カーリング吉田知那美が北海道銀行フォルティウスの構想外になった時「全然前向きになれなかった」彼女を救った言葉とは
「言葉」を大事にし、大切に「言葉」を紡いできたロコ・ソラーレの吉田知那美。そんな彼女がこれまでの人生で影響を受けた「言葉」や「格言」にスポットを当てた連載の第7回は、彼女が最も苦しかった時期に支えとなり、前向きな気持ちにさせてくれた言葉だ――。
吉田知那美にちなんだ『32の言葉』
連載◆第7エンド
置かれた場所で咲きなさい
(渡辺和子)〜当時の北海道銀行フォルティウスのマネジャーより
北海道銀行フォルティウスから去ったあと、ロコ・ソラーレで花開いた吉田知那美。2018年平昌五輪では銅メダルを獲得
どんな状況でもなるべくポジティブでいることは私の人生のテーマのひとつですが、どうしても沈んだり、弱気になったり、挫けたりすることはあります。
苦しかった時期として真っ先に挙がるのはやっぱり、2014年のソチ五輪に出場したあとの春から夏にかけてです。私がそれまで所属していた北海道銀行フォルティウスは、次のシーズンを戦うためにチームを構成し直して、その構想のなかに私は入っていませんでした。
勝負ごとですから、勝ちにいくためにチームを再編することは当たり前にあることです。でも当事者となると、つらかったですね。
そんな時に、当時北海道銀行フォルティウスのマネジャーであり、メディア対応などを担当してくれた方から、『置かれた場所で咲きなさい』(幻冬舎)という渡辺和子さんの本をいただきました。
そのマネジャーさんは私にとって年上のお姉さんという存在で、フィフスだった私と遠征先のホテルの部屋がいつも一緒で、本当にたくさんの話をしました。シャープで、フェアで、とても合理的な考え方を持っていて、「知那美、それはダメだよ」とか「あなたはできるんだから、ちゃんと頑張りなさい」とか、真っ直ぐな言葉で鼓舞したり、必要な時に怒ってくれる人です。厳しさと優しさって同義なんだと学んだのも、その方からです。
著者の渡辺和子さんも、もともとは宣教師の方から「Bloom where God has planted you.」という原文を贈られたと作中で綴っていますが、北海道銀行を退社した私は全然前向きではなく、何をしていても後進しているくらいの気持ちだったので、その言葉は当時の私の状況に見事すぎるくらいにハマって、シンプルにど真ん中に刺さりました。
この言葉に出会っていたから、小さい頃から出て行きたかった北見に戻り、ロコ・ソラーレに入って、もう一度カーリングに向き合い、再出発すると決心できたのかもしれません。
ロコに入ったあとも、勝てずに出たい大会に出られなかったり、ポジションを試したりと、試行錯誤が続き、思いどおりにいかないことはたくさんありました。でも、不貞腐れることや投げ出すことはいつでもできるけれど、身を置くところで咲こうとすること、そこで最善を尽くすこと。置かれた場所で頑張ってみようといつも思えたのは、この言葉があったからです。
マネジャーの方(当時)からはオリジナルの単行本をいただいたのですが、何度も読んだので、もうボロボロになってしまいました。最近は電子書籍でページを開いています。
他にも「ふがいない自分と仲良く生きてゆく」とか、「いつ、何が起きるかわからないから、いつも準備しておく」とか、カーリング、スポーツだけではなく、人生訓としても心に留めておきたい名言がたくさん載っていて、いつも救われています。
その方とはチームを離れてからも、仲良くさせてもらっています。
あれから9年の月日が経ち、最近はなかなか会えていませんが、聞いてほしい話や「ちゃんとしなさい!」と叱ってほしいこともあります。また一緒にご飯でも行けたらうれしいです。
吉田知那美(よしだ・ちなみ)
1991年7月26日生まれ。北海道北見市出身。幼少の頃からカーリングをはじめ、常呂中学校時代に日本選手権で3位になるなどして脚光を浴びる。2011年、北海道銀行フォルティウス(当時)入り。2014年ソチ五輪に出場し、5位入賞に貢献。その後、2014年6月にロコ ・ソラーレに加入。2016年世界選手権で準優勝という快挙を遂げると、2018年平昌五輪で銅メダル、2022年北京五輪で銀メダルを獲得した。2022年夏に結婚。趣味は料理で特技は食べっぷりと飲みっぷり。