有村昆 撮影:松山勇樹

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映画コメンテーターの有村昆が、読者からのお悩みにあわせて、オススメ映画を紹介するシリーズ企画「映画お悩み処方箋」。第5回目の今回は、モノを買ったとき、箱を捨てたくないという男性からの相談。アリコンがレコメンドした、収集癖にまつわる2作とは…?

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▽相談
私は昔からゲーム機やフィギュア、スマホなどを買ったときの「箱」を取っておきたいタイプなのですが、妻からは「邪魔だから捨てろ」と言われて、いつも泣く泣く手放しています。本当は捨てたくありませんし、箱を部屋に飾りたいとすら思っています。妻に、箱も中身と同じくらい大事で価値があるということを納得してもらう方法はないでしょうか? (45歳 男性 会社員)

この男性の気持ち、わかります。僕も好きな映画のフィギュアは箱を捨てないどころか2つ買って、1つは鑑賞用、1つは保存用に取っておいたりして、当時のパートナーに怒られたりしていました…。なので、今回の処方箋映画は、ぜひ奥様と一緒に観ていただきたいです。

まずオススメする1本は、邦画で『あの頃。』という作品です。松坂桃李さんが主演で、2000年代くらいのモーニング娘。やハロープロジェクトに青春を捧げた、熱狂的アイドルファンの姿を描いた物語です。

最近は「推し活」という言葉が一般化されましたけど、一昔前まではアイドルオタクというのは世間一般から理解されにくい存在でしたよね。それがモーニング娘。が登場したあたりから認知されはじめたのでしょうか? AKB48の登場でさらなるブームが起こり、いまやアイドルを応援することは普通の趣味になりました。

この作品では、まだちょっとネガティブなイメージだった頃の、アイドルオタクという文化が描かれています。というと、観る前から構えてしまうかもしれませんが、なんたって主演が松坂桃李さんですから、そこは女性にも観やすくまとまっているので安心してください。

この映画のいいところは、アイドルについて知らなくても、オタクたちがすごく楽しそうで、僕もあの仲間に入りたいなと思わせるような描写がたくさん出てくるんですね。大人になって、忘れてしまったような何かが詰まっている。

一般的に物事というのは必ず卒業を迎えるんですよ。学校だって卒業する、子供の頃に好きだったモノも、いつか手放す。でも、オタクカルチャーにおいては卒業がないんです。よっぽど自分が意思を持って離れない限り、いつまでも続けることができる。それを青春というなら、羨ましいじゃないですか。

まわりからみたらバカバカしく見えるかもしれない。でも、アイドルのためとか、フィギュアのためにお金と時間をつぎ込むことの喜びや幸せは誰にも邪魔されるものでもないと思いますね。

それに、推しに傾ける情熱というのは周囲にも伝わる。この作品にも、松坂桃李くんとイイ関係になる女の子が出てくるんですけど、彼女もアイドルに興味を持ち始めて、ハマってみたら意外と楽しそうなんです。

なので、まずは奥様にこの映画を観ていただいて、オタクへの偏見を無くしてもらいたい。アイドルでもフィギュアでもいいんですけど、それぞれに細分化されたオタク文化があって、そこにモノやグッズがあって、思い出と共に大切に所有している。そういう文化に、一旦触れていただきたい。

「ウチの旦那は何を追いかけていて、なぜ箱を大事にするのか?」ということを考えてもらえるきっかけになるんじゃないかと思います。

そしてもう1本は、王道といいますか、映画グッズ収集の原典を観てほしいということで『スター・ウォーズ』をおすすめします。どこから観てもいいですが、初見ならやはり第1作目のエピソード4からでしょうか。

映画グッズの世界は奥深いですけど、やっぱりその頂点は『スター・ウォーズ』だと思うんです。グッズの数も膨大ですし、世界中にコレクターがいる。もう何百万円と使っているような人がゴロゴロいます。

世界の映画興行収入ランキングをみると、1位が『アバター』、2位が『アベンジャーズ/エンドゲーム』。3位に『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』が入って、4位に『タイタニック』、5位にようやくエピソード7にあたる『スター・ウォーズ/フォースの覚醒』が入ります。

ただ、グッズやマーチャンダイジングを併せた市場規模でいうと、『スター・ウォーズ』が断トツだと思いますね。

『スター・ウォーズ』を生み出したジョージ・ルーカスは、グッズを商品化するときにパーセンテージを受け取るライセンス・ビジネスを自分の会社でやっていて、それだけで4〜5兆円は稼いだといいます。映画本編は、何度か観たら大体の人が満足しちゃうけども、 グッズはいくつでも買えますから。それくらい『スター・ウォーズ』の市場というのは巨大なんです。

そこで奥様にも、『スターウォーズ』というフランチャイズが、世界のお金を動かしている産業であることを、まずご理解いただきたい。そして、この世界では、フィギュアの箱を捨てないほうがスタンダードだったりする。箱はゴミではなく、価値があるんですね。

女性でも、箱を取っておく人っていますよね。ブランドバッグの紙袋とか靴箱、化粧品、アクセサリーのケースとか。映画を観て、そんな話をしながら歩み寄ればお互いに理解が深まるのではないでしょうか。

いまの若い世代はモノを持たない主義で、箱どころか本体もいらないという人が多いそうです。CDやDVDは買わずにサブスクを利用。服だって、必要なときだけ借りたり、買ってもすぐ売ってしまうとか。

だけど、モノを所有する満足感や収集癖というのは人間の本能だと思うんです。だからこそ「箱を捨てない贅沢」ということもあるんじゃないでしょうか。

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