浦和レッズ、ACL制覇の大きな要因 強風のなかで際立っていたGK西川周作のハイボールの処理
浦和レッズが、AFCチャンピオンズリーグ決勝でアル・ヒラル(サウジアラビア)を下し、三たびアジアの頂点に立った。
ホーム&アウェーで行なわれた決勝の第1戦をアウェーで戦い、1−1と引き分けていた浦和は、ホームに戻った第2戦で、後半開始早々(48分)に得た1点を守りきり、1−0と勝利。2007、2017年に続く3度目の戴冠は、またしても赤く染まった埼玉スタジアムの熱狂とともに成し遂げられた。
就任からわずか数カ月でチームにビッグタイトルをもたらした、マチェイ・スコルジャ監督は語る。
「(監督就任の)当初からACL決勝という大きなステージが待っていることを意識しながら、キャンプから準備をしてきた。難しいステージになることはわかっていたので、全員でハードワークしてきた。すばらしいサポーター、大きなクラブのためにタイトルを獲ることができてとてもうれしい」
ACLで3度目の優勝を飾った浦和レッズ
とはいえ、試合内容に目を向ければ、浦和が大声援の後押しを受けてもなお、苦しい展開を強いられたことは間違いない。
相手にボールを保持され、自陣ゴール前まで押し込まれる時間が長く続き、特に強風の風下に立った前半は、ボールを敵陣に運ぶことさえままならなかった。
「アル・ヒラルの能力(の高さ)を改めて感じた。正直、個人の差はあったかなと思う」
大会MVPに選出された浦和のキャプテン、DF酒井宏樹がそう明かしたのもうなずけるところだ。
右の酒井とともに、サイドバックとして相手の強力FWと対峙し続けたDF明本考浩もまた、「点がほしいなかで僕も上がりたかったが、バランスは常に考え、守備に重きを置いていた」と振り返る。
しかし、そこで大きな意味を持っていたのが、第1戦での1−1の引き分けである。
アウェーゴールルール(2試合合計スコアで並んだ場合は、アウェーゴールが多いほうが勝利)が適用されている今大会では、浦和は第2戦で得点できなくとも、0−0のまま終われれば、アウェーゴールの差で優勝を手にすることができた。
スコルジャ監督は、「正直、もっと攻撃的にプレーし、もっと長くボールをキープできてもよかった」と言いつつも、こう続ける。
「ただ、アウェーゲームでの1−1のあとだったので、余計なリスクを負う必要はなかった。それが、今日の戦略だった。ターゲットはトロフィーを手にすること。(得点を)3点も5点も取れればすばらしいが、経験あるアル・ヒラルを相手に勝つというのは、いつもできることではない」
そう語る指揮官は「コンパクト(な状態)をキープして、いい組織で守備をすることができた」と、最後まで相手に得点を許さなかった選手たちを称えた。
とはいえ、余計なリスクを負わず、ある意味で守備的な戦いを選択することは、口で言うほど簡単なことではなかった。
相手は近年、アジア最強と名高いアル・ヒラルである。地力で勝る相手に少しでも気持ちが受け身になれば、たちまちつけ込まれていたに違いない。
ましてこの日は、電光掲示板の上に掲げられた旗がちぎれんばかりに強風が吹きつけていたのである。思わぬ"事故"が起きる危険性も十分にあったはずだ。
しかし、そんな危うい状況下でも、冷静かつ慎重に勝利への道を探ろうとした浦和にとって、非常に心強い存在となっていたのが、最後尾に構える36歳、GK西川周作だった。
あわや失点という場面で見せたいくつかの好セーブは言うまでもないが、特筆すべきはハイボールの処理だ。
この日の風は、単に強いというだけでなく、おそらくその通り道も一定ではなかったのだろう。試合中、高く上がったボールが、突如おかしな動きを見せることも少なくなかった。
ボールが高く上がれば、いつ、どこで、どんな変化をするかもわからない。その恐怖は、ひとつのミスが失点に直結してしまうGKには常につきまとっていたはずだ。
ところが、西川は相手のクロスやCKなどを躊躇なく果敢に飛び出し、がっちりとキャッチ。背番号1の周囲だけはまるで無風かのように、ほとんどパーフェクトにハイボールを処理し続けた。
結果的に、浦和の虎の子1点がFKから生まれた相手のオウンゴールだったように、浦和のゴール前でも何かしらの事故が起きても不思議はなかったはずだが、その気配すら漂うことはなかった。
「風を読むのが難しかったが、自然の力に逆らうのは難しい。来たボールに対処しようと思っていた」
こともなげに穏やかな表情でそう語る、経験豊富なGKは、「風が強くても慌てることなく、クロスボールも(自分が)出られるボールは全部出てやろうと思っていた」と吐露。とりわけ西川が強調したのは、そのために必要な日々の準備が怠りなくできていたことと、それを可能にした浦和のGKチームの充実ぶりである。
「空中戦に関しては、キャッチがダメな時の解決方法が今のGKチームにはあるので、比較的落ちついて対応することができた。いつも練習でやっていることが今日の試合でも出せたのは、やっぱり浦和のGKは本当にハイレベルな競い合いをしているから。そういったところを表現できたかなと思う」
試合開始直後の前半4分、こぼれ球を処理しようとした西川は、相手選手と激しくぶつかり、転倒。仰向けに倒れたまま、しばらく動かなかった時はヒヤリとさせられたが、本人曰く、「あの接触で目が覚めた。逆に試合を楽しめたというか、入り込めた」という。
「試合前は、いつもどおりやろうとか、楽しんでやろうと思いながら(試合に)入るが、いざ(ピッチに)立ってみると、やっぱりいろんなプレッシャーを感じている自分がいるのかなあと、試合開始直後は思った」という西川だったが、ひとたび覚醒したあとは頼もしい守護神として、鬼神のごときプレーでチームを救った。
試合後の表彰式。西川はキャプテンの酒井から、「周作くんと(一緒にトロフィーを)絶対上げたい」と声をかけられた。
昨季まで浦和のキャプテンを務めた西川は、2シーズンをまたいで行なわれた今大会での栄誉を、最初に浴するに最もふさわしい選手だと酒井は考えたからだ。
「まず宏樹がひとりで上げてよ」
そう言って、現キャプテンの申し出を一度は断った西川だったが、周りの選手にも背中を押されると、照れながらも全選手の中央に立ち、酒井とふたりで頭上高く、輝くトロフィーを突き上げた。
大会史上最多となる3度目のACL制覇。6年前の優勝を知るベテランGKの活躍なしに、語ることのできない大偉業である。