漢方で加齢に伴う不調を改善! 漢方薬の選び方や注意点を医師が解説

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健康で長寿を望むなら、漢方薬の古代からの知恵が貴重なヒントとなります。しかし、その具体的な効果や適切な使い方は意外と知られていませんよね。特に加齢と共に訪れる身体の不調、その改善策に漢方薬がどのように寄与するのか、その答えを知りたい方も多いと思います。今回の取材ではあゆみ野クリニック岩崎先生に直接、このテーマについて深く掘り下げて伺いました。

漢方と加齢に伴う症状の関係性

編集部

加齢に伴う身体不調に効く漢方はあるのでしょうか?

岩崎先生

中国伝統医学(中医学)では二千年前から老年医学があります。昔の皇帝が不老長寿を求めて始まったものですが、これは現在でいうアンチエイジングの研究であり、歳をとるとはどういうことであるか、「黄帝内経(こうていだいけい)」という中国最古の医学書にまとめられています。

編集部

加齢に伴う身体不調にはどのような症状が挙げられるのでしょうか?

岩崎先生

中医学では腎虚(じんきょ)と呼ばれるもので、最近の言葉では「フレイル」がこれに近いですね。具体的な症状としては、顔はやつれ、歯が抜ける、髪が抜ける、目や耳が遠くなる、免疫力が低下する、忘れっぽくなり怒りやすくなる、物忘れ、眠りにくい、味覚が変化し甘味を好む、食欲が低下する、便秘になる、足や腰が痛い、痺れる、冷える、背中が丸くなる、座る・歩くのが難しい、手足が震える、性機能が落ちる、など様々です。

腎虚・フレイルに効く漢方とは

編集部

腎虚・フレイルに対して処方される漢方薬にはどのようなものがあるのですか?

岩崎先生

代表的な漢方として「八味地黄丸(はちみじおうがん)」があります。アルツハイマー型認知症の患者さんを対象に、八味地黄丸を飲む群とプラセボ(偽薬)を飲む群の2群にランダムに振り分け、当人たちもどちらの薬を飲んでいるか知らない状態で過ごして8週間後の結果を比較した研究があります。結果として、八味地黄丸を服用した群において認知症が改善しただけでなく、日常生活動作のスコアも改善しました。

編集部

日常生活動作まで改善することがあるのですね。

岩崎先生

もう少し身体機能に特化した研究もあります。「人参養栄湯(にんじんようえいとう)」を服用することによって握力が改善したという報告があります。また、慢性閉塞性肺疾患(COPD/喫煙による慢性的な肺の傷害)では体力の衰えが人より早く進みますが、人参養栄湯を処方したところ、フレイルの指標が改善したと報告されています。

編集部

腎虚・フレイルに対する漢方薬は、いつ頃から飲み始めると良いのでしょうか?

岩崎先生

腎虚・フレイルが行き着く先には、認知症、せん妄、失禁、転倒、寝たきりといった老年期症候群の要介護状態がありますが、そうなる前に飲んでいただきたいですね。具体的には、八味地黄丸の効果が最も感じられやすいのは50~60代と言われています。

編集部

体の機能が衰えつつある多くの高齢者の方に適用できそうですね。

岩崎先生

その通りですが注意点もあります。足の冷えがひどいとの訴えがあり、私が八味地黄丸を1日3包回処方した80代後半の女性は、処方した晩に高血圧緊急症で救急搬入されてしまいました。八味地黄丸は高血圧症に適応がある一方、人によっては血圧を上げてしまうこともあります。その人にはすぐ別の処方を出したのですが、この方は八味地黄丸を飲んだ晩、確かに血圧は上がって大変だったが足は温まってよかったらしく、その後こっそり家族が寝静まると棚に隠してあった八味地黄丸エキスを毎晩2,3粒舐めたというのです。それで大変調子がよいと言われ、処方した私がびっくりしました。結局その人には「2,3粒」のエキス八味地黄丸が丁度よい量だったらしいのです。

漢方薬の選び方や購入方法のコツ

編集部

漢方薬の選び方や購入のコツはありますか?

岩崎先生

いまはオンライン診療が普及してきたため、ご自身に合ったクリニックにかかると良いと思います。私も日々、日本全国の患者様からのご相談にオンラインで応対しています。

編集部

漢方薬の作り手による違いはあるのでしょうか?

岩崎先生

最も大きく違うのは、エキス剤と煎じ薬の違いです。エキス剤はお任せ定食のようなもので、患者さんごとの調整は難しいものです。他方、煎じ薬は生薬の量も種類もその患者さんに合わせて専門家が自由に調整出来ますので、エキス剤に比べて効果は断然優れています。ですから当院のオンライン漢方診療は煎じ薬を基本にしています。しかし、煎じ薬を自由自在に処方出来る漢方医や、その処方箋を保険で受けてくれる調剤薬局というのは全国でも稀です。一般にはエキス剤の治療が広く普及しています。エキス剤もメーカーにより使用している生薬の種類や量が違うのですが、煎じ薬とエキス剤ほど大きな違いが出るわけではありません。

編集部

漢方薬のリスクはどのようなことが考えられますか?

岩崎先生

例えば、高齢者の冷えや関節の痛みには附子(ぶし)という生薬が使われますが、これはトリカブトの毒性を加熱して減弱させたものです。ですから不注意に扱えば不整脈などを起こす可能性があります。また、生薬でもあり食品甘味料でもある甘草(かんぞう)は、人によって低カリウム血症や高血圧、むくみを引き起こすことがあります。

編集部

ほかにも注意点がありましたら教えてください。

岩崎先生

葛根湯にも入っている麻黄(まおう)にはエフェドリンという物質が入っているため血圧上昇、排尿障害、幻覚などを引き起こすリスクがあります。また、大黄(だいおう)と言う下剤は飲み続けると耐性がつきますし、芒硝(ぼうしょう)という下剤は非常に強力なので不慣れな人は使わない方が良いででしょう。確率は低いですが、間質性肺炎や静脈硬化性大腸炎といった重い副作用のある生薬もあるため、専門家に処方してもらうことをお勧めします。副作用は「あるから怖い」のでは無く、「医者や患者が知らないと危ない」のです。

編集部まとめ

加齢とともに現れる身体の小さなサイン、漢方薬がその答えを持っているかもしれません。特に、「腎虚・フレイル」の解釈は、身体の声をより深く理解するためのヒントになることでしょう。日々の生活で気づきづらい体調の変化も見逃さないでください。新たな知識を活かし、ちょっとした健康の工夫に取り組むことで、より良い毎日が送れるかもしれません。

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