日本国内では多種多様なクラフトビールがつくられて愛好家を増やしていますが、近頃は個性豊かな「クラフトジン」も人気です。中でも京都蒸留所の「季の美 京都ドライジン」は、そんな国産クラフトジンの先駆けとして世界でも高い評価を…

日本国内では多種多様なクラフトビールがつくられて愛好家を増やしていますが、近頃は個性豊かな「クラフトジン」も人気です。中でも京都蒸留所の「季の美 京都ドライジン」は、そんな国産クラフトジンの先駆けとして世界でも高い評価を受けています。誕生から2023年で7年となるこの傑作ジンの魅力に触れる貴重なセミナーが、東京・台場のホテル「ヒルトン東京お台場」でありました。多くの人に愛される理由として見えてきたのは、他に類を見ない独自の製法、そして京都や日本ならではの「和」の素材への強いこだわり―――。

ヒルトン東京お台場の「ジャパニーズジンセミナー」、季の美ブランドアンバサダーが語った“京都発クラフトジン”の魅力

「季の美 京都ドライジン」は2016年10月に発売された手作り感あふれる京都発のクラフトジンです。つくっているのは、スコットランドの様々なシングルモルトウイスキーを日本に紹介してきたデービッド・クロール、角田紀子・クロールと、英国のウイスキー専門誌ウイスキーマガジン社の編集長を務めていたマーチン・ミラーの3氏によって、2014年に京都市南区に設立された京都蒸留所。日本初となるクラフトジン専門の蒸留所です。

以来、京都と英国の伝統が融合したクラフトジンは、世界有数の酒類品評会で名誉ある数々の賞に輝き、その品質の高さが認められてきました。

特に、世界三大酒類コンテストとして名高い英国の「IWSC(インターナショナル・ワイン・アンド・スピリッツ・コンペティション)」では2018年と21年に、最高賞「トロフィー」インターナショナルジンプロデューサーを受賞。同賞を2度も獲得しているのは他にオーストラリアの「フォーピラーズ」(2013年設立、2019年と20年に受賞)だけで、発売開始からわずか5年の蒸留所が2度の栄誉に輝くのは画期的なことでした。

ゴールデンウイーク直前の4月28日夜、ヒルトン東京お台場で開かれたのは、そんな京都発クラフトジン誕生の背景、美味しさの秘密など魅力の全てがわかる「ジャパニーズジンセミナー」。ゲストとして“講師”を務めたのは、季の美のブランドアンバサダーの加藤寛康さんです。

セミナー会場となったヒルトン東京お台場3階の日本料理「さくら」の宴会場「潮風」から見えたレインボーブリッジ

最も大事な点は6エレメントの“雅(みやび)製法”「素材の味わいを最大限に楽しめる」

セミナーの会場は、同ホテル3階の日本料理「さくら」の宴会場「潮風」。大きな横長の窓からは、夜の闇が迫り、空の表情が刻々と変化するマジックアワーの中、ライトアップされてきらめくベイブリッジが見えます。なんとも贅沢な光景が広がっています。

セミナー会場となったヒルトン東京お台場3階の日本料理「さくら」の宴会場「潮風」から見えたレインボーブリッジ

午後7時から始まったセミナー(45分間)では資料をもとに、加藤さんが10人ほどの参加者を前に、豊富な知識を交えて、季の美の魅力はもちろん、ジンというお酒の定義やクラフトジンの現状なども分かりやすく説明していきます。

季の美ブランドアンバサダーの加藤寛康さん 

「季の美 京都ドライジン」の主な「特長」は以下の通りです。

・ジンでは初めてベーススピリッツ(ベースとなるお酒)にライススピリッツを使用

・日本産(特に京都産)の高品質でオリジナルな素材を中心に厳選された11種類のボタニカル(植物素材)を、礎(ベース)、柑(シトラス)、凛(ハーバル)、辛(スパイス)、茶(ティー)、芳(フルーティー&フローラル)の6つのエレメント(要素)に分けて、抽出・蒸留(特徴を最大限抽出するために抽出時間と蒸留条件を個別に設定し、ベストな蒸留品質区分を採取する独自の製法)

・ブレンド水には、京都・伏見の清酒「月の桂」製造蔵元の増田徳兵衛商店の仕込み水を使用。脱ミネラル処理を行わず、濾過後そのままブレンド

加藤さんが、特に「最も大事なポイント、ここだけはぜひとも皆様に覚えて帰っていただきたい」と力を込めたのが、「香り・味わいの鍵となる6つのエレメント」の部分でした。

「厳選された11種類のボタニカルを6つにグループ(エレメント)分けして、6つの原酒を作り分けています。6つの原酒を後からブレンドするのが季の美の特長です。通常のジンは、11種類ボタニカルを使う場合は、11種類を一気に蒸留してしまって一度に製品化するのが一般的な作り方。蒸留が1回で済むので効率的です。でも、季の美はあえて6つにグループ分けします。6回蒸留しないと、ひとつの製品が作れないというのが季の美です」

11種類と6エレメントの内訳は次の通り。

「礎」がジュニパーベリー、オリス、赤松、「柑」が柚子(ゆず)、檸檬、「凛」が山椒、木の芽、「辛」が生姜、「茶」が玉露、「芳」が赤紫蘇(しそ)、笹です。京都産、いわゆる「和」の素材へのこだわりが見てとれます。

「ではなぜ、わざわざ6回蒸留するのか。ここが最も肝のポイントです」。加藤さんが続けて、分かりやすい例を挙げて、この製法を行う意図を説明してくれました。

「肉野菜炒めを作る時をイメージしていただきたいのですが、フライパンにお肉とお野菜を全部一気に入れ、一気に火をかけるとどうなるか。例えば、お肉はちょっと生焼けになってしまったりとか、逆にもやしとかキャベツとかは、火が通りすぎてしまったりとか。それぞれ素材ごとに火の入りやすさとか、ベストな時間の長さが異なります」

「蒸留も似たようなところがあって、11種類のボタニカルも火の入れる時間や強さ、ベストな時間がそれぞれ異なります。だから季の美は、一度に蒸留するのではなく6つにグループ分けして、6つを一番美味しい状態で蒸留し、あとからブレンドするやり方をとっているのです。そうすることで、クリアで、雑味なく、なおかつそれぞれの素材の味わいが最大限に楽しめる。そうなるようにブレンドされているのです」

「この6エレメントの製法が、季の美の最も大事なポイント。わたしたちは、“雅(みやび)製法”と京都らしい名前で呼んでいます」

世界で初めてお米由来のスピリッツを使用、ブレンド水は京都・月の桂の“中硬水”

「季の美 京都ドライジン」ボトル1本(700ml、参考小売価格5500円)の構成比は、ベーススピリッツとなるライススピリッツが45.7%、ブレンド水が約54%、ボタニカル由来フレーバー成分は1%未満にとどまります。

「ボタニカルがいっぱい入っているというイメージを持たれている方は多いと思うのですが、ボトルの中の構成比でいえば、全体のたった1%未満。ただ、1%に何を使うのかで、全く個性が変わってくるのが、ジンの面白さです」

だから、ボタニカルが重要となってくるのですが、季の美では、ベーススピリッツと水にも強いこだわりがあります。

「99%がボタニカル以外。だから、ここに最大限こだわらないと最高のジンがつくれるはずがないというのがブランド哲学」と前置きした上で、加藤さんが説明します。

「ジンは、ベーススピリッツにボタニカルを漬け込んで、蒸留をして製品化するのが、製法の流れ。ベーススピリッツに何を使うのかでキャラクターが大きく変わってきます。よく使われるのは、さとうきびやとうもろこし、麦とかが一般的です。お米は、世界初といわれているそうです」

お米を使うことで、ほんのりとした甘み、スムースな飲み口の実現につながったのだといいます。

では、なぜ、お米なのか。加藤さんが興味深いエピソードを披露してくれました。

「ベーススピリッツに何を使うのか、最初にレシピを作るメンバーで語り合ったそうです。どれがいいのか、それぞれ(の素材)に一長一短がある。そこでメンバー5人でブラインドテイスティング(中に何が入っているか分からない状態で試飲)をしたところ、5 人の満場一致だったのがライススピリッツでした」

ライススピリッツを用いる背景には、こんな経緯があったわけです。

ブレンドの水は、前述の通り「月の桂」の仕込み水を使用しています。軟水の中で少し硬度が強い「中硬水」。加藤さんによると、日本の軟水は硬度が20〜30mg/Lぐらいで、海外のエビアンは300 mg/L程度。

月の桂の仕込み水は、硬度が100mg/L程度といい、「日本の軟らかいものに比べると少し硬いんだけど、海外ほどは硬くない。つまり、絶妙なバランスのお水。これをブレンドすることによって、複雑味が出てくるのです」

京都発のクラフトジンにぴったりなボタニカルを連想させる和のパッケージデザイン。創業1624年の京都の唐紙屋「雲母唐長(KIRA KARACHO)」が監修

クラフトジンの定義とは

そもそも、クラフトジンとはどういったお酒なのでしょうか。

ジンとはEUの定義では、下記に挙げた点になります。
・農作物由来のエタノールを使用し、ジュニパーベリーのフレーバーを付加
・瓶詰時のアルコール度数が37.5%以上
・天然および人工の香料を使用し、ジュニパーベリーの香味が主体

そしてクラフトジンについては、加藤さんによると、明確な定義・規定はないとのこと。一般的にはその土地ならではの素材、ボタニカルを使用し、小規模の独立した蒸留所で伝統的かつ革新的な製法で造られたジンだといいます。

ちなみに、重要な味の要素となるジュニパーベリーとは、西洋杜松(ねず)の果実を乾燥させたもの。ジュニパーはヒノキ科の針葉樹で、松の木のような香りを放ちます。ジンは17世紀、オランダで薬酒として誕生しましたが、「ジュニエーブル」という名称(ジュニパーベリーのフランス語)が、その後「ジュネバ」と変化し、さらに短縮されて現在の呼び名になったということです。

季の美ブランドアンバサダーの加藤寛康さん

柚子、玉露……「和」の香りを感じる

さて、セミナーの大きな楽しみが、試飲です。

目の前に置かれたのは、「季の美 京都ドライジン」をはじめ、「季のTEA(ティー) 京都ドライジン」「季の梅(ばい) 京都プラムアンドベリーリキュール」の3種類。アルコール度数は、季の美が45.7%、季のTEAが45.1%、季の梅が29.5%です。

セミナーで試飲した、左から「季の美 京都ドライジン」をはじめ、「季のTEA(ティー) 京都ドライジン」「季の梅(ばい) 京都プラムアンドベリーリキュール」

「かなり度数が高いのでゆっくり飲んでいただければ」と加藤さんの案内に沿って、参加者は、フタがされたテイスティンググラスに手を伸ばします。ボトルからそのまま注がれたストレートの状態で入っています。

「フタを開けた瞬間を楽しんでいただきたいです。香りがふわっと広がるでしょう?」

たしかに、フルーティーな香りが鼻孔をくすぐります。ジンは海外を中心に何種類も飲んできましたが、これはとてもやわらかく飲みやすい印象です。

「通常のジンのストレートと違って、かなり飲みやすく感じるのではないでしょうか?」「柚子の香りを一番強く感じるのでは?他に、玉露とか生姜とかいろんなものが入っていますが、和の香りを感じ取っていただけるのでは」

柚子は、季の美の中でも大事なボタニカルのひとつ。京都府各地の柚子を毎年、旬な時期に収穫して果皮を剥き、真空冷凍保存することで、フレッシュな香りを年間通じて維持しています。

「季節の美しさと書いて『季の美』。やはり、旬な香りを楽しめるようにしているのです」

季のTEAでは、京都・宇治の老舗茶舗「堀井七茗園」の碾茶(てんちゃ)を玉露と特別な配合でブレンドして使っています。「想像以上に“お茶”で、びっくりされるのでは」と加藤さんが言う通り、お茶の品の良い香りが漂います。海外でも大人気で「無色透明なのに、これだけお茶の香りがするってすごいと驚かれます」

加藤さんによると、英国人の初代マスターディスティラーは「ホワイトチョコレートを感じた」と評したといいます。そう言われてみると、緑茶の香りから、チョコのような風味が感じ取れます。和と洋が混然となったユニークな感覚です。

季の梅は、京都産の希少な梅「城州白(じょうしゅうはく)」と北海道産ハスカップベリーを使用し、女性に好評とのこと。たしかに、甘酸っぱく飲みやすい印象です。

この3種以外にも、季の美には、ほかにも季の梅のような限定商品を含め、多様なラインアップがあり、いつか試してみたくなりました。

ジャパニーズジンセミナーの参加者

メインバー「キャプテンズバー」でお楽しみのフリーフロー

セミナーには、とっておきの催しが付いています。場所を移してロビーフロアにあるメインバー「キャプテンズバー」へ。季の美の上記3種類のフリーフロー(飲み放題、90分制)が楽しめるのです。ストレートはもちろん、ロック、水割り、ソーダ、プレミアムトニックウォーター「フィーバーツリー」と、多様な飲み方ができます。

ヒルトン東京お台場のメインバー「キャプテンズバー」の入り口脇に置かれた京都蒸留所のクラフトジン。左から「季のTEA 京都ドライジン」「季の美 京都ドライジン」「季の梅 京都プラムアンドベリーリキュール」

フリーフローと特典(次回訪れた際に利用できるワンドリンクチケット)も含めた「ジャパニーズジンセミナー」の参加料金は1人8500円(税・サ込)。セミナーで学びながら試飲をしたうえに、ヒルトン東京お台場が誇るバーの落ち着いた空間でひとときを過ごせることを考えれば、随分とお得な内容に思えます。

お料理も付きます。用意されたのは、「季の美 京都ドライジン」に合わせたアペタイザー&デザート。

「燻製蛸とサワーポテトのビーツタルト」
「スチームチキンとメルバトースト オレンジソース」
「クリームチーズとドライアプリコットのタルト パルメザンテュイル添え」
「ライチのパートドフリュイ、フレッシュラズベリー」
「レモンとパッションのマカロン」

上から時計回りに、 「スチームチキンとメルバトースト オレンジソース」 「レモンとパッションのマカロン」「ライチのパートドフリュイ、フレッシュラズベリー」「クリームチーズとドライアプリコットのタルト パルメザンテュイル添え」「燻製蛸とサワーポテトのビーツタルト」

参加者は、思い思いに、季の美のグラスを傾け、料理とともに、会話を楽しんでいます。

3種類ともいろいろと試してみましたが、最も印象に残ったのが、季の美のジン&ソニック。季の美にトニックウォーターとソーダを注いだ飲み方です。ソーダによってトニックウォーターの甘みが穏やかになり、さわやかさが増します。初夏にぴったりのテイストです。加藤さんもおススメの一杯です。

「季の美 京都ドライジン」に合わせたアペタイザー&デザート。季の美のジン&ソニック

参加した都内の女性の一人は、「ストレートで飲んだのは初めてだったけどけっこう飲みやすかった。お米でできているので、日本人には親しみやすい」と満足そう。

季のTEAの水割り(左)と、季の梅のソーダ割り

「季の美は、ジャパニーズジンに興味を持つにはもってこい。季の美がクラフトジンの魅力を知る最初の一杯になってくれればいいと思っています」と加藤さんは目を細めます。「インターナショナルジンプロデューサーは、その年に活躍したジンの蒸留所のMVP、ナンバーワンを称える賞。京都蒸留所のメンバーはこの世界No.1の賞の3回目を、世界の蒸留所のどこよりも早く取りたいと頑張っています」

国内のみならず、これからも海外から季の美に対する高い評価の声が多く届きそうです。

文・撮影/堀晃和

メインバー「キャプテンズバー」の入り口