に強化してきた部分はありますか?
「もちろん総合的に強化していますが、特に相手はフィジカルが強いので、そこで負けないようにフィジカルとスタミナの向上に力を入れてトレーニングしてきました。フィジカルで劣っていると、その他の部分にも影響するので」
――フィジカル強化といえば、浩樹さんがSNSで100kgのバーベルを上げている(ハイクリーン)動画を拝見しました。肩回りなど、全体的に筋肉が大きくなっている印象があります。
「ハイクリーンは、復帰してからずっとフィジカル強化の一環で取り入れています。筋肉もついていますが、それがうまく使えないと意味がない。そこは、八重樫東さん(元世界3階級制覇王者)から学んでいるので、実戦で効果的に使えるはずです。
その部分も含めて、みなさんにはどれだけ進化しているかを見てもらいたい。僕の努力や成果を感じてほしいですね」
――浩樹選手といえば、自他共に認める"アニオタ"。入場する際のアニメ愛を感じる「バンドリ(BanG Dream!)」の楽曲とハッピ姿が特徴ですが、今回は曲を変えると聞きました。
「歌っている方は同じなんですけどね。ある曲が、今回の僕の試合にかける思いとマッチしたので、『これいいじゃん!』と思って選びました。どの曲になるのかは、当日のお楽しみということで(笑)」
――先日、ひとつ上の階級のウェルター級で、「パウンド・フォー・パウンド」(PFP/米老舗ボクシング専門誌『ザ・リング』選定)1位のテレンス・クロフォード選手と、エロール・スペンス Jr.選手の4団体統一戦が行なわれました。結果は、クロフォード選手が9ラウンドでTKO勝利。その試合は見ましたか?
「やはり気になるので見ましたが、正直、予想通りの内容でした。以前から、あまりスペンスの強さがわからなかった。手数が多く、どんどんプレスをかけて、相手が耐えきれなくてギブアップするという戦い方なんですけど、『クロフォード相手には通用しない』と思っていました。
実際の試合でも、全局面でクロフォードが上回っている感じでしたね。いつもならもう少し被弾する面もありますが、今回は最後まで怖いほど冷静でしたね」
――スペンス選手は、2ラウンドにダウンを取られたことで、焦って手を出すようになったようにも見えました。
「スペンスは"打たされている"感じでしたね。必死に打っていって余裕がなくなっていき、対照的にクロフォードはどんどん冷静になっていった。1ラウンドはクロフォード選手が下がる展開でしたが、対峙した時点で、クロフォードの距離だと思って。試合開始30秒くらいで、『クロフォードが勝つ。スペンスは無理だな』と思いました」
――1ラウンドは、スペンス選手が押しているようにも見えましたが......。
「父と兄も一緒に映像を見ていたんですが、1ラウンドが終わった瞬間に僕が『距離が全然違う。これはクロフォードが勝つ』と話したら、2人は『スペンスも強い! これじゃわからない』と言っていて。でも、結果はクロフォードの圧勝だったので『なんでわかったの?』って聞かれましたよ(笑)。
スペンスは頭の位置がよくなかったですね。L字ガードっぽいディフェンスをするんですが、構えた時の頭の位置が、クロフォードにとって1番パンチが打ちやすい場所だった。スペンスのポジショニングはかなり悪かったです。
自分が一番打ちやすいところ、そして相手のパンチを避けやすいポジションをいかに取るか。それがボクシングでは大事。ただ、相手も同じことを考えていますから、言葉で言うのは簡単ですけど、実践することはかなり難しいですけどね」
――浩樹選手は以前、井上尚弥選手も距離感がすばらしいという話をしていました。尚弥選手は自らプレスかけて相手を下げることで距離を作っているように見えますが、それに対して、クロフォード選手は下がりながら距離を測っている感じですか?
「そうですね、クロフォードはいつも下がりながら相手をよく見て、距離を計っている感じです。相手のプレッシャーによって下がらされているのではないということ。2、3ラウンドくらいまでは相手にポイントを取られることもありますが、そこから先は一転して相手をボコボコにしていくイメージ。スペンス戦でも1ラウンドは下がっているように見えましたが、あの時点で『かなり距離を掴んでいる』と思いましたね」
――浩樹選手と階級が近い、中量級の頂上決戦はいかがでしたか?
「いや〜面白かったですね。対決が待ち望まれていた無敗の2人が相まみえたという話題性もそうですけど、クロフォードの異次元の強さが見られた満足感というのか......。そんな試合が、尚弥のフルトン戦から1週間も経たずに行なわれたわけですから、本当に濃い1週間でしたよ(笑)」
――浩樹選手がひとつ階級を上げると、その先にはクロフォード選手がいます。クロフォード選手と戦うことをイメージすることもありますか?
「スペンス戦を見ている時にすごく想像しました。自分だったらどうするかなって考えましたけど、勝つのはなかなか難しそうですね(笑)。クロフォードが相手だったら、前に出続けるか、遠く離れるか......。とにかく試合終了までずっと動けるように準備しないと難しいのかなと思います」
――現状で、PFP2位の尚弥選手より上にランキングされているクロフォード選手が自分と近い階級にいるというのは、どんな気持ちですか?
「僕は前から言ってるんですけど、クロフォードには僕と戦うまでPFP1位にいてもらって、それで倒して尚弥の上に行きたいんです。あらためてクロフォードの試合を見ると『スゲェな』と思いましたけどね(笑)。やり甲斐はあります。
そういった先のことも考えますが、とにかく次戦、いい勝ち方をして先に繋げたいです!」
【プロフィール】
■井上浩樹(いのうえ・こうき)
1992年5月11日生まれ、神奈川県座間市出身。身長178cm。いとこの井上尚弥・拓真と共に、2人の父である真吾さんの指導で小3からボクシングを始める。アマチュア戦績は130戦112勝(60KO)18敗で通算5冠。2015年12月に大橋ジムでプロデビュー。2019年4月に日本スーパーライト級王座、同年12月にWBOアジアパシフィック同級王座を獲得。2020年7月に日本同級タイトル戦で7回負傷TKO負けを喫し、引退を表明したが、2023年2月、後楽園ホールで約2年7カ月ぶりに復帰戦に臨み、スーパーライト級8回戦で、タイのライト級2位パコーン・アイエムヨッドを2回TKOで下した。17戦16勝(13KO)1敗。左ボクサーファイター。アニメやゲームが好きで、自他ともに認める「オタクボクサー」。