フランスで開幕するラグビーワールドカップのためにヨーロッパ入りした日本代表は、現地8月26日(日本時間27日)にイタリア代表と対戦した。

 本番前、最後のテストマッチ──日本は敵地で勝利を挙げて、勢いに乗りたいところだった。だが、残り3分で7点差を追うなか、無理やり攻めてミスを犯して2トライを献上し、結果は21-42で黒星を喫した。


松島幸太朗のアタックは日本代表に欠かせない大きな武器

 日本代表を率いるジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)はイタリア戦を前に、自信をのぞかせていた。

「バッドラックは全部(日本に)置いてきた。フィジカルはいい状態です。ワールドカップに向けてメンタルの準備をしないといけないので、プレーにも集中できている。(最終メンバー発表前は)自分が選ばれるかどうかという不安のなかでプレーしていたが、今は33人が一体化してプレーできている」

 一方、選手たちもイタリア代表戦に向けて「いい練習ができている」「暑いなかでも(国内5連戦での課題だった)ミスがなくなった」と手応えを口にしていた。

「FBのファーストチョイス」と指揮官に指名された松島幸太朗も、「攻守の連係はよくなっている。ボールポゼッションは上がってくると思うので、キックも使いながらスマートにやりたい。速いアタックをして勝てば、急速に自信もついてくる」と意気込んでいた。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

 前半6分、日本は近年アタック力が増しているイタリアに先制トライを許す。しかし、国内5連戦ほどのミスがなくなった日本はボールをキープして攻撃する時間を増やし、前半15分にはラインアウトのサインプレーからトライを挙げた。その後、再びトライを許すもPG(ペナルティゴール)で点差を縮め、前半は11-17で折り返した。

【前回大会でハットトリックを決めた「フェラーリ」】

 後半12分、日本は実にジャパンらしいアタックを見せる。相手のペナルティからラインアウトのチャンスを得て、テンポよくボールを継続。ミスなく17次の攻撃を重ねていき、最後はSO松田力也のオフロードパスにタイミングよく走り込んだ松島がボールをもらい、スピードを活かして右中間へトライを決めた。

 また、後半31分にCTBディラン・ライリーがトライを挙げたプレーも、我慢強く攻撃を続けるジャパンらしいアタックだった。残り10分で21-28まで追い上げたことは評価できる。

 ただ、SO李承信と松田が2本ずつプレースキックを外したことは、結果的に大きく響いた。いい形でトライが取れていただけに、キックが全部入っていれば9点を上積みできており、イタリアにもっとプレッシャーをかけられていたことは間違いない。本番でのプレースキックの成功率は90%以上を目指したいところだ。

 試合を終えて、松島はこう振り返った。

「相手のほうが一枚上だった。すごいアタッキングマインドで、いいアタックをしてきた。自分たちが見習うところもある。自分たちはもっとスタンダードを上げないといけないし、メンタリティも見つめ直さないといけない。(ワールドカップでは)1試合でも落としたらベスト8はいけないという覚悟でやらなきゃいけないので、一戦、一戦、あまり先を見ずにやっていきたい」

 しかしながら、ワールドカップ直前になって松島が調子を上げてきたことは、日本代表BK陣にとって非常にポジティブな要素だ。

 過去2大会のワールドカップ、松島はWTBとして全試合で先発。前回大会では開幕戦からハットトリックを達成して計5トライを挙げ、その圧倒的なスピードから「フェラーリ」と称された。

 また、15人選ばれたBK陣のなかで、松島は唯一の「海外組」である。2020年からフランスのクレルモンに2シーズン在籍し、欧州のトッププレーヤーのなかで技術を磨いてきた。

【松島が慣れ親しんだ15番への強いこだわり】

 日本代表への想いを、松島はこう語る。

「前回のワールドカップ後は(日本代表へのモチベーションは)なかった。やっぱりフランスに行ったこと、環境を変えたことがハングリー精神を加速させて、クラブチームとは別の形で(代表チームとして再び)試合をしたいという気持ちが出てきた。(日本代表に対するモチベーションは)消えていなかったのかな。だんだん上がってきた」

 8月15日にワールドカップの最終メンバーが発表された時、松島は3度目の選出を「ここがゴールではない」とキッパリと言った。ただ、切磋琢磨してきたベテランFB山中亮平が落選したことについては「なんて言っていいかわからなかったし、肩をポンポンとしかできなかった。その分、責任感が出てきたし、選ばれてよかったと思われるように結果を出さないといけない。落ちた人の分までしっかり前を向いて試合に臨みたい」と正直な気持ちをこぼした。

 松島には、フランスで得た大きな自信がある。古巣の東京サンゴリアスに戻ってからも、高校時代から慣れ親しんだ「15番」でプレーすることにこだわりを見せていた。

 FBは攻撃の流れのなかで、SOの位置に入って判断することがある。日本代表のスタイルだと、守備の時はWTBと一緒に下がって広いエリアをカバーする必要もあるが、転じてカウンターアタックを仕掛ける機会も多い。

「(機会は)倍くらいかな。(WTBの時より)圧倒的にボールタッチの回数が変わる。味方に指示することができれば、自分のもらいたい形でボールがもらえるのがいい。自分を表現できるポジションかな」

 ワールドカップ開幕まで、あと2週間を切った。松島は「フランスでプレーしていた分、あっちで応援してくれた人たちにワクワクしたプレーができれば......」と人一倍、思い入れも強い。

 自身のSNSでも、熱いメッセージを残している。

「前を向くしかない、更にもっと選手間の関係性、連携を深めるしかない。このチームはもっと深いところの部分を分かってくればかなりいいチームになる筈です。でも立ち止まってる日はもうありません。試合の反省はもちろんありますが常に前に進んで行きます!」(原文ママ)

 松島は今年2月で30歳となり、ベテランと言える年齢となった。

「今回は集大成。自分の気持ちがどこまで続くかわからないので、最後のような気持ちで臨む」

 ベテランFBがプレーで引っ張ることにより、日本代表チームに勢いをもたらしてほしい。