ゴールデンウィーク(今年は5月3日・4日)に富士スピードウェイで開催されたスーパーGT第2戦は、シリーズのなかで最も盛り上がると言われている。今シーズンはコロナ禍に伴うイベント制限も解除されて、2日間で述べ8万200人ものファンがサーキットに詰めかけた。

 開幕戦が行なわれた岡山国際サーキットでは、目まぐるしく変わる天候に各チームとも翻弄された。しかし今回は両日とも晴天に恵まれ、決勝レースは一度もセーフティカーやフルコースイエローの導入がなく、"イレギュラー要素ゼロ"の展開となった。


トヨタの「ダブルエース」宮田莉朋(左)と坪井翔(右)

 まさに真の実力勝負となった第2戦──。国内主力3メーカーがしのぎを削るGT500クラスを制したのは、昨年チャンピオンの日産でもなく、王座奪還に燃えるホンダでもなく、昨季はライバルの後塵に拝したトヨタだった。

 チェッカーフラッグを切ったのは、ナンバー36のau TOM'S GR Supra(坪井翔/宮田莉朋)。トヨタ陣営を引っ張るエースに成長した若手コンビが、予想を上回る大差で勝利を奪った。

 坪井翔は埼玉県川越市出身の27歳。2018年に全日本F3選手権でチャンピオンを獲得し、翌2019年からスーパーGTのGT500クラスに参戦している。

 参戦当初は随所で速さは見せるものの、なかなか勝利に手の届かない日々が続いた。だが、2021年にトヨタ系の名門チームTOM'Sに移籍して関口雄飛とコンビを組み、最終戦・富士で待望の初優勝。同時にGT500シリーズチャンピオンにも輝き、今や36号車を引っ張るエース的立場となっている。

 その36号車に今季から加入したのが、「トヨタの秘蔵っ子」と称される宮田莉朋(りとも)だ。宮田は神奈川県逗子市出身の23歳。2020年に全日本スーパーフォーミュラ・ライツ(旧・全日本F3)でチャンピオンを獲得し、スーパーGTのGT500クラスは今年で4年目となる。

 昨シーズンはサッシャ・フェネストラズ(今季はフォーミュラEに参戦)とのコンビでGT500クラス初優勝を経験。さらに今シーズンは、4月下旬に行なわれたスーパーフォーミュラ第3戦・鈴鹿でも初優勝を飾るなど、今、乗りに乗っているドライバーだ。

【TOM'Sがミスから学んだこと】

 トヨタの育成ドライバーとして、ジュニアフォーミュラ時代から活躍してきた坪井と宮田。今季はそのふたりがコンビを組むということで、ライバル陣営もかなり警戒している様子だった。

 そして迎えた開幕戦──。予選では後方に沈んでしまうも、決勝では坪井が追い上げてトップに浮上する。その後、ナンバー23のMOTUL AUTECH Z(松田次生/ロニー・クインタレッリ)の逆転を許すが、展開次第では再逆転も十分に狙えるポジションにいた。

 しかし後半、宮田にドライバー交代をしたところで天候が悪化。ウェットタイヤを装着するため、ほぼ全車が同じタイミングでピットインすることになった。その状況に焦りが出たのか、左フロントタイヤの固定が終わる前にジャッキを下ろすミスを犯し、宮田はそのまま発進。すぐさま走行不能となり、リタイアを喫することとなった。

 スーパーフォーミュラもTOM'Sから参戦している宮田は、昨シーズンもピット作業に手間取って表彰台のチャンスを何度か逃していた。カテゴリーは違えども同じような結末が続いたことで、宮田はスーパーGT開幕戦の直後にファクトリーを訪れてミーティングを行なったという。

「スーパーフォーミュラの鈴鹿大会が迫っていたので、僕はすぐに工場に行って『何が問題だったのか?』『何を改善すべきなのか?』など、いろいろ話し合いました」(宮田)

 チームも開幕戦での失敗を問題視し、すぐに対策を立案。スーパーフォーミュラ第3戦・鈴鹿では、特にピット作業の改善に力を入れたという。

 改めてチームとの信頼関係を確認できた宮田は、鈴鹿サーキットで抜群の速さを見せた。レース終盤に来季のF1候補生と目される「驚異の新人」リアム・ローソンを追い抜くと、残り2周でスーパーGTのチームメイトである坪井も抜き去って初優勝を飾った。

 スーパーフォーミュラとスーパーGTの違いはあるものの、TOM'Sのチームスタッフの大半は両カテゴリーを兼務している。鈴鹿(スーパーフォーミュラ第3戦)での勝利が富士(スーパーGT第2戦)の躍進につながったのは間違いない。

【トヨタが反撃の狼煙をあげた】

 スーパーGT第2戦・富士の予選では、ナンバー100のSTANLEY NSX-GT(山本尚貴/牧野任祐)がポールポジションを奪取。決勝前のパドックでは「ホンダ優勢」の雰囲気があった。

 そのなかで6番グリッドからスタートした36号車は、1周目に接触を受けて10番手まで順位を下げてしまう。しかし、前半担当の坪井が「1台ずつ抜いていくことに集中した」と語るとおり、周回を重ねるごとに順位を上げて20周目に3番手まで浮上。さらに100号車がピットに入ったのを見ると坪井は一気にペースアップし、自分たちのピットストップ時間を稼いだ。

 この勝負どころで、メカニックも落ち着いていた。ピット作業をミスなく完璧に遂行し、100号車から首位のポジションを奪うことに成功したのである。

 その後も坪井の勢いは止まらない。着々とリードを広げて、2度目のピットストップで宮田に交代する。すでに15秒以上のリードを築いていたが、宮田も最後まで集中力を切らさず速さをキープ。終わってみれば、2番手に28.5秒もの大差をつけての今シーズン初優勝となった。

 2023 年シーズンの下馬評では、開幕前から速さを見せていたホンダ勢と昨年圧倒的な強さで王者に輝いた日産勢が有利と言われ、トヨタ勢の存在感は影を潜めていた。しかし、トヨタの"お膝元"である富士スピードウェイでふたりの「秘蔵っ子」が反撃の狼煙をあげた。

「スープラは富士を得意としているので、今回勝たないと厳しいと思っていました。予選でホンダが速かったので『まずいかも?』という感じもありましたが、勝つことができてよかったです」(坪井)

「チームの全員が『この富士で勝ちたい』と思っていたので、それが叶ってホッとしています。僕たちとしては、ようやくスタートラインに立てた。ここからの積み重ねがすごく大事になってくると思うので、1戦1戦ベストを尽くしていきたいです」(宮田)

 レース後のパルクフェルメや表彰式で、坪井と宮田の満面の笑みが印象的だった。ドライバーズポイントも首位から5ポイント差の3番手に浮上。GT500クラス王座獲得に向けて、中盤戦もトヨタ期待の「ダブルエース」から目が離せない。