遠藤航はリバプールで何をすべきか 出場機会増のために必要なこと
欧州でプレーする日本人選手が100人に迫ろうかと言われるこの時代。「国内組」と「海外組」という括り方はあまりにも雑だろう。Jリーグに1部、2部、3部があるように、欧州にもクラブ間で上下関係が存在する。
チャンピオンズリーグ(CL)出場チームを欧州1部とするならば、ヨーロッパリーグ(EL)は欧州2部で、カンファレンスリーグ(ECL)は欧州3部に相当する。また一方で、リーグランキング(1位イングランド、2位スペイン、3位イタリア、4位ドイツ......)という物差しも存在する。
それ以上にわかりやすい指標は欧州クラブランキングだ。過去10シーズン、欧州のカップ戦における戦績をランキング化したものである。下記は、すでに予選が始まっている今季(2023−24)の成績の一部をも含めた、過去10シーズンの通算ランキング(UEFA 10-year Club Ranking)である。
1位/レアル・マドリード、2位/バイエルン・ミュンヘン、3位/バルセロナ、4位/マンチェスター・シティ、5位/リバプール、6位/ユベントス、7位/チェルシー、8位/アトレティコ・マドリード、9位/セビージャ、パリ・サンジェルマン......。
ちなみに、遠藤航の前所属クラブであるシュツットガルトは、過去10シーズン、欧州カップ戦に出場してポイントを稼いだことは1度もない。ブンデスリーガのクラブでは計15チームがランクインしているが、シュツットガルトはその中に含まれていない。
たとえば国際試合で日本代表のキャプテンがペナントを交換するときなど、これからは、いっそう頼りがいのある存在に映るだろう。リバプール所属の選手が出ていけば、相手に「顔」で負ける可能性は低い。
ボーンマス戦の後半18分から出場した遠藤航(リバプール)
これまで日本人選手がプレーした欧州の最上位クラブは、2012−13、2013−14シーズンに香川真司がプレーしたマンチェスター・ユナイテッドだろう。同チームは当時、欧州ランキングで最高2位まで上り詰めていた。文字どおりビッグクラブの体を成していた。
南野拓実がプレーした2019−20、2020−21、2021−22シーズンのリバプールは、現在より欧州ランキングが低かった。しかし、南野のザルツブルクからの移籍はまさにジャンプアップであることに変わりなく、香川のマンチェスター・ユナイテッド入り以上に驚かされたものである。
【その成否は日本代表にも影響】
オーストリアの上位クラブであるザルツブルクとブンデスリーガ中位のシュツットガルトを比較すれば、いい勝負に見えるが、南野にはCLに出場した実績があった。リバプールと直接対決した際、ユルゲン・クロップ監督の目の前でいいプレーを披露したことで、声をかけられたという経緯がある。
移籍でジャンプアップした幅の広さは以下のような順になる。香川<南野<遠藤。
1999−2000シーズンにペルージャからローマに移籍した中田英寿も特進したひとりである。しかし香川、南野と同様、中田もその後、苦労することになった。高額に膨らんだ移籍金は、引退を早めた一因となったのではないかともいわれる。遠藤の場合はどうなのか。その成功、不成功は日本代表にも少なからず影響が及ぶ。
8月19日に行なわれたボーンマス戦。アンカーとして先発したアレクシス・マック・アリスター(アルゼンチン代表)がレッドカードで退場処分になったため、遠藤は後半17分、インサイドハーフのコーディ・ガクポ(オランダ代表、)と交代でピッチに登場した。4−3−3から4−4−1へと変わった布陣上で、遠藤はボランチというよりセントラルMF的にプレーした。
ボール奪取を鮮やかに決める遠藤らしいプレーを披露する一方で、相手のガーナ代表右ウイング、アントワーヌ・セメンヨに縦突破を許し、あわやというピンチも招いている。楽観的にも悲観的にもなれない、10段階の採点で言えば6前後のプレーぶりだった。
今季、リバプールは、ジョーダン・ヘンダーソン(イングランド代表)、ファビーニョ(ブラジル代表)がサウジアラビアへ渡り、ジェイムズ・ミルナー(イングランド代表)もブライトンへ移籍した。後ろ目のMF陣が手薄になっていた。そこでリバプールはまずブライトンからマック・アリスターを獲得。さらにブライトンのモイセス・カイセド(エクアドル代表)、サウサンプトンのロメオ・ラヴィア(ベルギー代表)らの獲得を狙うも、両者ともチェルシーに奪われてしまう。それが遠藤に白羽の矢が立った理由とされる。
【お手本となるミルナー】
シュツットガルト時代の遠藤は、アンカー(守備的MF)に加え、インサイドハーフもこなしていた。日本代表でのポジションより若干高めで、かつ多機能的にプレーした。出場機会の増大を狙うなら、リバプールでもこの方向性を維持したい。ボール奪取のみならず、展開にも絡みたい。
30歳の遠藤にとって参考にすべきは、29歳でリバプール入りし、37歳まで8シーズン在籍したミルナーだ。今季ブライトンで右SBとしてプレーする姿を見てなおさらそう思った。
守備的MF兼右SB。遠藤もその昔、このスタイルだった。森保ジャパンでも、2019年のアジアカップで右SBとしてプレーしている。マンチェスター・シティに落とし込めばジョン・ストーンズである。
森保一監督には、かつて自身が振った采配を思い出してほしいものである。遠藤に、右SB兼守備的MFの先駆者であるフィリップ・ラーム(元ドイツ代表)役をやらせてみたい。2014年ブラジルW杯では、ラームは最初の4試合は守備的MFで、最後の3試合は右SBとして先発。試合のなかでもポジションを微妙に変えながら戦略的にプレーした。
発案者はもちろん元バイエルン監督のジョゼップ・グアルディオラ(現マンチェスター・シティ監督)である。ドイツ代表のヨアヒム・レーヴ監督がこのバイエルンのやり方を真似たのだ。クロップ監督がライバル関係にあるグアルディオラ監督の真似を簡単にするとは思えない。だが、遠藤の兼SBとしての過去を知っていれば話は別だ。知らないならば、教えたくなるほどである。遠藤も自らアピールするべきである。
リバプールは昨季のプレミアで5位だったため、今季のCLには出場しない。ELへの出場になるが、近い将来、日本人選手がまだ経験していないCL決勝の舞台に立ってほしい。現状では遠藤が日本人のなかで最も可能性を秘めた選手になる。期待したい。