英智が福留孝介や荒木雅博らに感じていた「感覚の近さ」 今のドラゴンズが「変化していく上で必要」な期待の若手も語った
ドラゴンズ黄金期の名外野手
英智インタビュー 後編
(前編:落合博満に「お前ならあれくらいは捕らないと」と認められるまで「5年必要だった」>>)
落合博満政権下のドラゴンズで強肩・俊足の外野手として活躍し、引退後はコーチとして後進の育成に腐心した英智(ひでのり)氏。インタビューの後編では、英智氏が落合監督から学んだ野球観、プロ野球史に残る外野守備の真髄、現在のドラゴンズの若手選手に対しての想いなどを打ち明けた。
選手、コーチとしてドラゴンズひと筋24年を過ごした英智氏
――英智さんの中で、守備に特化した選手として起用されることに葛藤はありましたか?
英智:それはまったくないです。とにかく「試合に出るためにはどうすればいいのか」ということを常日頃から考えていたので。監督の立場で考えた時に、走・攻・守、平均的に無難に揃っている選手よりも、何かに特化した選手がいるほうが、いろんな戦術を取れると思うんです。
将棋でいうなら、飛車や角ばかりだと攻めづらいし、いろんな駒があったほうが王手に近づく。僕はそこにやりがいを感じていたし、あの時のドラゴンズにはそういう意識の選手も多かったと思います。適材適所で自分の仕事をする、というような。
――当時のチームでは福留孝介さん、アレックス・オチョア、英智さんと、球史に残る名手たちが広い名古屋ドームの外野を固めていました。
英智:落合さんは戦略として、相手チームに「こうなったら勝てない」と思わせることを重視していたとも感じます。ウチでいうなら、9回に岩瀬仁紀さんが出てきたら相手は打てない。外野陣も鉄壁で隙がない、というのもそのひとつだったと思います。
特に福留さんは、自分が今まで一緒にやってきた外野手だと、一番上手な選手でした。一見すると派手なプレーはないんですが、守備位置の読み、一歩目の正確さや打球判断、捕ってからの速さなど、一緒に守っていて安心感がすごくあった。野球脳の高さというか、考え方の深さもすごく勉強をさせてもらいました。あとは相手を見て野球をする、という感覚が近かったということも大きいですね。
――落合監督時代は、そういった野球観や考え方が共有されているチームだった?
英智:「守り勝つ野球をする」ということを、選手は理解していたと思いますね。実際に接戦で勝つことが多かったですが、選手としてやることは明確だった。何をするべきか、ということを理解していたし、そのために自分に必要なこと、求められることも理解していました。
要はすごくシンプルに、「シーズンを通して勝つためにどうするのか」ということに特化した集団でした。谷繁元信さんのリードも、長いシーズンや次戦以降まで考えてのものでしたし、ピッチャー陣も無駄な場面で牽制球を重ねたり、不要な四球を出すというようなことはほとんどなかった。バックも守りやすかったですよ。
――英智さんが考える外野守備の名手や、参考にした選手の名前を挙げるなら誰でしょう?
英智:僕が一番参考にしたのは、元ヤクルトの飯田哲也さんですね。タイプ的には僕とは違うんですが、技術が高くて、とにかく捕ってから次の動作に移るまでがとても速かった。飯田さんの守備を見て、動き方や守備位置をよく研究していましたね。
あとは元巨人の高橋由伸さんも「すごく上手いな」と思って見ていました。現役の選手でいうなら、楽天の辰己涼介選手がいいな、と思います。肩の強さなど純粋に身体能力も高いし、見ていて楽しいプレーをする選手です。
――コーチとしてもドラゴンズに関わりましたが、落合野球で培われた野球観が活きる部分も多かったんでしょうか。
英智:そうですね。そこがベースにあることは間違いないです。それは荒木雅博さんや森野将彦さん、福留さんを見ていても同じことを思いますね。例えば、配球を読んで守備位置を変えたり、試合展開に応じたプレーをするということは、コーチになってベンチで話していても、荒木さんや福留さんとは「感覚が近い」と感じることは多々ありました。
本来ならば、落合さんの時のように練習ももっとやってほしいとは思います。ただ、それぞれの監督の考え方や怪我に対する意識も違うので、一概には言えないのが難しいところです。
――現在のドラゴンズを見ていると、当時のような一芸に秀でた選手の存在は限定的なようにも映ります。
英智:例えば6年目を迎えて、"代走の切り札"的な使われ方をする高松渡選手。開幕戦で好走塁を見せて勝利に貢献しましたが、「チームとして彼の使い方への準備が足りない部分もある」とは外から見ていて思います。今季は彼が外野守備につくこともありますが、投手陣は彼がどれくらい外野を守れるのかということを果たして知っているのかな、と。知られてないなら、「高松選手が外野の練習もしてますよ」ということを、まず投手陣に知ってもらうようなやり方を考えないといけない。
キャンプ中は怪我の影響もあったかもしれませんが、今の使われ方なら、外野練習を計画的にやるべきでしょう。高松選手が守れるなら守備固めの枠がひとつ減り、戦略に幅が出来る。僕はそういったプロセスや準備の部分が大切だと思って野球をやってきたので、高松選手のような選手はその起用方法、本人の意識と準備でより輝ける場面もあると思いますよ。
――外野陣の若手として、昨季ブレイクした岡林勇希が出てきました。彼の場合はプロ入り後に投手からの転向で、コーチとして思い入れも大きかったのかと思いますが。
英智:岡林選手に関しては期待も大きいだけに、もっとできる部分があると思っています。能力を出し切っているとは言いがたい。守備もまだまだ細かいところでやることがたくさんあるし、ゴールデングラブ賞は獲りましたが、課題はあります。本人がこれに満足することなくやってくれればいいですし、「自分には足りないところがあるんだ」という意識でもっと練習すれば、本当に手がつけられない選手になっていく。
――最後に、教え子であるドラゴンズ期待の若手を教えてください。
英智:石川昂弥選手なんかは、本当に能力が高いし、彼にしかないものをたくさん持っている。怪我をして回り道をしたかもしれませんが、怪我があったからこそメンタルの部分ですごく成長しているとも感じます。
あと、個人的には感情論も込みで、ブライト健太選手には期待してしまう。去年は怪我で苦しいシーズンでしたが、その分、ブライト選手とは多くの時間を過ごしてきました。彼はとにかく元気で明るいし、「うまくなりたい」と貪欲だから練習量も多い。ミスを恐れずに、ひと振りで取り返してくれるような存在感がある。
人間性もすごく素直ですよ。まだできないこともありますが、それを何とかしようという努力を惜しまない。チームが変化していく上で、今のドラゴンズに必要なのは彼のような選手だとも思いますね。
【プロフィール】
英智(ひでのり)
1976年5月9日、岐阜県生まれ。県岐阜商から名城大に進み、1998年に中日からドラフト4位指名を受け入団。2004年にゴールデングラブ賞を獲得し、代走、守備固めなどでも活躍。2012年限りで現役を引退し、ドラゴンズ二軍の外野守備・走塁コーチに就任。その後も各カテゴリーのコーチとして後進を育てた。今年からは解説者として活躍している。