第4戦アゼルバイジャンGPは、アルファタウリにとって吉と出るか、凶と出るか。

 バクー市街地の中心を走る全長6.003kmのサーキットは、そのほとんどがストレートで構成される。実質的な最終コーナーのターン16からカスピ海沿いを2kmに渡って全開で走り抜けるメインストレートがその最たるもので、薄いウイングで走るため最高速は350km/h近くに達する。


3年目の角田裕毅は気持ちに余裕がある

「ストレート車速で大きく負けていて最悪だったので、バクーではウイングをつけずに走るしかないですね(苦笑)」

 開幕から3戦にわたってストレート車速に苦しんできた角田裕毅は、オーストラリアGPのあとにそう言って苦笑いしたほどだ。

 しかしバクーには、新型のロードラッグ仕様リアウイングが持ち込まれている。中高速コーナーが存在しないバクーではダウンフォースをそれほど必要としないため、これまでの3戦とは違って薄いウイングで走ることになる。

 マシン自体のドラッグ(空気抵抗)が大きいのか、薄いウイングを使っていないから車速が伸びていないのか、今回のレースで明らかになるはずだ。

「今週末はいくつかのアップデートを持ち込んでいますし、特にリアウイングがこのサーキットに合わせたローダウンフォースパッケージにハマってくれればと思います。ここは間違いなくストレートラインスピードが求められるサーキットですけど、今シーズンは今までのところ最高速に少し苦しんでいるので、このアップデートが助けになるはずです」(角田)

 アルファタウリはむしろ、バクーは伝統的に得意としてきたサーキットだ。昨年もピエール・ガスリーが中団トップの5位、角田もリアウイングが壊れるまでは6位を走行していた。

 コーナー数は20を数えるが、実質的には12個の90度コーナーでつないだレイアウトであり、そのすべてが100km/h前後の中低速コーナー。そういった速度域での空力性能を高めたのが前回のオーストラリアで投入した新型フロアであり、今回はその性能が遺憾なく発揮されるはずだ。

【波乱は願ったり叶ったり】

 角田は続けてこう語る。

「過去2年間のレースを見ても、ここでは常にいい結果を出してきている。コース特性としても僕らのマシンによく合っていると思いますし、今週末もポイント獲得が可能だと前向きに考えています。ここはいろんなことが起きますし、スプリントレースに加えて新しいスプリント予選フォーマットも導入されるので、さらにドラマが期待できるんじゃないかと思います」

 アゼルバイジャンGPでは、今季初めてスプリントフォーマットが採用される。

 土曜に100kmのスプリントレースが開催されるのは昨年同様だが、今年は決勝のグリッドは金曜予選で決め、スプリントレースとは独立させた。これによって、スプリントでアグレッシブに攻めることを可能にしようというわけだ。

 それに加えて、今年は土曜の朝にスプリントレース用の予選『スプリント・シュートアウト』を開催する。

 従来の予選よりもやや時間が短く、Q1とQ2ではミディアムタイヤ、Q3ではソフトタイヤの使用が義務づけられ、不確定要素がやや多くなりそうな予感もある。

「土曜日はベッドから起きて、朝ごはんを食べたらすぐにスプリント予選なので、目を覚ますためにも間違いなくダブルエスプレッソ(通常のエスプレッソの倍の量)が必要でしょうね(笑)。でも、スプリント予選自体はワクワクしています」

 真っ向勝負ではQ3進出が容易ではないアルファタウリにとって、こうした波乱の要素というのは歓迎すべき点だ。ライバルが波乱に巻き込まれたり、ミスを犯して自滅したりするなかで、自分たちが完璧な仕事をすれば本来の位置よりも上位にいくことができる。その結果としてポイント獲得が果たせれば、願ったり叶ったりだ。

 レース週末としてはフリー走行がたったの1回しかなく、金曜の午後にはもう予選が行なわれ、パルクフェルメ下に入ってセットアップの変更ができなくなる。これも完璧なセットアップができないままレース週末を過ごすことになるチームが出てくる、という波乱要素のひとつだ。

 もちろんそれだけでなく、ドライバーもドライビングのリズムを掴んでいくのが素早くなければならない。たった60分の走行だけで、コンクリートウォールに囲まれた350km/hのサーキットで予選フルアタックに臨まなければならないのだ。

【新フォーマットで大荒れ?】

 それでも角田は気負うこともなく、悲観することもなく、リラックスした様子で「いつもどおり戦うだけ」と簡単に言ってのけた。

「僕としては今週末も、いつもと同じように前向きな気持ちで臨むつもりです。タフな条件ではありますけど、全員が同じ条件ですし、ドライバーとしては素早く適応することがすごく重要になると思います。

 ふだんはフリー走行が3回あって徐々に自信をビルドアップしていきますけど、今回は予選までにフリー走行が1回しかありませんし、そのなかで自信をビルドアップする必要があります。チームにとってもセットアップをアジャストする時間はほとんどないので、FP1の最初に用意しているセットアップがいいことを願っています。

 もしFP1のセットアップがうまくいかなかったら、そのまま予選で理想とはほど遠い状態で走るレース週末になってしまうリスクが誰にもあります。でも、セットアップがよければアドバンテージになりますから」

 さらりとそう言いきれるのは、自分にはそれができるという自信があるからだ。開幕3戦で完璧な仕事をこなし、それが当たり前のルーティーンになっているからだ。

 ただでさえ毎年荒れるアゼルバイジャンGPが、今年はスプリントフォーマットでさらに荒れることが予想される。さらには、スプリント・シュートアウトの導入がそれに拍車をかける。

 そんななかでも3年目の角田裕毅は、自信に満ちた走りを見せてくれそうだ。