浦和レッズの勢いを象徴するドロー 新指揮官のもと、交代選手が活躍し、17歳の新鋭が躍動できるのはなぜか
結果は1−1の引き分け。ともに勝ち点1を分け合った試合は、しかし、内容や展開に目を向ければ、両者がまとう勢いの違いが色濃く反映されたものとなった。
J1第9節、浦和レッズが敵地・等々力陸上競技場に乗り込み、川崎フロンターレと対戦した試合は、前半から互いの守備がうまく機能し、一進一退の攻防が続いていた。
それほど激しいプレスを仕掛けるわけではない。だが、高い位置から相手のビルドアップを制限することで、攻撃をラクには組み立てさせない。そんな巧みなディフェンスのハメ合いである。
拮抗した試合展開。そこで、両者の差となって表れたのは、アタッキングサードに入ってからのプレーだった。
川崎の攻撃が、スピードアップするタイミングを見出せないまま終わってしまうことが多かった一方で、浦和はサイドでうまくコンビネーションを作り出し、決定機と呼べるシュートチャンスを作り出した。
攻撃回数は互角でも、チャンスの数では浦和が勝る。そんな流れで試合は進んでいた。
それだけにハーフタイム直後の後半48分、FW家長昭博が個人技で右サイドを突破し、MF脇坂泰斗のゴールで先制できたことは、川崎にとっては願ってもない展開だったはずだ。
「失点のあと、ゲームのリズムを作れず、時間を無駄にしてしまった。少しナーバスになり、決定機を作れなかった」とは、浦和のマチェイ・スコルジャ監督の弁である。
その後、FW興梠慎三がペナルティーエリア内で倒されながら、PKをとってもらえなかったことも、試合の流れが徐々に川崎へと傾いていくのを感じさせた。
しかし、前節まで2連敗中で13位に低迷する川崎に対し、浦和は直近のリーグ戦6試合を5勝1分けで4位につける。勢いの差を形にしたのは、交代選手の活躍だ。
スコルジャ監督は「ベンチの選手たちが力になってくれたのはうれしい」と言い、こう続ける。
「チームスピリット、メンタルのレベルは非常に高いものがあった。流れを変えようとする、あるいは逆転しようとするには非常に大きなエネルギーが必要だが、選手たちはそれに向かう姿を見せてくれた」
浦和に同点ゴールが生まれたのは、後半81分。後半73分にFWブライアン・リンセンを、後半80分にMF早川隼平、MF柴戸海らを、相次いで交代投入した直後のことだ。
左MFに入った早川が、タッチライン際でうまく周囲とパスをつないでボールを前進させると、オーバーラップしていたDF荻原拓也へパス。これを受けた荻原がゴール前へクロスを送り、最後はリンセンがワンタッチで仕留めた。
「オギからすばらしいボールが来た。僕にとってはイージーゴールだった」
殊勲のリンセンもチームメイトを称えたように、完璧なお膳立てによる得点だった。
左サイドで大役を果たした早川は、まだ浦和ユースに所属する17歳。4日前のルヴァンカップ湘南ベルマーレ戦(1−1)で初ゴールを決め、この日のJ1デビューをつかみとったばかりの新鋭である。
スコルジャ監督の抜擢を受けた高校生が期待に応え、すぐさま大仕事を成し遂げてしまうあたりに、今の浦和の勢いが象徴されている。
J1リーグデビュー戦で大仕事をやってのけた早川隼平
思えば、浦和が今季初勝利を挙げたJ1第3節のセレッソ大阪戦(2−1)。値千金の勝ち越しゴールを決めたのも途中出場の23歳、MF安居海渡。リーグ戦出場が通算7試合目の安居にとって、それが記念すべきプロ入り初ゴールだった。
今季新たに浦和にやってきたポーランド人指揮官は、過去の実績にとらわれることなく、選手をフラットに評価。そして、起用された選手がそれに応える。
監督と選手との信頼関係が好循環を生み、チームに勢いをもたらすばかりか、戦力の厚みにもつながっているのは確かだろう。
今季J1開幕戦からいきなりの2連敗スタートとなった時は、どうなることかと心配された浦和だったが、当時の不安はすでに過去のものとなっている。
川崎戦を終えた浦和は、その足で空港へと向かい、サウジアラビアへと旅立った。言うまでもなく、AFCチャンピオンズリーグ決勝のアル・ヒラル戦に臨むためだ。
スコルジャ監督が、力強い言葉を口にする。
「正直、浦和で最初に仕事をした日から(ACLの)決勝のことは意識していた。沖縄でのキャンプから、難しいゲームにチャレンジする準備をしてきた。このチームはタイトルに向けてしっかり戦うことができると信じている」
試合後は、チームバスの出口に詰めかけた多くの浦和サポーターが花道を作り、決戦の舞台へと向かう選手たちを見送った。そこが敵地であるにもかかわらず、だ。
決戦前最後の試合を、浦和は勝って日本を発つことはできなかった。
しかし、右肩上がりの勢いを実感させる引き分けは、決して悪くない"出陣式"となったのではないだろうか。